中村佳穂、冬にわかれて、Boygenius……女性SSWが様々なアプローチで届ける新作アルバム5選

イナラ・ジョージ『Dearest Everybody』

イナラ・ジョージ『Dearest Everybody』

 エレクトロポップデュオ、The Bird and the Beeのボーカル、イナラ・ジョージの9年振りのソロアルバム。父親はLittle Featのローウェル・ジョージで、名付け親はジャクソン・ブラウンというアメリカ西海岸ロックの遺伝子を受け継いで育ったイナラ。同時に現代的なポップセンスも吸収していて、アルバムではアコースティックな楽器の音色とエレクトロニックなアプローチが自然に融合している。丁寧に作り込まれたサウンドに、イナラの優しくて飄々としたユーモアも感じさせるフレンドリーな歌声がフィット。プロデュースを手掛けているのは、彼女とは長い付き合いで映画音楽の作曲家としても活躍するマイク・アンドリュースで、曲ごとにショートムービーを楽しむような味わいがある。本作は海外では配信とアナログのみのリリースだが、日本のみでCD化。さらにボーナストラックが2曲が加わっているのも嬉しい。

Inara George - "Young Adult" (music video)

フロレンシア・ルイス『Rumiante』

フロレンシア・ルイス『Rumiante』

 最後はアルゼンチン出身のシンガーソングライター、フロレンシア・ルイス。今回は前作『Parte』でコラボレートしたキーボード奏者のモノ・フォンタナを再び招きつつ、彼女の初期作品をサポートしたエレクトロアーティスト、セバ・ランドロも参加。曲によってパートナーを変えて共演し、1曲だけ3人でコラボレートしている。ランドロとの共演曲は、エレクトロニックなビートを活かしたモダンなサウンド。フォンタナとの共演曲はシンセやピアノなどキーボードを重ねてふくらみのある音響空間を生み出して、とそれぞれに特徴はあるが、繊細でミニマルなタッチは共通していて、フロレンシアのしなやかな歌声は、楽器のひとつのようにサウンドに溶け込んでいく。同郷フアナ・モリーナのように実験的な音楽性を持ちながらフェミニンで繊細な歌は、オルタナティブな子守唄のようだ。

Lugar nuevo/flOrencia Ruiz/Rumiante (2018)

■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。

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