武藤昭平 with ウエノコウジが語る、音楽に対する探究心「曲に向かう姿勢が10年前と全然違ってる」

武藤昭平 with ウエノコウジの探究心

眠ってたものを呼び起こしたような(武藤昭平)

武藤昭平

ーーなるほど。武藤さんはスワンプやカントリーは「再発見」だったわけですよね。昔聞いてたころとは感じ方が変わってきたとか?

武藤:若い頃にストーンズとThe Beatlesにハマってたんです。特に18〜19歳ぐらいの時にストーンズをめちゃくちゃ聞いて勉強して。その中にカントリーとかブルースとか、音楽要素として入ってきてるじゃないですか。ストーンズを通じてそういうスワンプ的なものを知ってたりするんだけど……。

ウエノ:そうなんだよ! ストーンズの中のカントリーの曲って飛ばしがちなんだよ(笑)。それが最近はむしろそっちの方がいいなと思うんだよ。

ーー同じスワンプな曲でも若い頃と聞こえ方が変わってきたとかあるんですか。

武藤:ストーンズのスワンピーなバラードだったりゴスペル的なものとか、昔は昔で好きだったけど、その時はストーンズ止まりだったのを、グラム・パーソンズを聞いて「ああ、キースはこれがやりかったのか」ってわかるようになってきたのはありますね。どこか……自分の中に眠ってたものを呼び起こしたような、そんな感じはありました。そういえばオレ、こういう所をストーンズを通じて聞いたりしてたよな、って久しぶりに思い出したり。

ーーなるほど。

武藤:でもオレはアメリカの南部の方をずーっと見てなかったな、と思って。アメリカでもニューヨークだったり西海岸の方のジャズの方の視点が強かったけど、よく考えてみたら南部のブルースとかカントリーとか、全然見てなかった。今回久しぶりにこのへんを聞いて、レイ・チャールズ引っ張り出してきたり、ドクター・ジョンを聞いてみたりとか。そういうところを思い出しました。

ーーアメリカ南部はアメリカのポップミュージックの原点と言われてますからね。ジャズもブルースもロックンロールも。

ウエノ:南部憧れが出てくるんだよ。若い頃からそういうのある人もいるけど。

ーー若い頃からやってても、感覚的にものにするのは少し時間がかかるかも。

ウエノ:そうかもね。でも慣れない感じがまた良かったりする。

ーーちょっと誤解してたりぎこちなかったり。

ウエノ:そうそう! それが一番かっこいいんだよ! たとえばさ、フィドル入れたりとかさ、これなんだっけ?(手真似)

武藤:ペダル・スティール。

ウエノ:そうそう。そこらへんはいらないんだわ。

ーーそれ入れるとモロにカントリーになる。

ウエノ:そうそう。そういう感覚じゃないんだね。

ーーそこはロックのカッティングエッジな感覚を残しながらアプローチする。

ウエノ:そうなってるといいね!

ーー今作でキーと言える曲っていうと、どれになりますか。

武藤:一番最初にできた曲は「ローリン・サーカス」ですね。ミーティングが終わってジョニー・キャッシュを聞きながら、こういうのを作りたいと思って作ったのが「ローリン・サーカス」。こういう方面だろうなと思って作り進んだら、もうちょっと違うアプローチのものがほしくなった。こういう曲を書かなきゃって思いよりも、自然に降りてきたものを作ろうと思ってたところに、「凡人讃歌」って曲が降りてきたんです。コードワークもドクター・ジョンが入ってるような南部のブルースっぽい流れをちょっとひねって。歌詞も前向きな感じだし。それを一人で弾き語りしてウエノ君に送ったら「これいいねえ!」って、食いついてきて。それで一緒にいろいろいじって、今の形になったんです。その時はすごく手応えがあって。これが一押しじゃないの?って空気はありましたね。

ーーなるほど。

武藤:曲って自然じゃないと、作り物になって親しめないんです。いろんな音楽を聴いてイメージを膨らませながら、自然に下りてくるのを待つ。これいいなってところまで辿り着くのを待っている。頭の中で鳴り出したら、そこで初めて曲にする。

ーーどういう時に曲はできるんですか?

武藤:うーん……街歩いてる時ですかねえ。散歩してる時が一番脳みそが動くので。歩きながら、「あ、今頭の中に流れてる曲はすげえいいぞ!」とか。

ーーそういう時はどうするんですか。

武藤:頭の中でずっととっておきます。家帰って忘れるぐらいなら大した曲じゃないんです。それを頭の中でずっとリフレインして、忘れたころに「さっき閃いたのなんだっけ?」って思い出すような。それでだいたいの原曲ができて。

ーー作ろうと思って作るわけではない。

武藤:そうするとね、その曲嫌いになっちゃうんです。だってコードワークって、いろんなパターンがあるわけで、作ろうと思えばそれを組み合わせてできちゃうんですよ。たとえば発注があって、そういうタイプの曲ってリクエストがあれば、できちゃうけど、そんな曲って全然いいと思えないんですよ、自分で作った曲だとしても。これ来てるなあ! っていう愛情がどこかにないと。それがないとウエノ君にも聴かせたくないし。

ーーなるほど。

武藤:これいいっしょ! ってなるまでギターも持たないし。ギター持ったら、手癖のコードワークになっちゃうんですよ。オレがよく使うような循環コードになっちゃうんですよ。「いや、こうじゃないんだよな」って、なっちゃう。だから頭の中で完璧にできあがるまでは待つんです。で、その段階で頭から消えるような曲なら、オレの印象に残らないような、大した曲じゃないのでボツ。

ーーおふたりにとって武藤昭平 with ウエノコウジってご自分の活動の中でどういう位置づけなんですか。たとえば武藤さんだったら、勝手にしやがれがご自分のホームだという意識があるんですか。

武藤:ありますね。一番長くやって、リーダーだし。でも武藤ウエノも大切なバンドです。だからホームがふたつある感覚。でもこれ以上はできないす(笑)。

ーー武藤ウエノって最初はソロだったんですよね。

武藤:そう、最初はソロだった。ソロは指向性の違うモノを全部詰め込んでやってたんだけど、ウエノ君と2人でやってるバージョンがすごくかっこよくて、これをちゃんと盤にしていかないと、と思って武藤ウエノを作り出したんです。ソロでやってると、正解を全部自分で決めないといけないから、頭にある発想が全部そこに入っちゃう。そうすると人のアイデアがないから、想定外の奇跡的なことが起きないんです。なのでつまらなくて。それでウエノ君と2人でやってると、同じ曲でも全然違う捉え方をしてる。これは面白い! となって、2人だけどバンド的にやれてるんです。それは勝手にしやがれじゃできなくて、ウエノ君とじゃなきゃできないことだから。最小限の2人だけで意見を出し合いながら作っていくという作業が面白い。

ーーソロは自分しかないから面白くない、という武藤さんのような人もいれば、だからこそソロしかやらないという人もいる。

ウエノ:そこはバンドマンかどうかの違いじゃないかな。バンドでやってきたかどうか。

ーーウエノさんはホームはthe HIATUSになるんですか? Radio Caroline?

ウエノ:全部ホームですよ。いつも言ってるんだけど、人のサポートをやってても、オレはバンドの感覚でやってるから。だからサポートとかも含めると「たくさんバンドやってる」という感覚だね。バンドが好きだからね。

ーーTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTしかやってなかったころと、なにか違うんですか。

ウエノ:バンドはさ、人生でひとつの方がいいよ、絶対。でもそれができなかった代わりに、いろんなことをやる喜びを知っちゃったんだよね。だから、たくさんバンドができて嬉しいよ。武藤ウエノは同じようなものを聞いてきたおじさん2人が、2人ともライブが好きで、いろんな街に行ってきままに演奏する。ま、ライフワークみたいなもんじゃないの? 勝手にしやがれとかthe HIATUSとかのスケジュールが入ってなかったら、すぐライブ入れちゃうもん。そういうユニット……じゃなくてバンドだな。

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