KANA-BOON、アジカンとの本気決戦で見せた“ロックの血の継承” 対バンツアー東京公演レポ

KANA-BOON、対バンツアー東京公演レポ

 渾身の5曲入りのミニアルバム『アスター』をこの日にリリースしたばかりの彼ら。これからの季節にぴったりのセンチメンタルを描くと同時に、夏に向けて走り出したくなるような疾走感溢れるビートが詰まった新曲たちも披露し、本編ラストは「フルドライブ」でたたみかけて終わった。あっという間の11曲。 ちなみに『アスター』はこの日リリースされたばかりだが、先行配信されていた「彷徨う日々とファンファーレ」を筆頭に、いずれの曲も会場は大盛りあがり。サブスクリプションで聴く人のスピード感も考えると、“ミニアルバム”というのはライブとの関係性としても最適なサイズ感なのかもしれない、などと意外なことに気づかされた。

 両者ともまさにフルスロットルの状態で披露しあった熱狂の対バン。が、お楽しみはまだ終わっていなかった。2017年にリリースされたアジカンへのトリビュートアルバム『AKG TRIBUTE』に参加していたKANA-BOONが、この日この場所でふたたび先輩の前で「君という花」を演奏してくれることを、オーディエンスも皆、待ち望んでいたからだ。 

 アンコールで再びメンバーがステージへ戻り、谷口が「記念すべきイベントに来てくれて、ありがとうございました。先輩との共演だし、呼びますか!」と口火を切ると、ステージにアジカンから後藤が再び登場し、ZeppTokyoの観衆も大歓声で迎える。谷口が「俺らが高校時代に一番カバーした曲を」と言い、「君という花」を後藤とのツインボーカルで歌い始めた。1度目のサビはユニゾン、2度目はハモり、オーラスは谷口が歌いきる。会場中が、この共演を祝福していた。「すごいですね、本当にありがとうございました!」と、とても嬉しそうなKANA-BOONメンバー4人。彼らの表情は、かつての憧れの存在とともに、夢のような時間を現実のものとして作り出したことによる満足感で充ちていた。

 「中学でアジカンに出会い、高校で軽音楽部に入りアジカンのコピーをして。オリジナル曲を作ったらアジカンにそっくりな曲ばっかりできて(笑)。あの頃の自分たちが聞いたら腰を抜かすぐらいの、嬉しい感動的な日でした。やっぱり続いていくバンドが、かっこいいと思います。俺らまだ5周年ですけど、続けていくんで。今日をまた支えに、糧にして、がんばっていきましょう」と自分たちの同世代や、もっと若い世代へと向けたメッセージを最後に放った谷口。現在の日本のロックシーンを支えるバンド界の中でも、一際あたたかで象徴的なストーリーが、この日またひとつ紡ぎ出された。

 “KANA-BOON 5周年”とツアータイトルに銘打っているものの、彼ら自身がここまでの5年という日々をじっくり振り返るような場面は皆無。最後の一度きりの決意表明だけだった。きっと彼らは、この新しい『アスター』とともに、今夏もひたすらに駆け抜けていくのだろう。そして9月には、4年ぶりとなる彼らの地元・大阪堺でのワンマンイベント『ただいまつり!』が待っている。

 2018年現在、“アジカンに強く影響を受けた”と公言するバンドは数多く存在していることだろう。その中でもKANA-BOONは、さらにずば抜けて影響も愛も強く受けてきたに違いない。アジカンがいなかったら存在していないバンド、といっても過言ではないはずだ。そんなことが、アンコールの「君という花」一音一音から強くうかがえた。本人たちはいたって笑顔で楽しそうに演奏していたが、そこには明らかにロックの血の継承が感じられたのだ。

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 憧れの存在に引っ張り上げられてきたことを感謝する後輩と、好きと言い続けてもらってそれが確実に誇りとなっている(けどそれをそんなに大っぴらに示さない、しかし嬉しそうな)先輩。これまでにも数えきれないほどの、盟友同士/先輩後輩/同郷同士/同世代同士の対バンライブを観てきたが、その中でも屈指の純度の高い愛のある対バン(TAI-BAAN!!)だったように思う。

 この日、あの場に居合わせたオーディエンスはもちろん、当日にGYAO!で生配信を観ていた視聴者も皆、幸せな気持ちであったに違いない。改めて、日本にはこうして確かな手応えを感じることのできるロックミュージックの系譜が脈々と繋がっているという事実を、喜びをもって感じられるような夜だった。

(取材・文=鈴木絵美里/写真=TEPPEI)

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