韓国大衆歌謡からBTSまで……K-POPの誕生と発展にJ-POPが与えた影響

 また、音楽性以外にも、J-POPはK-POPに影響を与えている。

 たとえば、1990年代半ばに生まれたSMエンターテインメントによるアイドルのマネジメント体制は、日本のジャニーズ事務所がモデルだという。メディアをまたぐマルチタレントとしてアイドルをプレゼンする方針や、グループを組ませて管理する手法がその例だ(46頁)。また、デビュー前に厳しいレッスンを積む練習生制度は、ジャニーズJr.の影響を受けているとも指摘する。ただし、その教育内容にはアメリカの音楽やポップカルチャーが強く影響を与えており、日米のシステムを選択的に取り入れた結果として、現在のマネジメント体制が生まれたのだという(同前)。

 加えて、グローバルに拡大したK-POPファンダムの形成に、先行して受容されていた日本のポップカルチャーの流通・消費プロセスが貢献していた(78~81頁)ことも興味深い。以前、筆者は別の記事で、海外では日本のポップカルチャーのファン層とK-POPのファン層がしばしば一致していることを指摘した。本書で紹介されている南米やヨーロッパにおけるK-POP受容の現場の様子は、そのことをいきいきと伝えてくれる。そこでは、日本と韓国の文化が互いに排他的にではなく、並列に受容されている風景が描かれている。

 以上のように、K-POPの形成にはJ-POPや日本のポップカルチャーが大きな影響を与えてきた。より正確を期せば、海外からの影響とどのように対峙し、取捨選択してゆくかが、K-POPを形作ってきたのだ。ちなみに本書では、韓国文化に根付く独自の美学がK-POPに与えた影響についても、紙幅を割いた考察が展開されており、そちらも興味深い。

 最後に、本書でも言及されている、K-POPの躍進を韓国の文化政策の成果と見なす傾向について指摘しておきたい。肯定的であれ否定的であれ、こうした説明はK-POPの歩みを過度に単純化してしまう(146~149頁)。本書が代わりに提示するのは、K-POPが韓国内外の文化や社会情勢と向き合いながら発展してきたダイナミックな道筋だ。その模様は、国家や地域といった枠組みを超えて人々の心を掴む、ポップカルチャーの本質そのものを描き出している。

 本書は、単にK-POPとはなにかを探るだけではなく、グローバル化以降の世界におけるポップとはなにかを示唆する一冊だと言える。改めて、K-POPファンのみならず、いまの音楽のあり方に関心がある人にはぜひおすすめしたい。

■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
ブログ「ただの風邪。」

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