乃木坂46『アンダーライブ九州シリーズ』に見た、メンバーの成長とその立場をめぐる課題

乃木坂アンダーライブに見た成長と課題

伊藤かりん(右)

 あるいは、かねてよりMCで俯瞰した視野を発揮してきた伊藤かりんは今回、一人でまとまった時間を与えられての語りで、アンダーメンバーの葛藤や見据えるものを説明してみせる。現在アンダーが置かれている状況に対して、メンバーたちが「感情」を表現する今回の九州シリーズにあって、セットリスト全体の流れを整える重要な役どころをまっとうしている。彼女の優れた説得力も、一朝一夕に獲得されたものではない。アンダーだけでのライブを重ねてゆくなかで、彼女たちはそれぞれに、ライブトータルの水準をさまざまな面で底上げしてきている。

 その伊藤かりんが17日公演のMCで語ったのは、九州シリーズの参加メンバーが、昨春のアンダーライブ東北シリーズ当時のメンバーから新内眞衣が抜けた顔ぶれであることだった。それは、アンダーメンバーの固定化を意味する。メンバーが着実に成熟を見せているだけに、メンバーの固定化、そしてそれ以上に組織内での実質的な役割の固定化が長期にわたって続いてしまうことは怖い。

 そのことを考えるとき、今回のセットリストで後半のキーになる「アンダー」という曲はある意味で罪深い。18枚目シングルのアンダー楽曲として書かれた「アンダー」に託された世界観は、ともすればアンダーのイメージや役割を局限しかねない。アンダーライブにおいてメンバーたちは確かに、自身がアンダーの立場にあることをむしろ梃子にして力強さを見せてきた。しかし、その奮闘は自らをどこまでも「アンダー」たらしめるためにあるわけではない。アンダーライブを誇ることは、より複雑で、矛盾をはらんでいる。

 現在のメンバーたちがライブパフォーマンスでみせる冴えも、同時に抱える葛藤も、「アンダー」という楽曲の歌詞がとらえる視野におさまってしまうほど小さなものではない。彼女たちのパフォーマンスに対して、そのつど具体的な世界観をほどこしてゆくのが各楽曲の役割だが、従来の乃木坂46楽曲よりも具体的に彼女たちに引きつけた曲だからこそ、そのことが明確になった。

 アンダーメンバーは現在、選抜/アンダーをめぐるグループ内の物語の駆動と、関東圏外へと乃木坂46を浸透させる広報部隊という、本来ベクトルの大きく違う二つの役割を同時に背負いながら、ライブのレベルを上げ続けている。グループ全体の対世間的な好調さが必然的に抱える、アンダーの立場をめぐる課題に対して、楽曲や施策によって次の希望をいかに開拓できるか。来たる東京ドーム公演以降のグループのバランスにとって、それが重要なポイントになる。

(画像=(C)乃木坂46LLC)

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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