ゆるめるモ!は結成5年を経てどこへ向かう? プロデューサー田家大知に改めて訊く

田家大知が語るゆるめるモ!の今

「ゆるめるモ!が5年やってきたことにピッタリなものができた」

ーー2016年7月10日の新木場Studio Coast公演をもって2人が脱退して、以降は現在の4人になりました。あの時期に囁かれていたメジャーデビューの話はどうなったんですか?

田家:あれはいろいろあって……(笑)。

ーー今のゆるめるモ!は、テレビには出ているのにインディーズのままで、不思議な存在ですよね。

田家:メジャーで宣伝費をどんどんかけてほしいし、僕らが知らないタイアップのルートも知りたいんですけど、今はインディーズでのやり方を少しずつ知ってきているので、いい話があればメジャーで出したいですね。でも、メジャーでうまく行っていなそうなグループも見ているので、慎重に、今はちょっと自分たちで頑張れることをやりたいかな。

ーー現在の4人に対して成長したなと思うところはありますか?

田家:大雑把な言い方になるんですけど、全員意識が高い。4人になってから、自分なりに考えて動くことができるようになりました。意志を持つ「個」として動いてくれるので、すごく頼もしいですね。逆に、そうじゃないと今のスピード感ある状況と体制にはついてこられないと思うんです。4人の思いの強さは同じなんで。

ーーなぜ5年間ゆるめるモ!を続けられたと思いますか?

田家:「音楽的に遊びたい」っていう僕の思いがすごく強いんですよ。アイデアが尽きたこともないし、頭の中にあるものを早く全部やらないといけないと思ってるし、客観的に見てもそれらのアイデアが形になったら面白いことも見えてるので、勝手に「死んじゃだめだな」と思っていたり。

ーーだからどんな困難な状況になっても、ゆるめるモ!を続けていけるんですね?

田家:そうですね。そこだけは自信とプライドがあって揺るがないんですよね。負けず嫌いだし、他のグループに絶対負けない自信があるから飄々とやってきて、5年経っても炎が消えることもなくひたすらやっている感じです。

ーー『YOUTOPIA』の前に、今年はPrimal Screamの『Screamadelica』をオマージュした『ディスコサイケデリカ』と、Talking Headsの『Remain in Light』をオマージュした『TALKING HITS EP』がリリースされたじゃないですか。ああいうのはどの程度反響があるものなんですか?

田家:ないんですよ(笑)。でも、「このグループはそういう方向性の音楽をやりたいんだな」という意志を提示できるのでわかりやすいじゃないですか?

ーー『TALKING HITS EP』の「NEW WAVE STAR」を聴いて、Talking Headsの「Life During Wartime」だと感じたんですよ。そういう指摘はありましたか?

田家:Twitterとかで見かけたのは10人ぐらいですかね(笑)。でも、それでもいいかな。Talking Headsをリスペクトしてるからメンバーにもそういう面白さを感じてほしいし、感じてると思うんですよ。Primal Screamも知らなかったけど、『Screamadelica』を中古で4枚買ってきて4人にあげたら、4人にとって遠い存在ではなくなったんです。あの子たちの世代では出会いもしないTalking Headsのオマージュをやることによって、自分たちの中へ飲みこむという作業をして、音楽的な深さ、人間的な深さ、歴史的な深さを彼女たちのものにできるんじゃないかなという小さな願いはありますね。

ーーそれができても「NEW WAVE STAR」は『YOUTOPIA』に入ってないですよね(笑)。

田家:それは5周年シングルという意味を強めたかったのと、シングルのジャケットと曲の結びつきも強すぎたので(笑)。あえて入れませんでした。

ゆるめるモ!(You'll Melt More!)アルバム『YOUTOPIA』ティザー映像

ーーそして『YOUTOPIA』の1曲目「歩くの遅い犬」は、ボーカルがいきなり生々しくて驚きました。艶めかしいですね。

田家:ボーカルをねちっこい感じにしたいと話したんですよ。The Musicとか、The Chemical Brothersにノエル・ギャラガーが参加した「Setting Sun」とか「Let Forever Be」とか、OasisとかSuedeとかThe Stone Rosesもメンバーに送ったかな。曲を渡したら、どう歌いたいかインタビューするんですけど、4人もそういう方向性を理解してくれていて、トリップさせて酔いしれるような形で歌ったんです。結果として艶めかしさ、セクシーさみたいなものはあるかもしれないですね。サイケデリックな曲にしたいなと思いました。

ーー作曲のmooksというのはどなたなのでしょうか?

田家:「歩くの遅い犬」は、昔解散しちゃったmooksというバンドの曲なんですよ。僕の友達のバンドなんですけど、超かっこよくて。2000年代初期のバンドで、ネットにも情報が残ってないんですけど、時代的に出るのが早すぎたんです。そのバンドの曲をリメイクして世に出したいなとずっと思っていて、共通の知り合いでもある作詞の小林愛さんとも話してたんですけど、連絡も取ってなくて、許可を取るのも大変なのかなと考えてたら、mooksのドラムがまさかのドルヲタになってて、生ハムと焼きうどんと対バンした現場で15年ぶりくらいに再会したんですよ。「あの曲やりたいんだけど」って言ったら、mooksのメンバーたちも全員「ぜひ」って言ってくれて。ドラムは彼に叩いてもらって、上物のアレンジは安原兵衛さんがやってくれて、ギターはあのも弾きましたね。

ーー2曲目の「逃げない!!」は、「逃げろ!!」のセルフアンサーソング。曲名に驚きました。

田家:いや、これはセルフアンサーソングというわけではないんですよ。それぞれが全く独立したものとして「逃げたいときもあるし、立ち向かいたいときもあるよね」って、2つの形を届けていければと思っています。

ゆるめるモ!「逃げない!! 」MV

ーーでも、歌詞を読むとスタンスは「逃げろ!!」と同じで、「逃げてもいい」と言っている自分たちを客観視したうえで<私は逃げない/逃げたい君を 置いてはいかない>と歌っていますよね。すごい成長だと思いました。

田家:これは小林愛さん(ゆるめるモ!の重要曲の多くを手掛けてきた作詞家)が4人を見て、今のタイミングで歌うことを考えてくれた感じですね。

ーー3曲目の「ミュージック 3、4分で終わっちまうよね」は『ディスコサイケデリカ』から。メンバーが言われた罵詈雑言を小林愛さんが歌詞にまとめたものですが、この挑発には強烈なロックンロールを感じます。

田家:面白い試みができたなと思いますね。メンバーと僕の会話の中で「面白くない?」みたいな話になって、「みんなどんなこと言われたの?」って聞いて集めて、愛ちゃんに送ったらこんなにもいい歌詞にしてくれました。

ゆるめるモ!(You'll Melt More!)『ミュージック 3、4分で終わっちまうよね』(Live Music Video)

ーーゆるめるモ!が受け身のグループじゃないことが端的に出ている楽曲ですよね。

田家:転んでもただじゃ済ませないという感じがしますね。

ーー4曲目の「モイモイ」も『ディスコサイケデリカ』から。こういうみんなで踊る楽曲をライブでやってみた結果はいかがでしたか?

田家:狙い通りでしたね。より多くの世代の人が入ってきやすいBPMで、踊れる曲というテーマでハシダカズマさんに作ってもらったんです。サウンドが面白くて、歌詞や踊りが親しみやすい。いろんな人が入ってきてほしいので布石として作った感じですね。ディスコとグラムロックを混ぜてみたんですけど、これをなかなかやってる人はいないかなと思います。

ゆるめるモ!(You'll Melt More!)『モイモイ』(Official Music Video)

ーー5曲目の「しんぼりくむ れすぽんす する」はPOLYSICSのハヤシヒロユキさん作編曲。ゆるめるモ!が「ニューウェーブ・アイドル」だとすっかり忘れていましたが、アルバムの中で初めてニューウェーブが出てきました。

田家:実はこの曲は『ディスコサイケデリカ』のときにはできていた曲なんです。ただ、ハヤシさんと話したら、歌詞は愛ちゃんが書いたほうがいいんじゃないかという話になって、初めてのタッグを組んでもらいました。

ーー6曲目の「Youとピアザ」はアルバムを象徴する楽曲ですね、<ユートピア>という言葉も出てきますし。しかも四つ打ちかと思いきやサンバのリズムも入ってきます。

田家:これは最後のほうにできた曲です。最初のほうに「天竺」や「ごろごろ物思い」や「歩くの遅い犬」みたいな飛ばしてる曲がいっぱいできて、最後のほうになって「明るくてみんなで騒げる曲があるといいな」と思ってM87さんに作ってもらったんです。4人の少年漫画感、ヒーロー感みたいなものを出したくて、愛ちゃんにそういう感じをお願いしました。君と<ピアザ>、つまり<広場>を作ってきたんだという歌詞で、ゆるめるモ!が5年やってきたことにピッタリなものができたと思いますね。

ーー7曲目の「サマーボカン(Remastered)」は『WE ARE A ROCK FESTIVAL』からです。4人になったゆるめるモ!混乱期に生まれたことを感じさせない爽快な楽曲ですね。

田家:「サマーボカン」はそれまでのファンからは賛否両論あった曲で、「今風の売れ線の曲を出してきた」みたいな反応もあったんです。僕は全然ブレてないですけど、それをロックっぽくしたときに「遠い」と感じた人がいたみたいですね。でも、充分変な曲ですし、和のリズムで踊れる感じを作ってるんです。『YOUTOPIA』は無国籍、多国籍でいろんなリズムを入れてるので、「サマーボカン」や「モイモイ」も同じベクトルで作っていることがより伝わるんじゃないかな、と思ってアルバムに入れてみました。

ゆるめるモ!(You'll Melt More!)『サマーボカン』(Official Music Video)

ーー8曲目の「やる」は、ゆるめるモ!としては珍しいほどエレクトロに傾斜していますね。

田家:エレクトロクラッシュやニューレイブはみんな大好きだと思うし、僕も多大なる影響を受けてるんですけど、実はゆるめるモ!はそんなにやってなかったし、このタイミングでの4人にすごく合うなと思ってハシダカズマさんにお願いしました。ハシダさんなりの想いも詰め込んでくれて、いい具合にサビもマイナーな感じで、しかもサビのキーも3回とも違うんです。

ーー9曲目の「うんめー」は『ディスコサイケデリカ』から。大森靖子さんが作詞作曲した楽曲も、ハシダカズマさんのアレンジも、何度聴いても美しいですね。ラブソングにならない絶妙な距離感の「君と僕」が描かれていて。

田家:大森靖子さんが4人に会って、雑談をずっとしてて。「休みの日何してるの?」とか「好きな色は何?」とか「好きな食べ物は何?」とかずっと話して、そうしたら大森さんが「もう大丈夫、書けます」と言って。会話に出てきたことが絶妙に歌詞に出ていて、すごいなと驚きました。もちろん大森さんのオリジナルの言葉もありますけど、4人にすごく溶けこんでいる空気感だと思いますね。

ゆるめるモ!(You'll Melt More!)『うんめー』(Official Music Video)

ーー10曲目の「あ!世界は広いすごい」は『TALKING HITS EP』から。<あ、恥ずかしい  これが"仲間"かも>という歌詞は、ゆるめるモ!を見守り続けた小林愛さんならではのものだと感じました。

田家:4人とも<仲間>なんて言葉を積極的に使うときはないし、うまいなと思いましたね。

ゆるめるモ!(You'll Melt More!)『あ!世界は広いすごい』(Official Music Video)

ーーサウンド的にはパワーポップですね。

田家:僕の中ではThe Rentalsですね。アナログシンセのブヨブヨとはずむ感じを出したくて。「モイモイ」と同じベクトルで、ゆったりしたBPMですね。ファンキーに踊らせたい曲だと言うことを作曲のオータケハヤトさんに伝えたら理解してくれて、裏打ちで踊らせるリズムにしてくれて。ただWeezerのようなパワーポップで終わることなく、モーグ・シンセサイザーを入れるところにゆるめるモ!らしさが出ているかなと。

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