姫乃たまが井上三太に聞く、漫画と音楽をつなぐ上で必要なこと「自分が常に新しい人でいないと」

姫乃たまが井上三太に聞く“音楽との関わり方”

漫画と音楽の交差点に立つ

ーー漫画家として音楽の仕事に携わるようになったきっかけはなんですか?

井上:僕は「ヤングサンデー新人賞」でデビューしたんだけど、次の新人賞の時に優勝者として募集ページにイラストを描くことになって、新人賞のページなのにR&Bのイラストを描いたの。「ガイが好き」とかそういう内容の。当時、『(週刊)ヤングサンデー』でギャグ漫画を描いていた喜国雅彦さんが、好きなヘビーメタルについての漫画も描いていて、漫画でヘビーメタルが好きってことを表せるってわかったから、僕はR&Bが好きな漫画家として仕事がしたいと思ったんだよね。その後、『宝島』で連載してた電気グルーヴの「脳が溶ける奇病」にイラストを描かせてもらったり、『rockin’on』でも仕事をさせてもらえるようになりました。

ーー井上さんはミュージシャンにもファンが多いですが、最近CDアートワークを手がけられた防弾少年団のメンバーも、もともと井上さんのファンだったと聞いています。

井上:彼らは僕の漫画を読んで依頼してくれたんですけど、僕も防弾少年団の曲を聴いてみたら、すごいヒップホップをやってるので好きになって、お互いに尊敬できて嬉しかったですね。彼らは、ファンがすごく熱狂的なんですよ。メンバーの誕生日になると、誕生日用にラッピングしたバスを走らせたり、ニューヨークのビルに写真を貼り出したり。ジャケットを描かせてもらった後は、ライブを観に行くとファンの人が僕にも声をかけてくれて、それも嬉しかったです。

ーーCDのアートワークを作っていく上で、困ってしまったこともありますか?

井上:うーん、あまり意見をもらえないのは困っちゃう。ラフを見せてOKが出たのに、完成した後に何回も描き直すことになったり、ジャケットの表紙を依頼されたはずなのに、発売されてみたら裏に使われてたり……。理由を聞いたら、もう少し違うイメージでお願いしたかったって言われたので、やっぱり最初に意見は言って欲しいです。遠慮してるのかもしれないけど、結局お互いにいい気持ちで仕事ができないのは良くないですよね。

ーー井上さんがジャケットのイラストを描く時に、気をつけていることはなんですか?

井上:好きなミュージシャンのジャケットを描く時には、まずファンである自分をがっかりさせたくないです。中身がいいのにジャケットが負けてるだろって、自分が思うのは嫌だし、ミュージシャンが作った音楽に真剣に向き合いながら、僕にとっても自分の代表作にしたいという意気込みでいつも描いています。そしてその前に自分が常に新しい人でいないと、ミュージシャンからお願いしてもらえなくなっちゃうと思う。まだ公の場では言ってないんですけど、LAに住むことにしたんです。以前、De La SoulのCDのジャケットを描かせていただいたんですけど、今度は本場のアメリカに行って仕事をしたいと思ってるんです。

ーーわあ、ずっと進んで行こうとする姿勢がすごいです。

井上:いやいや、日本でやりたいことをやり尽くしたからアメリカいくぜ、みたいな格好いい話じゃないんですよ。ただ、漫画雑誌が大変っていうのもあるけど、どこかで行き詰まりを感じていて、いつでも必死にやりたいから、そのための環境にいようと思っただけです。日本はアニメが一番だから、本当は日本にいてもいいんですよ。でも僕はヒップホップが好きだから、僕が描く日本の絵と、アメリカの音楽をもっと一緒にしてみたい。それをNetflixとかで配信した時に、もしかしたら日本のアニメとか、アメリカの音楽とか、作品に国籍がなくなっていくかもしれない。原作者は日本人だけど、絵を描いたのは韓国人とか、それで制作スタジオはアメリカにあって、それを世界中に配信する、みたいに。それをアメリカに渡ってやる漫画家がいるかなって考えた時に、僕がやってみたいなって。

ーー大事な話をしてもらっちゃいました……!

井上:この話、インタビューの最後っぽくて良くないですか?(笑)。

ーー助かります! ありがとうございます!

■井上三太

「KING OF STREET COMIC」の異名を持つ漫画家。1968年、フランスのパリに生まれる。1989年に「まぁだぁ」でヤングサンデー新人賞を受賞し漫画家デビュー。1993年に出版された描き下ろし単行本「TOKYO TRIBE」は未だに出版社を変えて発売され続けているほどのロングセラー。その続編となる「TOKYO TRIBE2」はファッション雑誌の「BOON」で連載され、世界各国でも翻訳出版されるほどの大ヒットとなり、2006年にはアニメ化され「WOWOW」にて放送。2014年夏には「TOKYO TRIBE2」の園子温監督による実写映画が公開され、俳優 鈴木亮平とラッパー YOUNG DAISのダブル主演で話題を呼んだ。同作は2017年秋に舞台公演も行われた。また、もう一つの代表作である「隣人13号」は2005年に小栗旬、中村獅童のダブル主演で実写映画化され劇場公開された。同作は2013年にハリウッドリメイクが発表され、製作準備中である。現在、別冊ヤングチャンピオン(秋田書店)にて「TOKYO TRIBE」シリーズの最新作「TOKYOTRIBE WARU」を連載中、単行本第一巻が発売中。
漫画以外にも活動は多岐に渡り、ウェアブランド「SANTASTIC! WEAR」、トイブランド「SANTASTIC! GANGU」のディレクションも務める。

■姫乃たま(ひめの たま)地下アイドル/ライター

1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。アイドルファンよりも、生きるのが苦手な人へ向けて活動している、地下アイドル界の隙間産業。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を軸足に置きながら、文筆業も営む。そのほか司会、DJとしても活動。フルアルバムに『僕とジョルジュ』があり、著書に『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』がある。

姫乃たまTwitter

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