ヒプノシスマイクが表現してきたラップミュージックの奥深さ 各ディビジョンごとに分析

ヨコハマ・ディビジョン

 現在唯一、東京以外のディビジョンとして結成されているのがヨコハマ・ディビジョン。ベイサイド・タウンである横浜のチンピラ×警官×軍人で構成されたこのチームの名はMAD TRIGGER CREWだ。楽曲提供には、『フリースタイルダンジョン』などで知られる「プリンス・オブ・ヨコハマ」サイプレス上野、HOME MADE 家族のKURO、トラックメイカー集団・BUZZER BEATSのCHIVA、Romancrewの元メンバーALI-KICK、そして日本のヒップホップ黎明期からZEEBRAとともに生き続けてきたUZIと、長きに渡りヒップホップシーンを生き続けてきた面々が名を連ねている。

ヒプノシスマイク「BAYSIDE M.T.C」 / ヨコハマ・ディビジョン MAD TRIGGER CREW Trailer

 そういったことも関係してか、彼らの楽曲はどことなくオールドスクール寄りだ。「G anthem of Y-CITY」のメロディラインとギターサウンドは歌謡曲の香りが漂うし、「ベイサイド・スモーキングブルース」のトランペットソロとスローなグルーヴは哀愁が漂い、「What’s My Name?」はWu-Tang Clanを思い出させるほどに野太いベース&ドラムループが印象的なブーンバップサウンドだ。「ヨコハマシティのギャング・アンセム」と歌う楽曲が物語るように、彼らは、黄金期とも評される90年代ヒップホップの匂いを最も強く発するチームだと言えるだろう。

Wu-Tang Clan - C.R.E.A.M. (Official Music Video)

イケブクロ・ディビジョン

 最後はイケブクロ・ディビジョンである山田3兄弟だ。彼らのブラザーフッドな絆を基にした歌詞は、一種の危うさを感じさせながらも、美しい兄弟愛を語り、聴くものの心を捉える。ファンの方ならご存知だろうが、イケブクロ・ディビジョンのBuster Bros!!!楽曲を多く作詞している好良瓶太郎は、山田一郎の声優を務める木村昴の変名だ。

ヒプノシスマイク「Buster Bros!!! Generation / イケブクロ・ディビジョン Buster Bros!!!」Trailer

 そして、彼らのなかでもっともエッジーな楽曲と言えるのが、山田三郎の「New Star」であろう。同曲は、音楽ユニット□□□の主催を務める三浦康嗣が手がけたもの。サンプリングにはあのクラシック楽曲「G線上のアリア」を使用している。一聴すればすぐにわかるであろうあの清廉とした音楽が、作曲者の手にかかればヒップホップへと大胆に生まれ変わってしまう。この驚きを真新しく感じられる方も多いだろう。

 三浦康嗣といえば、ラッパー環ROYへの作曲参加や、Negicco、夢みるアドレセンス、私立恵比寿中学だけでなく声優関係のプロジェクトにも楽曲提供している。なかでも女性声優の高野麻里佳、高橋李依、長久友紀からなるイヤホンズ「あたしのなかのものがたり」は、声優による語り/歌/ラップ/演技が高次元にまとまった1曲だ。そして「New Star」ではポエトリーリーディングなスタイルを取り、ラップミュージックの奥深さを体現させる楽曲となった。これも三浦の手腕によるものなのだ。

【イヤホンズ】「あたしのなかのものがたり」Lyric Video【イヤホン推奨】

 『ヒプノシスマイク』は、CD作品/ライブ活動を皮切りにして作品世界を広げてきている。ただ、今月12月になって初となる漫画作品が発売されたことからもわかるように、まだまだスタートしたばかりの作品だ。想像の余地が多くあるなかで、公式作品がいったいどのような創造と筋を示してくれるのか、これからの展開を楽しみにしていきたい。

■草野虹
福島、いわき、ロックの育ち。『Belong Media』『MEETIA』や音楽ブログなど、様々な音楽サイトに書き手/投稿者として参加、現在はインディーミュージックサイトのindiegrabにインタビュアーとして参画中。
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