丘みどりが語る、エンターテインメントとしての演歌の可能性「“非現実感”を楽しんでほしい」

丘みどりが語る、演歌の可能性

『紅白』に出ても、お客さんとの近い距離感を大切に 

ーーいろいろなご苦労がありながら、昨年末には『紅白歌合戦』に初出場しました。“やっと”夢が叶った瞬間でしたね。

丘:“やっと”よりも、“ありがとう”という気持ちでした。上京した時は、ほとんど知り合いもいないまま出てきて不安だらけだったなかで、出会ったファンの方はいい方ばかりで、「『紅白』に出られるように一緒に頑張ろう」と言ってくださって。そんなファンの方が、『紅白』への道を作ってくださったと思っています。だから出場が決まった時は、ファンの方々に向けて「ありがとうございます」という気持ちでしたね。

ーーやっぱり、緊張しましたか?

丘:めちゃめちゃ緊張しましたけど、祖母と父が会場に観に来てくれていて、2人を観て落ち着くことができました。歌い始める前はガタガタと手足が震えてしょうがなかったんですけど、パッと祖母のほうを観たら号泣しているし、父親も観たことがないくらい緊張した顔をしていたんですよ。そんな2人の姿を見たら、「私がしっかりして2人を安心させてあげなきゃ!」と思って。そうしたら気持ちも落ち着いて、冷静になって歌うことができました。

ーー『紅白』は、2度3度と連続して出ることが難しいと聞きます。

丘:私も、1回目よりも2回目に出るほうが大変という話を、いろいろな方から聞いて、本当にそうだなと今実感しているところです。正直出るまでは、2回目なんていうことはまったく思ってなくて、「1回出られたら、それだけで十分嬉しい」と思っていたんです。でも、いざ初めて出て歌い終えた時に、「絶対来年もここに立ちたい」って。それに、ずっと応援してきてくださった方が、「今年も1年応援してきて良かった」と、その年の年末を迎えた時に思ってほしいですから、その恩返しの意味も込めて、また出たいと思いました。

ーー『紅白』のあとの反響は、どんな風に受け止めていますか?

丘:紅白で初めて丘みどりを観たという方が、たくさんいらっしゃって。「他の歌も聴いてみたい」とCDを買ってくださったり、「近くのホールにくるから」と観に来てくださる方が、すごく増えました。紅白に出場した歌手として、恥ずかしくないような歌を歌わないといけないという、プレッシャーや責任も感じています。

ーー実際に、どうあるべきだと?

丘:基本的には飾らずありのままでいようと思いますけど、コンサートに初めて観にきてくださった方にも、「だから紅白に出られたんだな」と思ってもらえるようにと心がけています。

ーー初心を忘れずみたいなことですか?

丘:はい。全国でたくさんキャンペーンを回って、そこでみなさんといっぱい写真を撮ったり、いっぱい握手したり、いっぱいお話をしたりして。それでCDを買っていただいて、『紅白』に出られたと思っています。そのことは、2016年からの2年の活動で、目に見えて分かっていることなので、1度『紅白』に出たからといって、それを止めてしまうのは違うと思う。だから私のキャンペーンでは、撮影がOKなのは今まで通りだし。そういうスタンスは変えずに、お客さんとの近い距離感を大事にしていきたいです。

 今年はバラエティ番組にたくさん出させていただいたこともあって、キャンペーンには女子高生の方とか、今までいなかった若い方がたくさんきてくれるようになりました。「何々の番組を観てきました」って。そういう若い方は演歌のキャンペーンは初めてで、「こんなに普通にお話ができるんですね」とか、「距離感が近すぎで、びっくりしました」とか、そういう素直な感想を聞けるのもすごく嬉しいし楽しいですね。

ーー丘さんが、そういう若い世代に向けて伝えたい、演歌の魅力はどういうものですか?

丘:演歌にもいろんなタイプがありますが、私は歌詞の主人公の女性になりきって、演じて歌うことを一生懸命頑張っています。演歌独特の情念の世界には、なかなか触れる機会がないと思いますけど、そういう女の情念の持つある種の怖さだったり、格好良さだったりといった部分を聴いていただけたらと思っています。

ーー丘さんが歌われている演歌には“ミステリアス演歌”というキャッチコピーが付けられていますけど、これにはどういった気持ちが込められているのでしょうか。

丘:1曲を聴き終わった後に、1冊のミステリー小説を読んだような気持ちになる、そんな物語のある歌がミステリアス演歌だと思っています。「霧の川」以降、作曲をしてくださっている弦哲也先生に初めてお会いした時に、私のことを「すごくミステリアスな人間だと思う」とおっしゃっていただいて。それ以降、私はその物語の主人公を演じることを意識して歌うようになりました。

ーー最新の楽曲「鳰の湖」は、ドラマチックな部分とかエモーショナルな部分、激情的な面もあって、ザ・演歌といったイメージの曲だなと思いました。

丘:とても難しい曲で、いただいた時は自分に歌えるか不安でした。低音が一番低いところを使っていて、高音との差が激しくて。でもそういう曲を作ってくださったのは、『紅白』で歌っている丘みどりを観て興味を持った人が、「こんなに難しい曲も歌えるんだ! と、思ってもらえることが大事だから」と、(作曲家の)弦(哲也)先生はおっしゃっていて。決して自分が楽に気持ちよく歌えるキーではないので、私にとってはすごくチャレンジした曲になりました。

ーー『紅白』に出た後と前で、曲の捉え方が変わったわけですね。

丘:はい。出る前は、お客さんに歌っていただくことを第一に考えていました。カラオケとか発表会で、“歌ってもらいやすい”ことを念頭に入れて作っていただいていて。出て以降は、歌っていただくこともそうですけど、“聴いていただく曲”を一番に考えています。ただ「鳰の湖」はとても難しい曲なのに、カラオケ上級者の方が、どんどんチャレンジして歌ってくださっているんです。私があんなに苦労した曲を、お客さんが普通に歌っているのがすごくて。私も負けてられないですね!

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