Akira Sunset、Carlos K.、丸谷マナブ、Soulife…J-POP最前線の音楽作家が手の内を公開

J-POP最前線の音楽作家が手の内を公開

受講生たちは必死にメモを取りながら、売れっ子作家たちの話に釘付けになっていた

Carlos K. 提出曲「Don’t Give Up」&「Still you_re here with me」

 2015年に『オリコン年間ランキング 作曲家部門』で1位を記録し、2016年には作曲・編曲を手がけた西野カナ「あなたの好きなところ」で『第58回日本レコード大賞』にて大賞を受賞したCarlos K.が3人目として楽曲を公開。「朝まで粘って、コンタクトレンズの片目を排水口に流してしまった」とギリギリまで制作していたことを告白し、会場の笑いを誘うと、時間を要した理由について「コンペシートを網羅したくなっちゃって。いつも作ってるリトグリっぽさを重視しつつ、タイアップになりそうなアップテンポ。そこに爽やかな甘酸っぱさ、ハーモニー、ライブ映えを詰め込んだ曲をまずは作って、そこからミドルバラードでも1曲」と、貪欲に2曲分制作していたことを明かした。また、彼はリトグリ楽曲を多く手掛けているが、その際には「(リトグリの曲は)コーラス隊の動きも考えながら作っている」と手の内を公開した。

 1曲目の「Don’t Give Up」は、R&B風のAメロから、スクラッチ音も入ってクラブミュージック調になるBメロを経由し、サビでは早めのシャッフルビートへと展開する、コーラスの重ね方が見事なアッパーチューン。2曲目の「Still you_re here with me」は、Nujabesのようにメロウな、全英語詞のジャジーヒップホップ。Carlos K.はこの2曲について「どっちの曲も転調する。欲張りだからサビが2個あるような作り方をしちゃって……。イントロで使ってる部分がサビだったけど、それだとつまらないと思って、みんなで歌えるサビをもう一つ用意しました」と解説すると、灰野氏は「最近は要素の多いものが採用されるパターンが多いですよね」と補足。佐々木は「オケの作りが独特。僕は生演奏を主体に考えるタイプなので、打ち込みの中での想定で作っている、頭の中のロジックが違う」と、自身とは違うCarlos K.の作家性を評価した。

 また、リズムの作り方について質問されたCarlos K.は「バラードはリズムを作ってからピアノを入れる。アップテンポはイントロのコードから作っていくんですけど、イントロからAメロで転調するためにはどこに行ったら良いのか考えて、ピアノのあとにギターを入れるんですが、この2つの絡みが大事だと思っています」と、自身の制作における“核”を惜しげもなく公開してくれた。

丸谷マナブ 提出曲「Be Allright」

 最後はAKB48や三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE、乃木坂46の楽曲を手掛け、以前ソニックアカデミーのセミナーで参考曲として提出した楽曲がリトグリのシングル表題曲に採用(「好きだ。」)された丸谷マナブ。彼はリトグリが直近でリリースした楽曲を手掛けていると前置きしたうえで「今回は僕がやりたいものをやろうと。2018年は20歳になるメンバーが出てくるし、彼女たちの目標には2020年の東京オリンピックや世界ツアーに向けての期待や希望が生まれる年。そんな1年を彩るアルバムの1曲目を飾るものにしようと思った」と語り、灰野氏が「僕もまだアルバムのコンセプトを考えてないのに」と感嘆の声を上げるなか、楽曲「Be Allright」を披露した。

 同曲は英詞のゴスペル風コーラスワークでスタートし、徐々に盛り上がりながら、キメを多用したAメロ~Bメロからアッパーなサビへと展開するソウルフルなポップス。丸谷は何度も見たという彼女たちのライブをイメージしたうえで「暗転していて、彼女たちが出てきたら『キャー!』という歓声が上がるんです。だから、フィンガースナップからスタートして、ドラムロールで明転したら、ファンも喜ぶんじゃないかと思って」と楽曲に込めた仕掛けを明かした。

 そのうえで、丸谷は「とはいえタイアップも意識したいので、サビだけを切り取ると抜けが良く聴こえることを意識した」とさらなる工夫について解説すると、灰野氏は「コンサルタントじゃないかと思うくらい、提案型の作家さんですよね」と賞賛し、そのうえで「最近書いている曲がどんどん黒っぽくなってきてません?」と質問。これに丸谷は「あまり得意ではないんですけど面白いなと思っていますし、今のリトグリにはこれくらいちょっと踏み出した感のある感じが合ってるんじゃないですかね」と、自身のモードとアーティストの特徴を考えた上での方向性であると説明した。

 その後、仮歌についての話題を交えながら4組の楽曲解説を終え、講義は終盤の質問タイムへ。ここでは「楽曲提供アーティストへキーを合わせる際に気をつけること」という質問に対し、「いつもはトップがBでたまにC#、男性でG#とかAくらい。大人数グループだとBのことが多いです」(Akira)「ちょっと上のほうが派手に聴こえるのもあって、半音上げで作って後で下げるパターンもある」(Calros)、「ちょっと危険な感じがいいけど、そればかりやりすぎるとライブが辛くなる」(灰野氏)といった回答が。

 また、トラックのミックスダウンについて「歌がウェットな感じに聴こえるミックスが出来ない」という相談が寄せられると「ボーカルの空間を作るならプリディレイ。テンポ感やオケの厚さで変わるので」(丸谷)とリバーブのパラメータ調整で解決できることを明かした。

 そして講義の最後は、受講生の提出した楽曲を論評するコーナーへ。この日の受講生からはアイドルポップス風の楽曲、和の要素を感じさせるバラードの2曲が提出されたほか、提携している『山口ゼミ』からもコライトによって制作された3曲を公開。灰野氏が「一人じゃ足りなくても、こうやって学びあってやっていくことで成長もできる。うちでもどんどんやっていこうと思います」とコライトを勧めたところで講義が終了した。

 講義を終えたあと、壇上では灰野氏が「この時間を通して、どんなことを考えてコンペシートを読み解いているか垣間見ていただけたと思います」と総括し、続けて「音楽業界が変わっていく中で、作家の在り方が変わってくる。こういうセミナーを通じて、世に出るチャンスを作っていきたいというのが大きな趣旨なんです」と改めて同イベントを開催する意義について熱弁した。

 最前線で活躍する音楽作家が、自身の手の内を明かしつつ、楽曲に取り組む姿勢や提案の仕方など、頭の中まで公開する機会はそう多くない。だからこそ、こうして多数の音楽家が学び、気付く場が大事なのだ。今回の講義は、その重要性を理解するには十分といえる内容だった。

(取材・文=中村拓海)

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