androp 内澤崇仁に聞く、『グッド・ドクター』主題歌秘話「主人公が周りを変えていくイメージ」

androp『グッド・ドクター』主題歌秘話

「“光”は、僕自身昔からテーマにしていたこと」

ーー“Hikari=光”という言葉が出てきたのはどの段階だったんですか。

内澤:何曲か作っていた中盤くらいかな。3度目くらいの打ち合わせの時、ドラマのプロデューサーとの雑談の中で、「僕はプレゼンをする時に、まず大体タイトルを決めてからプレゼンをしたり、ディテールを詰めていったり、作っていくんだ」という話をしていて。僕は、そういう作り方をしたことがなかったんですね。歌詞がある程度できてから、こういうタイトルにしようとか決めるタイプで。そういえばタイトルから曲作ったことないから、ちょっとそれを取り入れてみようと思ったんです。いくつかその方法でやってみた、3曲目くらいが「Hikari」だった気がしますね。最初の1、2曲目のあたりは、あまりストレートじゃなくて、変化球的な感じでタイトルをつけていたんですけど、それがことごとくダメだったので、直球にしたのかもしれませんね。

ーー“光”というモチーフは、andropの曲の中でもよく出てくるものですね。

内澤:そうですね。多分、曲ができてからタイトルを光にしようっていう発想にはならないと思うんです。“光”は、僕自身昔からテーマにしていたことで、希望の象徴として使ってはきたんですけど。じゃあ、直球でタイトルを“光”にして作ったらどうだろう、って。……その頃はもう、満身創痍というか。それこそ、6月3日のパシフィコ横浜でのツアーファイナルも、精神的にはやるぞって満ち溢れていたんですけど、体はボロボロになってて、声帯結節にもなっていて。そういう状況でもあったから、もう直球で勝負しようっていうのも強くなっていたと思うんです。

ーー自分でもまさに“光”を求めていたような感覚だったんですね。

内澤:ろ過してろ過して、やっと出た一滴、くらいの言葉でしたけどね。

ーーこのまっすぐな言葉があるから、より伝わる歌にもなっていると思うんです。曲だけを聴く人も、ドラマと重ね合わせて聴いている人にとっても、象徴的な言葉になっているなと思います。

内澤:そうですね。物語自体が、主人公が患者さんや、周りのスタッフの闇を純粋な光で溶かして、照らされた側が変わっていくという話でもあったので。闇と、その逆にある光というのが、自分の中ではひとつのテーマとしてはありました。

ーー冒頭の、〈365日をあなたと過ごせたら〉というのは、まさに病院を実際に訪れたからこそ出てきたフレーズなのかなと今、話を聞いていて思いました。

内澤:いろいろ考えすぎちゃってて、もうなんでこれが出てきたのかもわからなくなってしまっていますけども(笑)。各方面からいろんなオーダーがきて、いろんなことを言われるので、どうしたらいいんだろう? ってなっていたんですよね。もうちょっと抽象的にしてほしいっていう話があって、抽象的にしてみると、誰に何を言っているのかわからないって返ってきたりとか(笑)。具体的に書いていくと、儚すぎるとか、切なすぎるので、もうすこし明るい雰囲気にしてもらいたいとか。今度はちょっと明るすぎるとか……。

ーーさじ加減がどんどんわからなくなるような(笑)。

内澤:思い切って、ウエディングソングにしてみようかとか(笑)。ここからですか!? っていう。そのあたりで、〈365日を〜〉というのが出てきたのかもしれないですね。

ーーかなり今までとは違った制作ですかね。

内澤:そうですね、今まではドラマ主題歌でも自分がイメージしたものの楽曲を持っていって、ある程度はそのまま進むことが多かったので。何度もゼロから1を作る作業を、短期間でする作業をここまでやったことはなかったですね。

ーー最終的にオンエアの状態まで持っていった時は、ひとつの達成感みたいなものはあったんですか。

内澤:達成感は薄かったですね。それこそドラマが始まってもまだ制作が続いていたので、できたっていう感覚は少なかったです。昨日ちょうど、ドラマの撮影現場に初めてお伺いしたんですけど。プロデューサーと久しぶりに会って、どうですかって聞いたら、「すごくいいものを作ってくれてありがとう」って言ってもらえたので。じゃあ、2番の歌詞考えようかっていう(笑)。

ーー実際に1話で曲が流れた時は、どう感じましたか。

内澤:自分のイメージしてるものと、周りの人が納得するものに焦点を合わせて進めていたので、自分がイメージした通りというものではあったんですけど。実は1話が流れた後に、もう一回歌を録り直しているんです。1話を観て、もうちょっと優しい歌い方の方が合うなって思ったんですよね。3話くらいからは、新しい歌のものに切り替わっていると思います。あとは第1話ではまだ、僕の打ち込んだストリングスの音だったんですけど、そこも生のストリングスに差し替えて、ミックスし直していますね。

ーードラマの進行中にもバージョンアップしていたとは。本当に納得のいくところまでとことんやっていたんですね。

内澤:作品に対する熱い想いがないと、なかなかこういうことを許してもらえないですよね。僕もどちらかというとギリギリまで粘るタイプで、制作する側の気持ちはわかるので、通じ合う部分はありました。だから、すごくやりがいがありましたね。

ーードラマを見ているから余計にかもしれないですが、その時々で温度が変わって聞こえる曲だと感じるんです。切ないシーンでは温かな曲として響くし、ハッピーなシーンでは、よりそれがとても大事で、普遍性のあることなんだっていうのが聞こえてくる。

内澤:具体的なものを盛り込みながらも、普遍性もないと、いろんなシチュエーションで曲がかかった時に寄り添えない。多分ドラマ以外で聴くときでも、聴く人の心に届くものにならないんじゃないかなって。ただ、それが一体どんな言葉で、どんなテンポ感で、どんな楽器を使えばいいのかとか、すごく悩みました。そのなかで、家族愛や恋人同士の愛だったり、いろんな形の愛があるけれども、愛っていう普遍的なものは変わらないので。その芯にあるものを、なんとか表現しようとすることがいいのかなというところに行き着いたというか。それが、歌い続けてきた“光”というワードでもあったんだと思うんです。

ーーそして、この「Hikari」という曲では、その光へと連れていくという動き、引っ張っていく力が描かれていますね。

内澤:実際に、この曲を誰目線で進めていくべきかを悩みながら作っていて。最初は、ドラマでいえば主人公に対して誰かがメッセージする、という目線で考えていたんです。でもそうじゃなくて、どんな環境でもまっすぐでいる主人公が、周りを変えていくイメージに行き着きました。

ーーandropの曲で、内澤さん自身が伝える光のイメージとしては、光へと連れていくという“動”の感覚は、あまりなかった気がするんです。それよりも、光があることを教えてくれたり、指し示すようなものが多かったと感じているんですが、今回より踏み込んだ表現になったのは、このドラマの影響というのは大きかったんでしょうか。

内澤:そうですね。それはこのドラマに関してもそうだし、バンドにおける環境の影響もあったと思うんです。ちょうど『cocoon』のツアーのあたりで、またガラッと、周りのスタッフやライブスタッフが変わったり、という大きな環境の変化があったんです。それもあって、メンバーそれぞれが、もっと自分がなんとかしなきゃならないなという思いを持ったり。来年はandropが10周年を迎えるんですけど、聴いてくれる人に対して、自分の音楽で何ができるのかを、すごく考える時期でもあったので、そういう環境の変化も歌詞に繋がって、より踏み込んだ表現になっていったと思います。

ーーその環境の変わり目から、心境的にも変化があったんですね。

内澤:さっきの病院に取材に行くことにも似ていると思うんですけど、やっぱり、ただ単にドラマに寄り添うだけの曲だと、僕らが伝えるとなったときに、リアリティがない。リアリティがあるからこそ、ちゃんと届けられる部分があると思うので。実際に思ったこと、感じたことを、歌う曲じゃないと、自分たちでやる意味がないなと。音楽をやっているからには、自分たちだからこそできることをやりたい。

ーー今までもドラマの主題歌は手がけてきましたが、どれも結構、テーマ的に難しい、シリアスな題材のものが多かったように思います。

内澤:多いですね、なんでなのかな(笑)。

ーーそれこそ、天童荒太さんの『家族狩り』をテレビドラマ化した時は、特に内容的にシリアスでかなりヘヴィでしたね。

内澤:ドラマ化が困難じゃないかと言われていた作品でしたしね。明るいコメディっぽいものの主題歌をやることがあまりないんです(笑)。どこかしら闇があって、その闇を抱えながらどう生きていくかという題材のものが多かったですね。そういった作品に関わってきたからこそ、より思う部分が、どんどん深くなっていくんですよね。

ーーそういった内面的な闇の部分を扱ったドラマで、andropに音楽としての役割を担ってもらおうと思われるというのは、やはりそこはandropというバンドもまたそこを追求してきたからじゃないですか。

内澤:そうなんですかね。偶然でもあると思うんですけどね(笑)。でも、例えば、闇と光というのは、andropとしてずっと歌ってきたことでもあるし。今回のような、人間の生死というテーマも、僕自身の歌のテーマとしてはずっとあるものだし。自分との葛藤というものも、andropとして歌ってきたものでもあるので、そこは、リンクしている部分でもありますね。

ーー改めて、その闇と光を歌うことは、自分のどういう部分が書かせているんだと思っていますか。

内澤:この『グッド・ドクター』という作品に関わっても思ったことなんですけども、自分を理解したり、自分を認めてあげられる人って、やっぱりいちばんは自分なんじゃないかなという気がしていて。「Hikari」を作るにあたって、ドラマの主人公がサヴァン症候群だということだったので、サヴァン症候群のキム・ピークという人が書いた本を読んだんです。

ーー映画にもなった人ですね。

内澤:そうですね、映画『レインマン』のモデルになった人です。その人は、自分を認めることで、より世界が明るくなるっていうことを言っていて。もうひとり、ダニエル・タメットというサヴァン症候群の方の本を読んだ時にも同じようなことを言っていたんです。それはすごく僕自身も思っていたことだったんですよね。自分と他人を比べて、自分が足りていないとか、自分がよくないって思うんじゃなくて、それはただの“ちがい”であって。そこを認めてあげられるのは、自分でしかないし。自分にしかできないものはきっとある、って。この『グッド・ドクター』という作品に関わって、曲を作っていって、それはより感じたことでしたね。

ーーそうだったんですね。

内澤:僕は、自分自身をすごく信用してなかったし、自分に自信がないまま、ずっと生きてきて。音楽と出会って、音楽の力で自分を変えられてきた部分があるんです。自分と向き合うことや、自分の心の中にある暗いものは、自分じゃないと光が当てられないんじゃないかなと思うんです。他人に言われて変わる部分ももちろんあると思うんですけど。その他人の声に耳を傾ける行為すらも、自分じゃないと選択できない。物心ついたときから、ずっと自問自答をしたり、悩むことが多かったんですけど。自分自身に光が当てられるようになったきっかけをくれたのが、音楽だった。だから、音楽の力を信じているんですよね。

ーー今回1曲に徹底的に向き合って、これまでの経験や新しい体験も経た曲だからこそ、いろんなことが繋がっていくような感覚ですね。

内澤:そうですね。何度も挫折しそうにはなりましたけど(笑)。アーティスティックにというか、瞬間的に生まれてきたものを形にしなければならなかったり、今まで培ってきた知識を作家的に当てはめたりすることも必要になった制作で、すごくいい経験になったし、やりがいがありました。1曲に、何カ月もの時間をかけて、力を入れることができて。それができたのは、ドラマのスタッフだったり、レコード会社だったり、いろんな人のおかげでできたことでもあったので、ありがたかったです。本当なら、全曲こうやって作りたいなと思っているんですけどね(笑)。

(取材・文=吉羽さおり)

androp『Hikari』

■リリース情報
androp『Hikari』
発売:8月29日(水)
初回限定盤(CD+DVD)2,484円(税込)
<CD収録曲>
01. Hikari ※フジテレビ系 木曜劇場『グッド・ドクター』主題歌
02. Hikari (piano TV ver.)
03. Catch Me (one-man live tour 2018 “cocoon” tour final)
04. Hanabi (one-man live tour 2018 “cocoon” tour final)

<DVD収録内容>
・「Hikari」Music Video
・「Hikari」Making Video

通常盤(CDのみ)1,296円(税込)
<収録曲>
01. Hikari ※フジテレビ系 木曜劇場『グッド・ドクター』主題歌
02. Hikari (piano TV ver.)
03. Sorry (one-man live tour 2018 “cocoon” tour final)
04. Hanabi (one-man live tour 2018 “cocoon” tour final)

■配信情報
「Hikari」
8月2日(木)より配信開始
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■放送情報
フジテレビ系 木曜劇場『グッド・ドクター』
毎週木曜よる10時より放送
出演:山﨑賢人 上野樹里 藤木直人 戸次重幸 中村ゆり 浜野謙太 板尾創路 柄本明
原作:「グッド・ドクター」 (©KBS. 脚本 パク・ジェボム)

■関連リンク
フジテレビ系 木曜劇場『グッド・ドクター』
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