lynch.が再び”完全体”となるーー幕張メッセ公演前に、逆境乗り越えてきた13年の軌跡を振り返る

メジャーで感じた挫折と変わりつつある意識

 その後、彼らは順調に活動を続け、2011年には念願のメジャーデビューを果たす。当時ヴィジュアル系バンドがメジャーデビューすると楽曲が商業的になり、メイクが薄くなって衣装がカジュアルになるなどの心配が囁かれるのが常であったが、葉月は「つまらないと言われているメジャーシーンを土足で踏み荒らして行きたいと思います」(2012年12月19日開催のインディーズラストツアーファイナルのMCより)と高々と宣言し、アルバム『I BELIEVE IN ME』で満を持してメジャーシーンに殴り込みをかけたのを今でも覚えている。彼らの音楽性はさらに激しく、速さを追求していくようになる一方、メジャーデビューの少し前あたりからメンバー全員がメイクを落とし、衣装も私服に近い恰好へと変化していった。当時のことを葉月は「ロックバンドとして勝負していく上で、メイクをしているとヴィジュアル系でしょ?の一言で片づけられてしまうことをおそれたため」と答えている(Neowingインタビューより)。実際にこの時期にPay money To my Painやcoldrain、SiMなどのラウドロックバンドとの親交は深まった。ただ、戦うための鎧であったはずのメイクや衣装が、彼らの望む評価をされるための邪魔をしている弱点と感じ始めてしまったのだ。そんな心境は続くアルバムのタイトルにも表れていた。『INFERIORITY COMPLEX』(=劣等感)と題された作品には、メジャーデビューして感じた挫折や、自分たちがヴィジュアル系と一言で括られてしまうことへの引け目が詰まっているように思う。

 しかし、ここからlynch.はこの状態から脱却するためにもがきだす。2012年度の下半期を「メロディで勝負する」(BARKSインタビューより)と打ち出し、より多くの人に聴いてもらうためにはどうすればいいかを念頭に、彼らに関わるスタッフに意見を乞うた。よりシングルを意識した「LIGHTNING」では「今というこの瞬間を、悔いのないように生きよう」というこれまでなかったメッセージ性が込められた歌詞を書き、続く「BALLAD」ではこれまで通りの歌詞の書き方に自分の考えを少し加えてリリースした。これは作詞を担当する葉月自身が「LIGHTNING」の歌詞を書き、それが自分自身に刺さったことにより、今までのように情景画を描くように作詞をしただけでは物足りなくなってしまったためと語っている(BARKSインタビューより)。「BALLAD」にあった“孤独”というテーマに加えた葉月自身の考えは曲の最後にある<I still believe>の一節に表れている。人は生まれてから死ぬまで孤独である。それでも人が好きだし、人を信じたい。そして最後に信じるのは自分であるという決意。彼らが劣等感を抱き、もがき苦しんだ先に出した答えは「信じる」というシンプルなものだった。奇しくも彼らが7年間インディーズで活動し、満を持してメジャーシーンに乗り込んだ時に用いたタイトル『I BELIEVE IN ME』(=自分自身を信じる)と似ているのはこのバンドの本質がそこにあるからなのかもしれない。また、彼らはこの2012年度の締めくくりとしてZepp DiverCity Tokyoでのワンマン『「THE FATAL EXPERIENCE #3」-FINAL HOUR HAS COME-』を開催する。当時、彼らは「これまでのlynch.を総決算して、一回終わりにするためのライブ」と語っている(BARKSインタビューより)。葉月はこの日のライブを「次に会うときは史上最強のlynch.になっているから楽しみにしててくれ!」と締めくくり、しばらくの間表舞台から姿を消した。

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