長谷川白紙という鮮烈な才能 初CD『草木萌動』を小野島大が解説

小野島大が長谷川白紙の初作品を解説

時代も年代も置き去りにする、新しい才能の誕生

 ジャズ〜フュージョン色濃いドリルンベースという意味ではSquarepusherことトム・ジェンキンソンに近い。ジェンキンソンはベース、そして長谷川はピアノの、それぞれ優れたプレイヤーであり、頭でっかちな打ち込み宅録小僧にとどまらない肉体性をもった音楽をやる点でも共通点がある。だがSquarepusherのような(少々オールド・スクールな)ノイズ・アヴァンギャルド指向も、また「どうだ凄いだろう」という自己顕示欲めいたもの(そのお山の大将感がSquarepusherの魅力でもあるのだが)も、長谷川には薄そうだ。もっとしなやかで中性的で自然でバランス感覚に富んでいる。

 また変拍子バリバリのプログレ〜ジャズ・ロック的演奏という点でいえばザッパやカンタベリー一派にも近い。だがザッパには長谷川のようなゆったりしたポップセンスはない。ザッパみたいな変態トラックなのに、J-POPの一変種にもカテゴライズされるような歌謡性(と、あえて言う)が合体したのが長谷川白紙の面白さなのだ。

 またゴリゴリのドリルンベースなのに全然殺伐としない、むしろファンタジックとも言えるポップ性を感じさせる点ではDÉ DÉ MOUSEに近い。DÉ DÉ MOUSEが歌も歌うアーティストなら、長谷川白紙に近い表現になっていたかもしれない、という印象もある。あるいは、ボカロPやアニソンで自己形成した世代が(という言い方は雑すぎるが)、ブレイクコアやドリルンベースを通過して作り上げた音、という形容もできるかもしれない。だがその突き抜け方は、他の凡百とは圧倒的にちがう。こんな面白いアーティストが、かつて傘下のサブライムレコーズからケンイシイやレイ・ハラカミ、ススム・ヨコタといった日本のエレクトロニック・ミュージックの歴史に残る重要アーティストを送りだしたミュージックマインから出てきたというのも興味深い。

 長谷川はライブではピアノの弾き語りに近い演奏もやるという。彼にとってさまざまなサウンド上の装飾を除いて最後に残るものが「歌」なのだとしたら、今から約20年前、やはり19歳でCDデビューした七尾旅人の姿をどうしてもそこに重ねてしまう。煌めくように圧倒的、平成という時代も、テン年代というディケイドも置き去りにしてしまうような新しい才能の誕生。大言壮語めいた言い方になるが、我々はそうした瞬間に立ち会っているのかもしれない。気分は爽快である。

長谷川白紙『草木萌動』

■商品情報
長谷川白紙『草木萌動』
12月19日発売
¥1,620(税込)
1.草木
2.毒
3.它会消失
4.妾薄命
5.キュー
6.はみ出す指

公式Twitter

■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebookTwitter

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