BTS、『LOVE YOURSELF』シリーズで見せた大人への成長 『結 ‘Answer’』で示したもの

 一方で、今作に新しく追加された7曲全ての根底にあるテーマはまさに“愛”である。愛の始まりを自らのダンスへのときめきになぞらえたJ−HOPE「Trivia 起 : Just Dance」、愛について迷いながらも生きることは愛すること、とまっすぐに言うRM「Trivia 承 : Love」、愛に対する正直な懐疑と心の揺れをシニカルに、時に甘く表現したビタースウィートなSUGA「Trivia 轉 : Seesaw」など、表現されるキャラクターや考え方は様々だ。しかし、肝心なのはこのアルバムで重要な役割を担う楽曲である「Trivia」が冠されたこの3曲が、全て彼らの制作面を昔から担ってきたBigHitエンターテインメントのPD(プロデューサー)陣によって制作されたという点であろう。デビュー以降、メンバーの心情を率直に吐露しリスナーの代弁者であろうとするというスタンスは変わっていないと思うが、それを表現するクリエイションの核にいたのは常にPdogg、Slow Rabbit、Hiss Noise、ADORA、Supreme boiというお馴染みのPD陣である。“自作ドル”と呼ばれてはいても実際は彼らとBTSのメンバー達も含めての“チームBTS”とも言うべきチーム体制が、コンセプトとリアリティの融合を可能にしてきたのではないだろうか。新奇性や話題性のために外部からの作曲家をゲストとして招いたとしても、コアの部分は変わらないメンバーが支えているという誠実さが特に結実したアルバムのように思う。

 今までのBTSは、少年期の終わりを表現した“学校3部作”における形成初期の個人の自我対社会(=大人)から、青年期の始まりを告げた『花様年華』シリーズで自己対自己の葛藤までを描いてきた。『花様年華』シリーズで〈Save Me〉と叫んでいた若者が、やがて〈自分を救えるのは自分だけ〉(「I’m Fine」)である、と己を認めて愛することが出来るようになった『LYS』で、青年期の懊悩は終わりを告げた様だ。そして大人になるということは、自分とは価値観や年齢や立場も違う様々な種類の人たちと関わり、共存していくことでもあるだろう。それはかつては対立していた“社会=大人”の一部になるということでもあり、仲間内や己の内面だけを見ている訳にもいかなくなるはずだ。精神的な葛藤を経てアイデンティティを確立してゆき、少年から大人へと成長を遂げたBTSは、今後どのような成熟を見せてくれるのだろうか。

■DJ泡沫
ただの音楽好き。リアルDJではない。2014年から韓国の音楽やカルチャー関係の記事を紹介するブログを細々とやっています。
ブログ:「サンダーエイジ」
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