魔法少女になり隊が生み出す圧倒的カオス感 ジャンルレスに繋がれるエンターテインメントの真髄

ましょ隊が持つ、圧倒的カオス感

 この日、最初のブロックは高速BPMでツーバスが鳴り響くような、ある種、全力の50メートル走をノンストップで数往復するようなナンバーが続いた。人力では困難な高速BPMやツーバス、ツインペダルを打ち込みで構築することで、“ダンスミュージックとして機能するメタル”という価値を彼らは自身の楽曲に見出しているのだと思う。メタル/ラウド系のアタックや音圧の強さを、フィジカルに働きかけるポップミュージックに換骨奪胎するセンスはかなり洗練されている。

火寺バジル
gari
明治
ウイ・ビトン
previous arrow
next arrow
 
火寺バジル
gari
明治
ウイ・ビトン
previous arrow
next arrow

 ただ、打ち込みはビートに限ったことで、メタルのカタルシスといえば超絶ギターソロ。ウイ・ビトン(Gt)のテクニカルな早弾きも、ましょ隊にとっては「キャッチー」の一部だ。加えて、クールな女性ギタリスト明治が確実なカッティングやリフを黙々と弾く様は、二次元キャラが現出したようなカタルシスを生む。しかもこの美女が脱力系キャラ・ころもくんの作画やこの日のライブ演出、しかも中間部に挟まれたアニメーションをgariと一緒に手がけているという意外性、そのギャップ萌えがまたすごい。よくもここまでバラバラな個性を持ちながらも、オタクやロックキッズの嗜好にハマるような人間が集まったもんだ、と感嘆してしまった。

 さて、冒頭の「ころもくんのビーフジャーキーの逆襲」アニメの続きが、前半の畳み掛けるブロックの後に展開されるのだが、各種名作アニメのキャラをさらっとメンバーに置き換えて描ける明治の画力が凄まじい。マンガ世界に閉じ込めたメンバーと和解し、現実世界へ解放しようとするころもくんの魔力が弱ってきたところで、エナジーチャージするためにファンの声援が必要になるというあたり、まさにRPG的な設定なのだが、バンド同様、ファンも人力、つまり大声で叫ぶほかないのがましょ隊らしい。パワーがチャージされた結果、ライブは続行。この脱力系アニメもちゃんとこの後の展開につながっていく。

 ましょ隊のレパートリーにはリスペクトするアニソンのカバーが多数ある。「おジャ魔女カーニバル!!」(『おジャ魔女どれみ』OP)、「ハレ晴レユカイ」(『涼宮ハルヒの憂鬱』ED)、「Believe」(『ONE PIECE』OP)、「ラムのラブソング」(『うる星やつら』主題歌)と、バジルのボーカリストとしての個性にもハマっており、ましょ隊のポップセンスが試されるアレンジ能力の高さも証明されていた。

 さらに背景に投影される映像もビット画風やスマホでよく使うスマイルマークなど、誰もが知っているアイテムが登場。ユルいようで精査されていることにも優しさを感じる。そう、ここでは誰も置いてけぼりにされないのである。お気に入りのカバー曲でリフトアップされ、切れ味鋭いヲタ芸を見せるファンも、「支える下の人数が足りないのでは?」と心配になるほどのリフトアップからクラウド・サーフィングを行う観客の多さも、ファン同士が支えあって成立している。

 それが成り立つのは、メタル、パラパラ、EDM、アニソン、Jポップ、各ジャンルのカタルシスや美味しいところのみを抽出した楽曲を、生身の人間が演奏するからこそだ。大げさかもしれないが、二次元が三次元になったような情景は、オタクにとっての夢が、眼前で繰り広げられているとも言える。

アフターパーティーの様子

 一方、ライブキッズもJロックのヒット曲をDJで踊る、あのスピード感を生身のバンドで楽しんでいるような印象だ。アーティスト対ファンの構図ではなく、対等な関係でライブを楽しんでいる、そこに新しさを感じる。同日夜にはDJやファン参加型のゲームなどが繰り広げられるアフターパーティーも開催し、そこでもおそらくファン同士の交流が深められたと想像するが、ましょ隊を中心に広がる「繋がれるエンターテインメント」の可能性、そしてバンドそのものの次なる一手がものすごく気になる。まずは1月23日にリリースされる新作を待ちたい。

■石角友香
フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Qetic」「SPiCE」「Skream!」「PMC」などで執筆。音楽以外にカルチャー系やライフスタイル系の取材・執筆も行う。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる