SEKAI NO OWARI Saori、クリープハイプ 尾崎、WEAVER 河邉…ミュージシャンの小説を読む

河邉徹『夢工場ラムレス』

 ここまで紹介してきたものは実体験をもとにしたリアリティ路線の作品だったが、『夢工場ラムレス』は少し毛色が異なる。

 夢を製造する工場「夢工場ラムレス」を舞台にしたファンタジーオムニバス作品となっており、4人の主人公とその周辺の人々の人間模様が交錯する優しい物語だ。明晰夢(「自分は今夢を見ている」と認識できる夢)の中で見つけることができるという、「夢工場ラムレス」へと繋がる青い扉。夢工場の情景描写や、夢の世界と現実世界の関係性。徹底された世界観とよく練られたシナリオは、伊坂幸太郎や星新一といったSFチックな作品世界を彷彿とさせる。

 比喩やモノローグのセンスも秀逸。著者・河邉によるWEAVERの楽曲での作詞にも通づる、読み手への優しさや思いやりを感じる。

 一見“癒し系ファンタジー”のようだが、ラストでの見事な伏線回収が爽快だ。河邉本人も子供の頃に読んだ『ハリー・ポッター』シリーズの影響を語っているが(参考:WEAVER河邉徹が小説家デビューに感慨「新しい世界を知ることができました」)、小学校高学年くらいの年齢の読者も楽しめるかもしれない。童心にかえったようにわくわくしながら読んで、心があたたかくなる優しい作品だ。

 ミュージシャンでありながら小説家としても活躍する彼らの作品には、ミュージシャンという特殊な職業で培われたリアルなエピソード、生々しい感情、そして豊かな表現力がこれでもかと詰め込まれている。専業作家にも引けを取らない冷静な眼差しと豊かな才能を持つ彼らの手から、今後未来へ語り継がれる傑作が生まれるかもしれない。

■五十嵐文章(いがらし ふみあき)
音楽ライター。主に邦楽ロックについて関心が強く、「rockinon. com」「UtaTen」などの音楽情報メディアにレビュー/ライブレポート/コラムなどを掲載。noteにて個人の趣味全開のエッセイなども執筆中。ジャニーズでは嵐が好き。
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