『週刊少年ジャンプ』作品の楽曲はどのように変化した? 創刊50周年記念コンピから分析

 1968年7月の創刊以来、数々の人気漫画作品を世に送り出してきた『週刊少年ジャンプ』が、2018年に創刊50周年を迎えた。この50周年に向けては、昨年の『週刊少年ジャンプ展 Vol.1 創刊から1980年代、伝説のはじまり』を皮切りに全3回にわたる最大規模の企画展がスタートしており、連載作をかるたにした『かるたジャン100』の発売や、山崎賢人主演の『斉木楠雄のΨ難』の実写映画化など様々なトピックが話題を呼んでいた。2018年も乃木坂46の西野七瀬が主演を務める『電影少女』の実写TVドラマ『電影少女 -VIDEO GIRL AI 2018-』(テレビ東京系)が放送開始。そして1月10日にはその熱気を音楽面から捉えたコンピレーション『週刊少年ジャンプ50th Anniversary BEST ANIME MIX vol.1』もリリースされる。

 『週刊少年ジャンプ』は、先行して創刊された『週刊少年マガジン』『週刊少年サンデー』に続く形で誕生し、1970年代に発行部数100万部を突破すると、1973年にはその2誌を抜いて少年漫画誌の発行部数でトップの座を獲得。1980~90年代には『キン肉マン』や『Dr.スランプ』『北斗の拳』『キャプテン翼』『DRAGON BALL』などのヒットを受けて300万部、500万部と一気に部数を拡大し、1995年の3-4月合併号(発売は1994年12月)では同誌の最大発行部数となる653万部を記録した。ちなみに、この号で連載されていたのは『DRAGON BALL』『SLAM DUNK』『キャプテン翼ワールドユース編』『るろうに剣心』『地獄先生ぬ~べ~』『ジョジョの奇妙な冒険』『ろくでなしBLUES』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』など。こうした作品がひとつの雑誌で週刊ペースで連載されていたのだから、いかに当時のジャンプが時代を象徴する存在だったかが伝わるはずだ。1990年代末~2000年代以降も『HUNTER×HUNTER』や『NARUTO』、『BLEACH』『銀魂』『DEATH NOTE』『バクマン。』『食戟のソーマ』など人気作品は数えればキリがなく、そのほとんどがアニメ化/実写化されている。『遊☆戯☆王』でカードゲーム・ブームと連動したり、『テニスの王子様』『黒子のバスケ』では女子読者のキャラクター萌え文化などとも共振したりと、時代によってカラーを広げながらもつねに王道であり続け、中でも1997年に連載がはじまり、1999年にアニメ化された『ONE PIECE』は、2015年に「最も多く発行された単一作家によるコミックシリーズ」としてギネス認定されて世界一の発行部数を誇るコミックとなった。

 80~90年代に幼少期を過ごした筆者にとっても『週刊少年ジャンプ』の作品群は小学校のクラスの話題の中心で、多くの作品がアニメ化されヒットした結果、「クラスの誰とでもジャンプの話ができる」という不思議な状況が生まれていた。そして、この漫画誌がこれほど大きな人気を博した最大の理由は、何と言っても掲載作品が “日本の少年たちにとっての王道のヒーロー像”を体現し続けてきたからだろう。『ジャンプ』作品には他の少年漫画誌の作品と比べるよりも、むしろ『ウルトラマン』や『仮面ライダー』といった日本の特撮ヒーローやマーベル/DCコミックのような海外ヒーローなどと肩を並べた方が自然なものも多く、今回の『週刊少年ジャンプ50th Anniversary BEST ANIME MIX vol.1』でも多くの楽曲名や歌詞に「ヒーロー」「一番」「No.1」という言葉が頻繁に登場する。それはやはり、『週刊少年ジャンプ』から生まれた数々の人気キャラクターたちが、正義のために悩み/戦うヒーローとして、少年の憧れの対象となってきたからこそだ。と同時に、『HUNTER×HUNTER』などでは善悪の境目がより曖昧になる瞬間もあり、様々な形で「正義」「友情」「仲間」を考え続けてきたのが、ジャンプの歴代作品だったのではないだろうか。

DJシーザー

 このコンピレーションでは、そうしたジャンプ作品を原作にしたアニメの楽曲群=“週刊少年ジャンプのアニソン”が誇る膨大なアーカイブから、現在のアニソンDJシーンの源流となった重要イベント『DENPA!!!』でも活躍したアニクラ界の帝王・DJシーザーが50曲を選曲してノンストップミックスを制作。昨今DJパーティーとして人気を集め、公式イベントを含む大バコでの開催も増加傾向にあるアニクラシーンの文脈を作品に加えることによって、ジャンプのアニソンの50年をあくまで今の視点から振り返ってまとめている。それぞれの楽曲はどれも各世代の少年たちが熱狂してきた人気曲ばかり。加えてDJシーザーはアニクラ黎明期からジャンプ楽曲の魅力を広めてきたDJであり、彼が得意とするショートミックスは楽曲の美味しい部分を残して可能な限り作品を網羅する今回のようなコンピレーションとの相性もいい。その結果、この作品には串田アキラや影山ヒロノブといったアニソン界のレジェンドの楽曲から、TM NETWORKや杏里といったアーティストが80年代に残した楽曲、そしてORANGE RANGE、KANA-BOON、LiSAといった近年の人気アーティストのものまで、新旧のアニソン~J-POP界を象徴する楽曲が多数収録されている。

 本作は『NARUTO』『BLEACH』『ハイキュー!!』といった近年の人気作からはじまり、『幽☆遊☆白書』から徐々に時代をさかのぼると、中盤に70年代~80年代のアニメ化作品を挟んでジャンプの原点へと向かい、終盤にまた現代へと戻ってくるような構成になっている。そうして感じられるのは、時代性/音楽性ともにバラエティ豊かな楽曲群の雰囲気だ。中にはアニメ化作品第一号となった『男一匹ガキ大将』や『ドラゴンボールZ』の「CHA-LA HEAD-CHA-LA」、『キン肉マン』の「キン肉マンGo Fight!」のようなアニソン・クラシックと言えるサウンドもあれば、『キャッツアイ』や『シティハンター』といった80年代の作品には当時のニューウェーブ~ディスコ、テクノサウンドもあり、90年代には「微笑みの爆弾」(『幽☆遊☆白書』)のようにカッティングギターを多用したディスコファンクを取り入れた楽曲もある。90年代末~2000年代以降の楽曲も同様で、ASIAN KUNG-FU GENERATIONやKANA-BOON、LiSAのようなストレートなロックサウンドもあれば、マキシマム ザ ホルモンやFear, and Loathing in Las Vegasのようにヘヴィ/ハードな楽曲、AAAのようなダンス&ボーカルグループの楽曲、ORANGE RANGEのようなミクスチャーサウンド~ヒップホップなど多種多様。『ニセコイ』でkz(livetune)が作詞作曲を担当したClariSの「CLICK」は、今年スタートする『電影少女』の実写ドラマでtofubeatsが主題歌を担当することにも顕著な“ジャンプの恋愛作品の主題歌”の流れを今に繋ぐものでもあるかもしれない。そうした楽曲の数々は、10代前半の少年たちにも響く普遍的なメッセージから、大人になってこそ分かる歌詞まで、ジャンプ作品がそれぞれのアーティストと化学反応を起こして辿った変化を伝えている。そして改めて振り返ると、その顔ぶれが『NHK紅白歌合戦』のような大型特番が成立する豪華ラインナップであることもジャンプらしい。

 時代を越えて様々なヒーロー像を定義してきた『週刊少年ジャンプ』の楽曲が詰まった本作には、50年の歴史の中で紡がれてきた様々な世代の少年の憧れや青春や思い出がぎっしりと詰まっている。つまり『週刊少年ジャンプ』の50年とは、言い換えれば、“日本の少年(少女)たちの青春の記憶が詰まった50年”だったのだろう。創刊50周年イヤーはまだはじまったばかり。本作のタイトルも『vol.1』と題されているだけに、続編にも期待したい。

■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。2015年より、音楽サイト『CARELESS CRITIC』もはじめました。こちらもチェックしてもらえると嬉しいです。

■リリース情報
『週刊少年ジャンプ50th Anniversary BEST ANIME MIX vol.1』
発売:2018年1月10日
【通常盤(CD)】 ¥2,500(税込)
1. GO!!! 『NARUTO-ナルト-』
2. *~アスタリスク~ 『BLEACH』
3. 天地ガエシ 『ハイキュー!! 』
4. アシタノヒカリ 『ワールドトリガー 』
5. 激動 『D.Gray-man』
6. 微笑みの爆弾 『幽☆遊☆白書』
7. 男一匹ガキ大将 『男一匹ガキ大将』
8. ワイワイワールド 『Dr.スランプ アラレちゃん』
9. Get Wild 『シティーハンター』
10. CLICK 『ニセコイ』
11. Fast Forward 『ぬらりひょんの孫』
12. voice 『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』
13. バリバリ最強No.1 『地獄先生ぬ~べ~』
14. ジョジョ~その血の運命~ 『ジョジョの奇妙な冒険』
15. CAT'S EYE 『キャッツ♥アイ』
16. キン肉マンGo Fight! 『キン肉マン』
17. 青春サツバツ論 『暗殺教室』
18. CHA-LA HEAD-CHA-LA 『ドラゴンボールZ』
19. Believe 『ONE PIECE』
20. 燃えてヒーロー 『キャプテン翼』
21. 愛をとりもどせ!! 『北斗の拳』
22. What's up,people?! 『DEATH NOTE』
23. バトンロード 『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』
24. 風 『NARUTO-ナルト- 疾風伝』
25. 冬のライオン 『キャプテン翼』
26. シングルベッド 『D・N・A2 ~何処かで失くしたあいつのアイツ~』
27. 顔でかーい 『ドクタースランプ』
28. ゴーゴーヘブン 『シティーハンター』
29. 桃源郷エイリアン 『銀魂』
30. サンバ de トリコ!!! 『トリコ』
31. Hey!!! 『べるぜバブ』
32. 遥か彼方 『NARUTO-ナルト-』
33. 希望の唄 『食戟のソーマ』
34. INNOCENT SORROW 『D.Gray-man』
35. 「夢」~ムゲンノカナタ~ 『レベルE』
36. だだだ 『べるぜバブ』
37. Make You Free 『テニスの王子様』
38. BOYS&GIRLS 『家庭教師ヒットマンREBORN!』
39. ヒカリへ 『ONE PIECE』
40. 曇天 『銀魂』
41. もしもの話 『バクマン。』
42. Rally Go Round 『ニセコイ: 』
43. Just Awake 『HUNTER×HUNTER (2011年版) 』
44. ライジングレインボウ 『食戟のソーマ』
45. 一輪の花 『BLEACH』
46. 炎のランニングバック 『アイシールド21』
47. Hero's Come Back!! 『NARUTO-ナルト- 疾風伝』
48. 道 『SKET DANCE』
49. Can Do 『黒子のバスケ』
50. イマジネーション 『ハイキュー!!』

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる