Taku Inoueと北谷光浩に聞く、『サマーレッスン』楽曲制作秘話「音楽で補強するのが仕事」

『サマーレッスン』楽曲制作者インタビュー

「アイマスでの作り方と根本は変わらない」(Taku Inoue)

ーーなるほど。今回の『サマーレッスン』のような歌モノだと、よりその遊びが活きてくると思いますが、どうでした?

Taku Inoue:自分のところにオファーが来るということは、普通の曲は求められてないんだろうなとは思ってました(笑)。とはいえ、アイマス楽曲ではキャラクターをちゃんと研究して、そのキャラクターが一番輝くように作っていたので、その根本は変わらないですね。結構変なことをしている自覚もあるんですけど、そこは外さないようにしてます。あと、「ミュージックディレクターをやってくれ」という依頼だったので、VRで女の子とコミュニケーションするというこのゲームの性質をいかがわしく見せないように、音楽で補強するのが僕の仕事なのかなと思いました。なので、全体としてアイドル感を出さないようにしたり、パッと聴きでオシャレに聴こえるように意識しました。あと、女子高生の部屋や、喫茶店等での没入感を阻害しないように、BGMは極力シンプルにしました。

アルバム『ドラマ&ミュージックアルバム サマーレッスン ~未来はいま~』ダイジェスト・ムービー

ーー歌モノはどの曲から作っていったんですか? 

Taku Inoue:最初はアリソンの「Here I Am」からですね。VRのゲームなので、体感しないと面白さが伝わらないなと思い、だったらエモーショナルな曲を作りましょうということになりました。

ーーちょっと夏っぽさも感じる、カントリー調の曲に仕上がりましたね。

Taku Inoue:そうなんですよ。「夏っぽさも入れて欲しいし、キャラクターソングでもあるので、アリソンに沿ったものかつVRという技術のことについても歌ったものにしたい」というオーダーで。未来が見えない不安な感じもあるけど頑張っていきますよ、みたいなメッセージも全部入れてくださいと提案されて。この仕事を10年やってきて1、2番目に苦労した曲かもしれません。そのあとに宮本ひかりちゃんの歌モノである「Color Me」を作りました。こっちは彼女のキャラに寄せつつ、VRの近未来感みたいなのを意識してほしいと言われましたね。

ーー「Color Me」は、どこか井上さんの手がけた名曲「Radio Happy」に近い要素があるような。

Taku Inoue:ああ、そうかもしれません。作った時期が近かったので、カットアップの仕方とかは似ているかも。この曲は、近未来と夏をどう両立させようか考えて、アコースティックの素材をオーディオとして切り刻んで使えばいいかも、という発想から生まれました。

【楽曲試聴】「Radio Happy」(歌:大槻唯)

ーーそして「いつか虹を追いかけて」は作詞を井上さんが、作曲・編曲を北谷さんが手がけています。

Taku Inoue:ちさとちゃんの曲を作るにあたって、キャラの設定を見て「これはもう僕の曲じゃない方がいいな」と思ったので、北谷くんにお願いしようと。

北谷:ちょっと小悪魔的なキャラですし、レトロな洋館が舞台ということだったので、自分の得意なジャズっぽいアプローチをしつつ、レトロ感を出すためにアコーディオンを、洋館っぽい雰囲気を出そうとストリングスをそれぞれ入れました。

Taku Inoue:結果的に、ちょっと昭和のシャンソン歌謡っぽい感じになったよね。

北谷:シチュエーション的にも、カラオケでちさとちゃんが歌ってくれるようなシチュエーションだったので、そこでも映える感じは意識しました。間奏の部分に茶目っ気のあるフレーズを入れて、小悪魔的なモーションが入るといいな、なんてイメージもしながら。

ーーあと、今回のために書き下ろした「未来はいま」は、作詞曲を井上さん、編曲をお二人が手がけています。

Taku Inoue:「サウンドトラックCDを出すことになったので、3人で歌う新曲を作ってください」と依頼をいただいたんです。最初は一人で作ってたんですけど、せっかく『サマーレッスン』の集大成だし、北谷くんの要素も入れたいと思って、ピアノのフレーズを考えてもらうようにお願いしたんですけど、そのあと北谷が手を骨折しちゃって。

北谷:でも、結局スケジュールを色々調整していただいて、ギリギリ治ったタイミングで弾きました。

ーーメロディやコード感はジャズっぽいですし、ポップスらしい明るさを持っていつつ、リズムはちょっと変則的だったりして、確かに『サマーレッスン』の集大成感はありますね。歌詞もある種“おさらい”のような仕掛けが施されていて。

Taku Inoue:それぞれのソロ曲のタイトルを歌詞に入れ込んだりして、聴く人によってはニヤッとできるようにしました。イントロにもメインテーマのメロディを入れていますし、グッときてもらえるような曲になったと思います。

ーー1人のキャラクターに宛て書きするより、3人に書くほうがどうしてもアイドル感が出てしまいがちだと思うんですけど、その辺りはどう工夫しましたか?

Taku Inoue:たしかに、そこは結構気にしましたね。アイドルっぽくならないように、生楽器をいっぱい使ってオーガニックな感じを出したり。

ーー作品の後半には、『サマーレッスン』を彩ったBGMも収録されています。メインテーマは井上さんが手がけたんですよね。

Taku Inoue:ちょうどかなり苦労した「Color Me」と同時進行ぐらいで、意気消沈しながら書いたのを覚えてるんですけど、そんな状況であんな綺麗に仕上がったのは自分でも驚きですね(笑)。たしか、全体を通してジャック・ジョンソンみたいな感じを出そうと思っていて。

ーーサーフ系ってことですか?

Taku Inoue:そうです。思いっきりサーフに振るわけではないですが、優しいオーガニックな感じの例として挙げながら進めていったのを覚えています。

ーーああ、でも確かに「Here I Am」や「Midsummer Slumber」はジャック・ジョンソン感がありますね。

Taku Inoue:まさにそうですね。

ーー他方で北谷さんの「A Lesson To You」は、ピアノを主体としつつ、少しコミカルな転調も特徴的な曲です。

北谷:レッスン中というのもあるので。最初はシンプルにしようと思いつつ、ゲームをやってみると真面目なレッスンじゃないのがわかったので、その辺りの要素は入れたつもりです。

ーー個人的にびっくりしたのは、デジタルな四つ打ちの「Calling Me」です。北谷さんがこういう曲を作るのかと驚きました。

Taku Inoue:僕も「こういう引き出しあるんだ!」と驚きましたね。たしか、「携帯の着信音っぽい曲が欲しい」と急遽言われたんですよ。

北谷:そうです。2日くらいでと言われて、しかも「女子高生っぽい携帯の着信音」ということだったので、かなり迷ったんです。ひかりちゃんは明るいキャラで流行りの曲を聴いてそうだなと思ったので、EDMっぽい要素が入ったポップスかなと考えて、自分の引き出しにはないものの、挑戦してみました。

Taku Inoue:でも、この曲自体は良かったし、次の「TOMATO&CHOPSTICKS」への流れとしてもすごく良い具合にまとまっていると思います。

ーー井上さんが北谷さんの曲で良かったと思ったものは?

Taku Inoue:「The End Of Summer」ですね。リザルトの曲なんですけど、それがすごく良くて。ピアノ1本のシンプルな曲なんですけど、僕の作ったメインテーマのメロディを引用してくれていたり、そのさじ加減がすごくよかったんです。

ーーあの曲は良い曲ですよね。

Taku Inoue:メインテーマを引用する感じが、ちょっと『塊魂』っぽいんですよね。

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