IZ*ONEは日本型アイドルを終焉させる? 『PRODUCE 48』選抜結果から見える野心的成果

 何度か“世界市場”と書いたが、韓国のアイドルがK-POPとしてアジア、南北アメリカ、欧州で高い人気を誇っていることは、すでに周知の事実である。韓国での女性アイドルグループのトップクラスの面々は、韓国国内だけではなく、世界市場を相手にできる環境にある。その原動力は、今回も審査を担った韓国のアイドルファン(番組では“国民プロデューサー”)たちにある。

 この韓国のアイドルファンの集団(ファンダム)の特徴は、(1)YouTubeなどSNSを利用した拡散努力を組織的に行うこと、(2)年齢層が10代、20代中心で若く、女性ファンのウェイトが大きい、ということが挙げられる。

 韓国アイドルのファンダムは、いわば草の根レベルでアイドルの売り込みを世界にむけて積極的に展開している。韓国の音楽番組は放送まもなくすぐにファンの手で編集され、各国語の翻訳も付されて、YouTubeで見ることができる。この背景には、韓国のメディア側が「緩い著作権」管理をしていることにあることは、この連載でも何度も指摘した。厳密には違法だが、その著作権侵害のデメリットをはるかに上回るのが、国際的認知というメリットである。この世界的レベルでの便益の超過があるかぎり、韓国メディアやまた芸能事務所は事実上著作権侵害を戦略的に放任している。

 さらに注目すべきは、環太平洋地域における韓国アイドルの受容の構図である。これは三角貿易的な構図が成立している。環太平洋地域で、韓国のアイドルの火が付いたのは、2010年代おいてはアジア各地であることは間違いない。それが太平洋を越えて、まず南米各国に飛び火した。その後、主に北米では、ヒスパニック系や黒人のコミュニティの中で火がついた。従来の韓国系住民の中でのK-POP消費を大きく超えるその特徴は、いまの韓国の女性アイドルたちが黒人音楽やラテン系音楽の要素を積極的に吸収した成果といえるかもしれない。やがてかなり閉鎖的な市場を形成している白人たちの好みにも適応することに成功した。現在の北米でのK-POPファンは、まさに人種のるつぼのような構成比率になっていることは、KCONなどの北米でのK-POPコンペティションに参加した人たちからもしばしば指摘されていることだ。

 この三角貿易的な構図、すなわち韓国を中心としたアジア、南米、北米でのアイドルを中心にした芸能・音楽文化の交流に乗り遅れつつあるのが、日本である。日本でももちろん2010年代だけみてもK-POPの人気は大きい。だが、他方で日本のアイドルがこの環太平洋地域の三角貿易的なアイドル市場に加わることができていない。いわば日本のアイドルは日本市場の中で事実上孤立している。もちろん例外はいくつかある。特にAKB48Gは積極的にアジア各地で海外展開を試みて、一定の成果をあげているのは周知のことである。

 また韓国アイドルのファンの年齢層が10代、20代中心であることも、日本の女性アイドル市場と対比した時に際立つ違いだ。日経MJの記事(2018年8月24日)では、LINEリサーチでAKB48Gのファンの年齢層が30代から上が圧倒的であると紹介されていた。他方で、韓国の女性アイドルのファンの中心は10代20代が圧倒的であり、しかも女性ファンが大きなウェイトを占めている。この特徴は、日本や韓国だけではない。アジア各国、南米、北米、そして欧州でも共通する特徴である。

 やはり年齢構成が若く、また女性ファンが多いと市場の成長性は高くなる。また先ほど指摘したように、北米市場の人種的な壁を越えてムーブメントを生み出すことにも成功している。この原動力は韓国のコアなファンたちの草の根の努力、その国際的な宣伝手法のスキルの高さにある。

 今回、AKB48Gはその日本型アイドルの手法をほとんど封印して、このPRODUCE 48のプロジェクトに参加した。その狙いはおそらくふたつあるだろう。ひとつは、日本国内で韓国の女子アイドルファンである若い女性層を、この番組企画やIZ*ONEの活動を通じて、AKB48Gに“還流”してもらう狙いだ。これは日本の女性アイドルのファン層の若返りをも実現するかもしれない。ただ坂道シリーズでは、すでに乃木坂46の活動を通じて、若い女性層の獲得にもつながっていることは忘れてはならない。つまり今回の試みはAKB48Gの女性層への訴求を狙った坂道シリーズへのキャッチアップ(後追い)型戦略に国内的にはなるだろう。もうひとつは、韓国のファンたちの国際的な波及力を活用することを狙っていると思われることだ。つまり上記の三角貿易的構図に、AKB48Gが本格的に参入する狙いがあるものと思われる。これらふたつの狙いは、AKB48Gだけではなく、日本の女性アイドルグループの大きな変化につながる可能性がある。

 その最大の変化は、今回の日本人メンバーの代表ともいえる宮脇咲良の変化に顕著である。彼女は今回のオーディションで、韓国的アイドルを見事に“演じた”。ハイスペック型の完成されたアイドル像を、韓国のファンたちに魅せることができた。素晴らしいことだ。おそらく昔からK-POPに造詣の深い宮脇でしかなしえない変容だろう。他方で、そこには日本型アイドルの特徴であった、未完成なアイドルをファンたちと一体になっていわば共同幻想的に築き上げる日本のアイドル物語は消滅した。日本の女性アイドルに特徴的な物語消費が死んだところで、今回のIZ*ONEは誕生したのだ。

 (日本型)アイドル・イズ・デッド。それがPRODUCE 48のもたらした野心的成果である。

■田中秀臣
1961年生まれ。現在、上武大学ビジネス情報学部教授。専門は経済思想史、日本経済論。「リフレ派」経済学者の代表的論客として、各メディアで発言を続けている。サブカルチャー、アイドルにも造詣が深い。著作に、『AKB48の経済学』、『日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉』『デフレ不況』(いずれも朝日新聞出版社)、『ご当地アイドルの経済学』(イースト新書)など多数。『昭和恐慌の研究』(共著、東洋経済新報社)で第47回日経・経済図書文化賞受賞。好きなアイドルは、櫻井優衣、WHY@DOLL、あヴぁんだんど、鈴木花純、26時のマスカレイド、TWICE、NGT48ら。Twitterアイドル・時事専用ブログ

※記事初出時、一部情報に誤りがございました。訂正の上、お詫びいたします。

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