『宝石の国』『ボールルームへようこそ』『血界戦線』…2017年秋アニメ注目OPテーマを分析

ステップアップLOVE / DAOKO × 岡村靖幸(作詞:DAOKO、岡村靖幸 作曲・編曲&プロデュース:岡村靖幸)

 ここまでと同じく、この曲もキャスティングを見て喫驚したうちのひとつ。アニメ『血界戦線 & BEYOND』(MBS、TOKYO MXほか)のエンディングテーマで、『スペース☆ダンディ』(2013年)ぶりとなる岡村靖幸のアニメタイアップ。しかも今を時めくDAOKOとのコラボ。この2017年に10代の子たちがアニメで岡村靖幸を知るなんて、「どぉなっちゃってんだよ」と思わずにはいられない不思議な感覚だ。

DAOKO × 岡村靖幸『ステップアップLOVE』MUSIC VIDEO

 楽曲は極めてシンプルなコード進行に、バキバキと乗ってくるパーカッシブな要素が印象的。この感じはいかにも岡村らしいエレクトロビートだが、同曲ではそのビート感がさらに練度が高く、かつビートだけでないリリシズムも随所に見られる。メロもDAOKOパートと岡村パートでは微妙にアレンジが異なっており、タイトなパートながら厚みを変えることで退屈さを感じさせない。1番でビルドアップ(サビ前の盛り上がり)かと思わせたメロをもう一度繰り返すところも、捻くれた魅力を感じさせるポイントだ。

 DAOKOのウィスパーボイスなラップが引き立つ同曲は、「打上花火」で彼女を知ったファンにもアピールできること間違いなし。若いリスナーにとっては岡村を知るきっかけに、玄人リスナーにとってもDAOKOというアーティストの可能性に触れられる、双方向な良コラボに仕上がったのではないだろうか。

鏡面の波 / YURiKA(作詞、作曲、編曲:照井順政)

 『宝石の国』(MBS、TOKYO MXほか)のオープニングテーマで、ハイスイノナサ・照井順政がプロデュースを手がけている同曲。『宝石の国』は11月号の月刊MdNが特集している「アニメの撮影」というテーマで大々的に取り上げられたりと、その映像美と制作フローはアニメ体験としても新しい。そんな未知の映像体験にパワー負けしないのが、この「鏡面の波」だ。

TVアニメ『宝石の国』OPテーマ「鏡面の波」MV

 拍子迷子になりそうな導入から、徐々に鮮明になっていく楽曲のアウトライン。宝石という神秘性を取り扱う作品の幕開けとして、全く申し分ない雰囲気を醸し出している。この段階で掴みはバッチリといったところで、リムによる裏打ちが入ってからも不安定なメロディが透明感と神秘さを綯交ぜにしていく。メロディを紡ぐYURiKAのボーカルが絶妙に脱力しているのもその要因のひとつだが、平衡していたビート感はBメロで大きな展開を見せる。

 これぞハイスイノナサ味といってもいい、開放を司る<E♭M7>がここで全開に。その展開に呼応するかのようにメロディはロングトーンを迎え、映像も天蓋のない開放感を連想させるシーンが映され、感覚がリンクする。詰まっていた息が一気に解き放たれるこの感覚は、アニメオープニングのパターンとしては珍しくないものの、曲調や映像、作風、持っていき方など多様な要素により芸術的と表現したくなるほどだ。こうなれば続くメロディの三連符やサビからの展開も、全てがその位置にあるのが正しいかのように聞こえてくる。

 展開と収斂、平衡と不安定。そうした両極さは宝石にも通じるものがあるのかなと勘ぐることもできるが、そのような物語性をこの90秒の間に感じたとしても不思議ではないだろう。個人的にこの手の雰囲気が好きというのもあるが、今一番人に聞いて欲しいアニソンはと言われれば、迷わず「鏡面の波」を推したいと思う。

 今クールの秋アニメは、いわゆるアニソン然としたアニソンとは別方向のサウンドが気になった。『宝石の国』のような実験的なものから『URAHARA』のようなポップカルチャー一直線のようなものまで、アニメの幅は日進月歩で広がっていく。となればそれを表すテーマソングも拡張せざるを得ないのだろう。

■ヤマダユウス型
DTM系フリーライター。主な執筆ジャンルは音楽・楽器分析、アーティストインタビュー、ガジェット、プリキュアなど。好きなコード進行は<IVM7→VonIV>、好きなソフトシンセはSugarBytesの「Obscurium」。主な寄稿先に『ギズモード・ジャパン』、『アニメイトタイムズ』、『リアルサウンド』。

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