ラジオやテレビ出演で爪痕残すシンガーソングライター関取花 音楽活動に生みだす“幸福な循環”

関取花が生みだす“幸福な循環”

 そんな関取の初のホールツアーとなった『西でどすこい東でどすこい』の東京公演を品川インターシティホールで見た(8月18日)。関取にとってはこれまでよりも大きな会場でのライブだったが、パワフルな歌声とステディな演奏は満員のホールをあたたかな空気で包み込んでいた。特にユーモアと機知に富むMCは観客との距離の近さを感じさせるもので、ここがホールであることを忘れさせた。MCの中でも印象深かったのは、“ひがみソングの女王”というイメージがついたことに関して葛藤があったという話。「悲しいことがあったら悲しいという曲を作ればいいじゃないかとある日気付いた」そうで、MCのあとにそんな時期に生まれたという「動けない」を歌ったのも感動的だった。

 先の風俗発言の他にも、「倒置法で話す男はナルシスト」「そういう男はだいたいレストランでペリエを頼む」といった名言を残している彼女。やはり毒舌キャラを期待されているところが少なからずあるのでは? とお節介ながら危惧していたのだが、それを「動けない」という曲に昇華させたのだからさすがという他ない。さらに言うと、最新作『ただの思い出にならないように』のインタビューの際に聞いたところ、関取が出演するテレビやラジオがきっかけで人生で初めてライブに来たという人が少なからずいるそうで、それは関取にとってはこの上ない幸せだという。

 確かに、この日のライブでのざっくばらんなトークと風通しの良い演奏は初めて音楽ライブに訪れた観客にとっても親しみやすいものだっただろう。1曲目「蛍」が終わると、大観衆を前にして「絶景だね、額縁に入れて飾りたい」と語り、ともすれば無味乾燥な説明になりがちな物販グッズの紹介もギャグを交えて披露するなど、観客を飽きさせない様々な工夫がなされていた。関取の家にはテレビがなく、家ではもっぱらラジオを聞いているそうだが、確かに彼女のMCはAMラジオ的なとっつきやすさがある。

 関取が“今日の山場”と語ったのが、アルバムでは栗コーダーカルテットのメンバーがリコーダーで参加した「あの子はいいな」。谷口雄(Gt/Key/Acc)、神谷洵平(Dr)がリコーダーのチューニングを行っていると、この曲では演奏しないガリバー鈴木(Ba)のもとにおにぎりとお茶が運ばれてくるというマイペースっぷり。実際の演奏は牧歌的ですっとぼけたユーモアが全開になっており、「蛍」のような疾走感溢れる曲との対比が鮮やかになっていた。

 ちなみに、関取の音楽的ルーツはキャロル・キングやジョニ・ミッチェル、ジュディ・シルといったシンガーソングライターだという。音楽にあまり興味がなかった人がメディア出演がきっかけで関取のライブに来るというのは実に幸福な話だと思うが、さらに彼ら/彼女らが先述したようなシンガーソングライターの作品に触れてくれるなら、これ以上ないほど良い循環ではないだろうか。特に、バンドサウンドを強く打ち出したこの日のライブに感じ入ったという人には、キャロル・キングが在籍したバンド、The Cityの唯一のアルバム『夢語り』をお薦めしておきたい。

■土佐有明
ライター。『ミュージック・マガジン』、『レコード・コレクターズ』、『CDジャーナル』、『テレビブロス』、『東京新聞』、『CINRA.NET』、『MARQUEE』、『ラティーナ』などに、音楽評、演劇評、書評を執筆中。大森靖子が好き。ツイッターアカウントは@ariaketosa

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