映画『ブラックパンサー』で注目 ケンドリック・ラマーらUS西海岸のホットなヒップホップ新作5選

ニプシー・ハッスル『Victory Lap』

 次は、主に2000年代後半より次世代西海岸シーンを牽引してきたラッパーであるニプシー・ハッスルによる待望の新作『Victory Lap』を。LAのクレンショー地区、スローソン通りをレプリゼントするニプシーですが、2008年にリリースしたキャリア初期の代表曲「Hussle In The House」からのファンも多いのではないでしょうか。ニプシーは限定量のみプレスした自身のミックステープを一部100ドルや1000ドルの価格を付けて販売するなど、工夫を凝らした手法で作品をリリースしてきたラッパーでもあります。これまでに発表してきたミックステープは10作以上。ファンにとって、まさに待望のデビューアルバムの到着となりました(ちなみに制作期間に6年を費やしたとも言われています)。アルバムに収録されている楽曲はどれも、まさにウエストコースト・ギャングスタ・アンセムと呼びたくなる力強いものばかり。大統領選が始まってすぐにトランプ現大統領を批判した「FDT」でのタッグでも知られるYGとの「Last Time That I Checc’d」は西海岸バイブスを十分に押し出したベースラインがボルテージを上げていきます。他のラッパーたちを痛烈に口撃する「Rap Niggas」には<I am nothin' like you fuckin' rap nigga / I own all the rights to all my raps, nigga(俺はお前らと違って、自分の楽曲の権利もしっかり保有してんのさ)>というラインもあり、これまでインディペンデントなラッパーとしてメジャー・ディールをうまく利用してきたニプシーならではのラインも。ジェイ・Zの代表曲「Hard Knock Life (Ghetto Anthem)」をスロウにしてサンプリングした「Hussle & Motivate」では、どこまでも貪欲にハスラーとしてのマインドをラップし、ケンドリック・ラマーを迎えた「Dedication」では「俺らの世代は2パック(を聴いていた)」と前置きし、<Dedication, hard work plus patienc / The sum of all my sacrifice, I'm done waitin'(この身を捧げてきた、努力して辛抱強く。こんなにも犠牲を払ってきた、もう待つのは終わりだ)>と、覚悟溢れるラインをスピットします。本曲ではケンドリックもクリップスとブラッズの局面に触れ、生々しいロサンジェルスのストリート・ライフを描写する箇所も(ニプシーはクリップス側、ケンドリックはどちらかというとブラッズ側と親しいスタンスのラッパーです)。他に、本作にはパフ・ダディ、シーロー・グリーン、マーシャ・アンブロシャスら多彩なゲストも参加しており、どこから切り取っても分厚いアルバムに仕上がっています。

03グリード『The Wolf Of Grape Street』

 最後に紹介するのは、次世代の西海岸シーンの新星として注目を集めている03グリードのデビュー作。昨年秋、FADER誌が「LAで最もエキサイティングなラッパー」と評し、Noiseyも「西海岸ラップ・シーンの未来」と称賛を贈るラッパーでもあります。西海岸のワッツ地区生まれ。初めて聴いたヒップホップ・アルバムはB.G.の『Checkmate』と『Chopper City』、そして、初めて買ったヒップホップ・アルバムはネリーの『Country Grammar』だったそうで、ブーシー・バッドアスやグッチ・メイン、ヤング・ジーズィーといったサウスのラッパーたちの作品に影響を受けてきたとか。18歳の時に一児の父となり、ホームレス生活の後に収監され、監獄生活中にラップのスキルを磨いたという03グリードは、哀愁漂うようなメロディアスな語り口とハードさを兼ね備えたフロウが武器。最新ミックステープ『The Wolf Of Grape Street』は、冒頭の「Drippin’」からいきなり自由かつフリースタイル的にフロウで強烈にスピット。SOB x RBEのメンバーでもあるヤング・T.Oや、PNB・ロック、そしてE-40のレーベルとも契約したことでも知られる注目株のOMB・ピーズィー、サヴェージなラップを披露するケッチー・ザ・グレートらを迎え、かなり生々しくリアルなギャングスタ・ライフを描写します。これまでに受けたインタビューでは「ガンジーやマルコム・Xのような存在になって世界中のスラムを救いたい」とも語っており、ラッパーを超えたアーティストになる予感も感じさせる逸材です。

■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
ブログ「HIPHOPうんちくん」
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blockFM「INSIDE OUT」※毎月第1、3月曜日出演

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