サイプレス上野が語る、仲間と作ったシーンとこれからに向かう姿勢「気持ちは青春時代のそのまま」

サイプレス上野、青春との向き合い方

まだまだ俺らみたいなやつらは全国にいる 

ロベルト吉野

ーー「新生契り」という曲は、MPCプレーヤーのSTUTSさんとコラボ。

サイプレス上野:もともとSTUTSの相方をやってるラッパーのKMCが俺の後輩で、ライブで一緒になることもよくあって。STUTSのプレイも観ていて、前から「上手いな〜」って思っていたし、NYでやってる映像も観せてもらって、すごく格好良かったんです。それでイベントでしゃべったり、俺がやってるラジオ番組にゲストで来てもらったりしてて、STUTSの出したアルバムも良かったから、一緒に何かやりたいねって言ってて。

ーーSTUTSさんのMPCもすごいですけど、吉野さんの会話音を用いたトラックがすごいです。

サイプレス上野:そうそう(笑)。「ついにロベルト吉野の気が触れた!」みたいな(笑)。もともとはちゃんとしたセリフが入ってたんですけど、そのセリフに会社からNGが出てしまって、苦肉の策としてピー音の代わりにスクラッチを入れたら、あまりにNGワードが多すぎてああなってしまいました。ライブではSTUTSに来てもらって、MPCも生でやってもらおうと思っているので、ライブではぜひSTUTSの神業を楽しみにしてほしいです。

ーーSTUTSさんは何と?

サイプレス上野:「せっかく作ってもらったけど、崩されるよ」と、最初に話してあって。だから、こうなることはSTUTSには了解済みです。実はSTUTSが作ってくれたトラックは3番まであって。3番のトラックは格好良すぎて、「契り」シリーズで使うのはもったいなくて(笑)。別に1曲作ろうと思って取ってあります。それもそのうち、どんな曲になるか楽しみにしてほしいです。

ーー「ムーンライト feat.mabanua」は、メロウでしっとりした感じ。mabanuaさんとは?

サイプレス上野:mabanuaくんがやっているOvallというバンドとライブでよく一緒になっていたし、彼個人の作品も好きで買っていて、自分がDJをやる時にかけたりしていたんです。それで決定的だったのは、RHYMESTERのアルバム『ダンサブル』で「Future Is Born feat.mabanua」を手がけていたことで。RHYMESTERのツアーのファイナルを観に行った時に久々にちゃんと顔を合わせて。使ってるスタジオも一緒だったんだけど、スタジオだとせわしなく「チッスチッス」って、お互い忙しいから挨拶程度で。でもそのツアーの時は、少し話すことができて、一緒にやれたらって話をして。

ーーファルセットっぽいボーカルがいいですよね。実際に制作はどうでしたか?

サイプレス上野:それこそmabanua印と呼べるオケで、歌もああいう淋しげがある感じが仮歌からあって、それがすごく良くて。それだけにリリックは悩みましたね。そんなに文字数があるわけではないけど、淋しくなりすぎても嫌だし、かと言ってあのオケとあのサビ歌に対して、俺がラップでふざけるわけにもいかないし。

ーーそれにしても「ムーンライト」というのは、ロマンチックですね。

サイプレス上野:まあ、たまには(笑)。

ーーイメージした情景としては、どんなものだったんですか?

サイプレス上野:江ノ島に「POP喫茶OPPA-LA」という、ライブもできるカフェがあって、そこでよくイベントを開催するんですけど、海外からパンクバンドやDJもライブをしにくるところで。立地も良くて、よく情報番組で「今の江ノ島のお天気はこちらです」って江ノ島の映像が映る時の、お天気カメラがあるビルの中にあるお店なので、全面ガラス張りで江ノ島が一望できるくらい、いい景色なんです。そこで自分たちのイベントを開催したり、お店主催のイベントに出たりとか、特に何もなくても普通に飯を食いに行ったりもしていて。しかもパンケーキがめちゃめちゃ美味くて、前のアルバムの曲でリリックに書いちゃったくらいで。

ーーパンケーキを食べるんですか?

サイプレス上野:そんなイメージないでしょ(笑)。でもOPPA-LAだけは美味いから食っちゃうんです。そこでデイタイムのイベントをやると、江ノ島に夕日が沈む風景が見られるし、夜のイベントなら朝日が昇るところが見られたり、それがいいんですよね。この曲は、その情景をイメージしているところがあるんです。

ーーいいですね。OPPA-LA行ってみたくなりました。

サイプレス上野:ぜひ来てください。カレーも美味しくて有名なんですよ。俺はだいたい食べるのは、タンドリーチキンとかかな。たまに強烈なイベントもやってますけど(笑)。THE BLUE HERBのBOSS くん(BOSS THE MC)がDJユニットでイベントをやった時は、地元組の俺らは12時間以上軟禁状態で家に帰してもらえなかったですから。朝日昇りすぎて、もはや昼みたいな。先輩の可愛がりです(笑)。

ーーああ〜上下関係が。

サイプレス上野:地元だけでも大変なのに、北海道からきて可愛がられる(笑)。超楽しかったけど、でも、それ以外はいいお店です。チャラチャラした輩みたいな奴は入店お断りなので、カップルとかでも安心ですよ。お店に行ったことのある人は、「あ〜知ってる!」って思ってくれたら嬉しいし、曲を聴いてお店を調べて行ってくれてもいいし。そういう地元の名所が広がったらうれしいです。

ーー「RUN AND GUN pt.2」ではBASIさん、HUNGERさんをフィーチャー。

サイプレス上野:前作の「pt.1」は横浜の若手と作ったので、「pt.2」は、2人とも俺より2〜3コ上の先輩ですけど、トラックのLIBROくんは東京、HUNGERくんは仙台で、BASIくんは大阪、俺は横浜といった感じで、各地でやってきているメンツで作りました。さっきの“傾き”の話じゃないけど……俺たちって、いわゆるヒップホップのシーンとは違うところでやってきた感じがあって、「でもそれが、正解になってるっすよね、俺たち」みたいな感じで、話を持ちかけていって。

ーー場所は違えど、同じ心意気を持ってやってきたみたいな。

サイプレス上野:そうそう。地元でもメインの人たちがいるから自分たちに場所はなかったけど、それでもやり続けてきましたよねって。もともと引き合うと言ったら変だけど、話が合うようなところがあって。使う言葉が一緒って言うのかな。

ーー上野さんのようなスタンスで活動するのは、やっぱり孤軍奮闘みたいなところがあって。それが仙台や大阪とか地方に行ったら、俺みたいなやつがここにもいたんだなと。

サイプレス上野:ここにも仲間がいたって感じですよね。きっと参加してくれた3人も、俺に対して同じように思ってくれたと思うし。これは10年くらい前の話だけど、大阪でライブをやった時に、BASIくんが1人で遊びに来てくれたのが最初なんです。お互い名前は知っていたけど顔は知らなくて、ライブ終わりに楽屋にきてくれて「誰だろう」と思っていたら「こんばんは。BASIです」って。「どこのバシさんですか?」って聞いたら「韻シストのBASIです」って言うんで、「ああ! すいません、ありがとうございます。でも、嘘でしょ!」って驚いてしまって。そうしたら「大阪でやるって聞いたから、来たんだけど」って。そこで初めて連絡先を交換して。注目してくれていたのが、すごくうれしくて。

ーー自分たちのシーンが、そうやって少しずつ広がっていった。まさしくそれが感じられる曲ですね。

サイプレス上野:はい。まだまだ俺らみたいなやつらは、全国にいっぱいいますから。どんどん広げていきたいですね。でも、変に集まりすぎても困るけど(笑)。

ーー制作はデータのやりとりで?

サイプレス上野:いえ、実際に東京のスタジオに来ていただいたんです。スケジュールの問題で、全員一度にというわけにはいかなかったですけど、LIBROくんとBASIくんは同じ日で。みんな仕事が早いんで、レコーディングもすぐ終わったので、LIBROくんとBASIくんはその日が初対面だったんだけど、そのまま飲みに行って仲良くなったって、あとで聞きました。

ーー上野さんがキューピッドに(笑)。

サイプレス上野:なっちゃいました(笑)。でも、俺もその場にいたかったな〜。

ーーテーマは決めておいて?

サイプレス上野:そうです。「走り続けている俺ら」みたいなテーマを軽く決めておいて、俺のバースを入れたものを事前に送ってあって。それを元に各自で考えてきてもらったんですけど、もうバッチリのものを返してくれたので、完成したものを聴いた時はすげえ感動しました。俺の気持ちがちゃんと伝わったんだな〜って。それに対して100点以上で返してくれたのもうれしくて。

ーー熱さがありますね。

サイプレス上野:そうですね。内に秘めたるものを、ブワ〜ってここで解放してくれている感じがして。早く一緒にライブでやりたくなりました。

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