EMPiREは“覇道から生まれた王道”のアイドルだーーシーンにおける特異性を考察

『EMPiRE originals』(カセット2本組)(スマプラ対応)(Blu-ray)(初回生産限定盤)

 そして、9月5日にリリースされたのが新体制初のミニアルバム『EMPiRE originals』である。先述の表題曲における厳かで粛々とした幕開けからの、軽快なビートに乗る伸びやかな叙情メロディ「S.O.S」。きっちりとした“女の子ボーカル”によって極上のガールズポップに仕上がっている様にハッとさせられる。エスニックな香りと人を食ったようなしゃくれたボーカルが印象的な「Dope」、オリエンタルな空気感と“和”の鼓動がぐちゃぐちゃに交錯していく「SO i YA」、とユーモラスでライブ映えを意識した2曲の茶目っ気にニヤリとし、ラストは次々入れ替わっていく歌によってじわりじわりといざなわれていく昂揚に胸が高鳴る「Talk about」。まさに少数精鋭というべき5曲であり、自己を鑑みる序盤、遊び心で魅せる中盤、そして終盤の静かなる盛り上がり、という構成は、『THE EMPiRE STRiKES START!!』に通ずる。グループ自体のコンセプトならびに作風はそのままに、振り幅を格段に広げているのである。

EMPiRE / S.O.S [OFFiCiAL ViDEO]

 ビジュアル、ボーカル、そしてトークなど、新メンバーがもたらしたものは多い。利発さ溢れるMAHO EMPiREの明るく芳醇な声は、EMPiREが誇る瑞々しいボーカルをさらに強調するものになっている。先の「S.O.S」しかり、“女性ボーカル”よりも“女の子ボーカル”という表現を用いたくなるのは、彼女によるところが大きい。対照的に、アンニュイで蠱惑的なMiKiNA EMPiREのぞっとするような眼光と物憂げで飄々とした声は、一度見聴きすれば忘れられないほどの存在感がある。2人によってより明瞭になったグループの色は、ライブはもちろんのこと、『EMPiRE originals』初回盤における、新メンバー2人のボーカルを再録したアルバム『THE EMPiRE STRiKES START!! [NEXT EDiTiON]』でも感じることができる。

 そしてやはり、オリジナルメンバーの成長は忘れてはならない。揺るぎない強い意志がみなぎるMAYU EMPiREの安定感と、実直で健気な姿勢を見せるYUKA EMPiREの安心感。精悍な容姿ながらもコロコロと転がっていく多彩な表情に目が離せなくなるYU-Ki EMPiRE。斬れ味抜群のMiDORiKO EMPiREの度胸は誰よりも頼もしい。『THE EMPiRE STRiKES START!!』リリース直前に突如発表された新体制への移行は、この先が約束されていたエリート女子がはじめて受けたWACKの洗礼であった。しかし、それは結果として彼女たち自身を強くした。

 EMPiREにはリーダーもいないし、明確なセンターもいない。だからこそ6人のバランスが絶妙だ。誰かがズバ抜けた歌唱力を持っている訳ではないが、6人の声が合わさったとき、スッとした耳馴染みの良さを感じる。

 キラキラとした可愛らしいアイドルソング、はたまたラウドなロックサウンド、複雑な楽曲展開やマニアライクな音楽性……変化球の多い現在のアイドルシーンの中で、EMPiREのようにストレートなJ-POPをきっちり丁寧に歌い踊るグループは思いのほか少ない。多くのアイドルが出演するイベントでの彼女たちのステージを観てあらためて感じたことだ。王道的な歌モノのガールズポップを求めたとき、あのWACKのグループに行き着くという意外性、それも強みであるようにも思う。WACKの中では優等生に見られがちな彼女たちであるが、外から見ればWACKイズムのはっちゃけ感も程度よく、どこか品格のある瀟洒なたたずまいは、強い武器になっていくだろう。

 「BiSHの妹分」と呼ばれることも多い彼女たち。「EMPiRE originals」の振り付けを担当したのはBiSHのアイナ・ジ・エンド。“未完成”という楽曲テーマを“不自由な右手”で表したという。その右手が“なにか”を追い求めていく中、〈完全にオリジナルに作りたい〉と歌いながら彼女たちが踊っているのはBiSHの振りだ。しかし、覚醒というべきドラマチックな楽曲展開を経た、後半の同じ歌詞では、しっかりと前を向いた姿勢へと変わっている。

EMPiRE / EMPiRE originals [NEXT EDiTiON TOUR FiNAL at マイナビBLITZ赤坂]

 5月からの新体制始動、BiSHのツアーへの帯同、夏のイベント出演、そして、迎えた9月ーー。グループ初の全国ツアーを経て帰ってきたBLITZのファイナルは、あれから4カ月とは思えないほどに、“仕上がって”いた。5月のあのときは、まだグループのアイデンティティーなど出来ていない状態だったのだから。

 もちろん、まだまだこれからのところもある。ただ、そうした“満ち足りない現在”と“必死の未来”を含め、〈帝国からの祈りです〉と歌う6人の女帝は誇らしく、なんだか神々しく見えたのだ。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログTwitter

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる