韻シストから感じた、20年間“好きなこと”を貫き続ける姿勢と重み 『IN-FINITY』ツアー東京公演

韻シスト、“好きなこと”を貫き続ける重み

 ……とまぁ、物々しく書き出してしまったが、この日はめちゃくちゃ楽しかったのだ。「楽しかった」という頭の悪い書き方をしてしまうくらい、祝祭感に満ちた、楽しいライブだった。「踊るtonight」が始まった瞬間、その煌びやかなメロディとビートに誘われてフロアを包み込んだダンサブルな熱狂。「Old school-lovin'」の演奏前、サーフィンやスケボー、レゲエなどが盛んだというBASIの地元・岸和田トークから続いて披露されたのは、ラップを世界中に広めるきっかけとなったThe Sugarhill Gangの「Rapper’s Delight」。さらに「Don’t worry」での、20年というバンドの年輪がそのまま「優しさ」へと直結したような包容力溢れる演奏と、その優しさに包まれたフロアから生まれた一体感溢れる合唱。

 そして、キュートなソウルポップサウンドにフロア中がハンドクラップで応えた「Don’t leave me」……などなど、ヒップホップが本質的に持つ「自由」をそのまま体現したような特別な瞬間が立て続けに巻き起こっていく。さらに「Dear」では、1度始まった演奏を中断させて、Shyoudogが、関係者エリアでライブを観ていた、韻シストが参加するレーベル「Groovillage」の主催者でもあるPUSHIMを急遽ステージに呼び込むというサプライズ(ハプニング?)も。結果として、PUSHIMメインボーカルで「Dear」を披露するという展開は鳥肌ものだった。

サッコン
BASI
TAKU
SHYOU
TAROW-ONE
Rickie-G
previous arrow
next arrow
 
サッコン
BASI
TAKU
SHYOU
TAROW-ONE
Rickie-G
previous arrow
next arrow

 ……そう、本当に楽しかったのだ。ただ、その「楽しさ」の裏に、彼らが貫いてきたものの圧倒的な芯の太さを、その演奏からは確かに感じた。こうやって仲間たちと音楽を交わし、言葉を交わし、酒を交わす。日々の中で、その楽しさや喜びを守り、貫き通すことがどれほど難しいことか。ふたりのMC、BASIとサッコンの、ときに緩く、ときに鋭い絶妙な間合いも、TAKU、Shyoudog、TAROW-ONEの楽器隊が生み出すしなやかなアンサンブルも、その全てが、この喜びを守り、貫き通すために20年の歳月をかけて選び取られた選択肢であり、熟成された技なのだと、この日のステージを観てまざまざと感じさせられた。

 アンコールでは、この日のゲストアクトRickie-Gと共に、Rickie-Gの名曲「Life is wonderful」がコラボで披露された。ステージ上はもはや飲めや歌えの大騒ぎ状態だったのだが、その中で酔っぱらったRickie-Gが本当に嬉しそうに言っていた、「韻シストは、メンバーそれぞれが好きなことをやっている感じがするんだよ。だから俺は韻シストが好きなんだ」という言葉。きっとRickie-Gも、「好きなことをやる」ことの難しさ、それを20年続けていくことの重みをヒシヒシとステージ上で感じていたのだろう。

 決して軽くない20年。決して軽くない音楽。しかし、それを爽やかな風のように私たちの耳に届けてみせる韻シストのを、これでもかと感じさせられる夜だった。

■天野史彬(あまのふみあき)
1987年生まれのライター。東京都在住。雑誌編集を経て、2012年よりフリーランスでの活動を開始。音楽関係の記事を中心に多方面で執筆中。Twitter

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる