趣里の身体が奏でる音楽ーーダンスを披露した映画やMVから魅力を探る

趣里の身体が奏でる音楽

世武裕子「1/5000」 ミュージックビデオ 『生きてるだけで、愛。』エンディング・テーマ

 バレリーナを志し海外留学するも、怪我によってバレエを諦めた経験を持つ趣里さんが、寧子の絶望と共鳴し、「この役は絶対に自分が演じたい」(『生きてるだけで、愛。』パンフレットインタビューより)と、熱意をもって寧子を演じきっていたこと。

 朝が来ているのにどうしても起きられない、布団から出られない。寝てはいけない時に眠ってしまい、眠らなくてはいけない時には目が冴えて、いつの間にか外は明るくなっている。光り輝く朝焼けの虚しさ。普通の人が普通にできている日常生活がどうしてもできない自分への絶望感。自分は自分から決して逃げられない、どこまで行っても自分でしかない辛さ。映画の中の風景が美しければ美しいほど、その絶望感が際立ち、息が詰まりそうでした。

 そんな中で、爪の先と爪の先がほんの一瞬触れ合うくらい微かに、自分以外の存在と繋がれる時間が人生にあること。津奈木(菅田将暉演じる寧子の恋人)が、滅茶苦茶な寧子を美しいと感じたその一瞬。

 絶望が深ければ深いほど、一瞬の輝きは強く刻まれます。

 寧子のようにエキセントリックな表し方でなくとも、「生きているだけでしんどい」という絶望は誰もが味わうもの。

 この世のすべての人が、一人一人別々の形の絶望を抱えているけれど、わかりあえる一瞬がある。

 趣里さんの身体が奏でる音楽がフィルムに焼き付けられる時、その一瞬が自分の人生にも存在するかもしれないと、信じることができるのです。

■松村早希子
1982年東京生まれ東京育ち。この世のすべての美女が大好き。

<雑誌連載>
『Rocket』コラム「きみは89番目の星座」
『TRASH-UP!!』コラム「東京アイドル標本箱」

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