『逃げ恥』『リゼロ』手掛けた音楽作家・末廣健一郎が明かす『少女終末旅行』劇伴に込めた工夫

『少女終末旅行』劇伴の工夫

劇伴メインテーマに込めた“祈り”

ーーあと、使用楽器についても気になったので訊かせてください。今回は全編にわたって、ハープの登場回数が多いと感じました。

末廣:初めからガッツリ使おうとは思っていなかったのですが、透明感のある楽器を探していく中で、自然と増えていきましたね。メインとなるテーマについては、原作を読み込んでがっつり感情移入してから作るようにしているんですけど、『少女終末旅行』に関しては、「過酷な環境下でも日々淡々と旅を続ける彼女たちの、平和な日々が1日でも長く続きますように」という祈りも込めて、子守唄をイメージした曲が完成しました。「子守唄」というワードを踏まえて、女性ボーカルやハープの音色は欠かせないなと思ったんです。

ーーその「祈り」のような感覚が、教会音楽のような雰囲気を生んでいるのかもしれませんね。

末廣:確かに、ミサっぽい曲が多くなりましたね。この作品って、世界の全貌は見えていないものの、確実に終わりへ向かっていて。地球という1つの生命が終わろうとしている感覚と、少女たちの旅路を重ねて「子守唄」というワードを意識した部分が多いので。

ーーこの曲やほかの歌モノ劇伴で歌唱しているのは、末廣さんと長きにわたってタッグを組んでいるMAYUKOさんですよね。

末廣:そうです。彼女にはひたすら「生まれたての子供に耳元で聴かせるくらい優しく歌って」とお願いしました。

ーー最近だと映画『ミックス。』の劇伴も末廣さんとMAYUKOさんのコンビでしたが、あの作品ではロックっぽい歌モノ劇伴でした。

末廣:色んな声を使い分けてくれるので、すごくやりやすいです。改めて思うんですけど、声ってやっぱり難しいんですよね。音符だけでは伝えきれないものが多いですし、その人自身が持ってる個性や、生まれ持っての声質もすごく影響してくるので。

ーーバンド時代にインストが好きになって映画音楽へと足を踏み入れて、キャラソンやアニソンを作って、今あらためて劇伴の世界で歌ものに向き合っているからこそ、見えてくるものもあるのでしょうか。

末廣:今となっては、その時の経験や知識がものすごく生きているなと思います。声の使い方も、メロディの感覚も。

ーー歌メロを作る感覚というのは、やはり別物ということですかね。それは実写・アニメのどちらでもいえることですか?

末廣:両方にいえますね。歌のメロディをコントロールするという意味では同じなので。『ミックス。』では「ザ・歌モノ」というくらいの曲を作って、『少女終末旅行』では、劇伴に寄り添った歌モノを作りましたが、どちらのコントロールも苦ではありませんでした。

ーーなるほど。個人的に、アニメ『少女終末旅行』は劇伴を意識せざるを得ない作品になっていると思うんです。1話目からオープニングとエンディングがなくて、ともに劇伴が頭と後ろを飾っていて。

末廣:あれに関しては、僕もどう使うか聞いてなかったので、さすが明田川さんだなと(笑)。最初は「彼女たちの日常や旅をメインにした曲」「気持ちが高揚した曲」「作品の世界観を包み込めるメインテーマ」というオーダーをいただいて、そのうち2曲がオープニングとエンディングになったんです。

ーー『リゼロ』の時もそうでしたけど、オープニングとエンディングは当たり前にあるもの、という固定観念を容赦なくぶち壊してきますよね(笑)。最近だと8話も9話もエンディングテーマが無かったり、別の曲になっていたりして。

末廣:確かに、そういう演出が多いですよね。レコーディングが終わった後はいち視聴者としてアニメを見ているんですが、明るいオープニングもエンディングも素敵ですし、それが来るものだと思っていたら裏切られたりして、すごく引き込まれますよね。個人的に素敵だなと思ったのは5話の演出でした。

ーー水滴の音から「雨だれの歌」に繋がって、エンディングへと向かう演出ですね。そういえば、物語上では2人の少女以外にもカナザワとイシイという人間が登場しますよね。彼らの登場シーンについては、劇伴ではっきりと重い雰囲気を付けていると思うのですが。

末廣:僕、いま36歳なんですけど、この2人の年齢っていまの自分に近いような気がしたんです。イシイが最後にパラシュートで降りて行く時のセリフとか、すごく胸を打つんですよね。なので、普段ドラマの劇伴を作っている時の心情に近い感覚で作りました。チトとユーリの世界観には、少しファンタジーの要素があるんですけど、カナザワとイシイについてはそのあたりをまったく考えませんでした。

ーー「現実感を出す」というのは、具体的にどのような手法を使うのでしょうか。音数を少なくしたり、といったことですか?

末廣:いえ、完全に自分の主観でしかないんですが、ファンタジーっぽいコード感や和音の感じがあるのと同様に、現実世界に向いてるコード感やメロディもあると思っていて。その蓄積から作品に合うものを引き出しているという感覚ですね。

ーー初歩的な話ですけど、明るいメジャーコードのほうがポップに聴こえたり、マイナーコードの方が悲しく聴こえたり、といったことの延長ですか。

末廣:難しいですね。「ファンタジックな雰囲気」というのは、明るい・暗いの二元論とはまた別なところにあると思っています。だって、明るいファンタジーも暗いファンタジーもあるじゃないですか。改めて話してみると、自分でもどう蓄積しているのか不思議に思えてきました(笑)。

ーー末廣さん自身、劇伴作家としてのスタイルをどのように確立してきたのか気になります。

末廣:なかなか難しい質問ですね(笑)。個人的には、エンタメ性が強い作品が昔から好きで、それらの影響は大きいかもしれません。ヘンリー・マンシーニ、モリコーネ、アラン・シルヴェストリ、あたりから受けた影響は大きいと思います。現代を描いたリアルな作品でも、ファンタジックな劇伴を付ける人たちですよね。僕自身もエンターテインしてもらう劇伴というのは常に心がけていますし、作品が明るくても暗くても、「見てよかった」と思ってもらえる手助けをしたいと思っています。

ーーこの先、末廣さんが目指す音楽作家像とは?

末廣:僕、自分で言うのもなんですけど、結構変わった経歴だと思うんです。小さい頃からピアノや楽器を習ってたわけでもなく、音楽的な教育も受けずに、パンクロックのドラムやギターから入って、映画音楽家を目指していますし(笑)。そこから歌ものの仕事もしたうえで今のキャリアへ進んでいるので、他の方よりも広い視野で映画や音楽のことを見れているような気はしています。

ーー俯瞰できてるというか。

末廣:そうですね。自分の音楽を聴いてもらえたら勿論嬉しいんですけど、一方で作品をすごく良く見せるためなら、自分の曲はどうでもいい、という感覚がどこかにあるんですよね。

ーーそんな末廣さんでも、今後やってみたいジャンルや作品はもちろんあるわけですよね。

末廣:やったことないジャンルの発注は常に待っています(笑)。

ーーこれだけお仕事をしていると、やったことないジャンルもどんどん減ってきていますよね?

末廣:やったことないジャンルって、なかなか発注が来ないんですよ。「この人はこれが得意だから」という適材適所でお話をいただくことが多いと思うんです。僕は、実写はラブコメ系が多いですし、アニメも『リゼロ』のイメージが強いみたいで(笑)。

ーーでは、今後やってみたいジャンルは正反対のところにあると。

末廣:そうですね。さっきヘンリー・マンシーニの話をしましたけど、学生時代の先生がジャズ畑の方で、当時はマンシーニやジャズのビッグバンドばかり教えられてたんです。なので、そういう曲もやってみたいですし、全編に渡って電子楽器をゴリゴリ使ってみたかったりもします。あと、ギターがメインのバトルものもやってみたいですね。今のモードとしては「戦いたい」欲が強いかもしれません。

(取材・文=中村拓海/場面カット提供=(C)つくみず・新潮社/「少女終末旅行」製作委員会)

『TVアニメ「少女終末旅行」オリジナルサウンドトラック』音楽:末廣健一郎

■リリース情報
『TVアニメ「少女終末旅行」オリジナルサウンドトラック』
音楽:末廣健一郎
発売:12月20日(水) 
価格:3,200円(本体)+税
発売・販売元:株式会社KADOKAWA

<収録内容>
・Disc 1
1.少女終末旅行 -Main Theme-
2.あの瓦礫の向こうへ
3.風ト廃墟ノ散歩道
4.ケッテンクラート
5. 終末ノ昼下ガリ
6.時ノ記憶
7.フタリボッチ
8.君と過ごす日々
9.チーズって何?
10.チトとユーリ
11.甘いって幸せ
12.哀しみと迷い
13.遡ル記憶
14.優シイ日々
15.答エヲ探シテ
16.弾ム心
17.君ヲ想ウ
18.心ニ触レテ
19.僅カナ希望
20.TVアニメ『少女終末旅行』オープニングテーマ「動く、動く」-Piano version-

・Disc 2
1.静寂ノ旅路
2.行動ト前進
3.探索
4.喪失
5.理由
6.瞳ニ映ル景色
7.生キ残リ
8.光ヲ求メテ
9.共感ト自律機械
10.ヌコ
11.予兆ト警戒
12.文明の痕跡
13.白銀
14.この素晴らしき終末世界
15.終ワリノ歌
16.夜想曲第2番 変ホ長調 op.9-2 -ノクターン-
17.アイキャッチ1
18.アイキャッチ2
19.アイキャッチ3
20.TVアニメ『少女終末旅行』エンディングテーマ「More One Night」-Piano version-

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