サイプレス上野が語る、“サ上とロ吉”のスタイルと音楽観「快感度を更新する作業をずっとやってる」

サ上とロ吉のスタイルと音楽観


今のフリースタイルは、昔のボイスパーカッションみたいなもの 

――近年フリースタイルラップが流行し、上野さんはその火付け役とも言える『フリースタイルダンジョン』に初代モンスターとして出演していました。フリースタイルブームの恩恵も余波も受けたかもしれないですが、メジャーデビューはこの流れと関係ありますかね?

サイプレス上野:いや、関係ないと思いますね。もしかしたらキング(レコード)側はあったのかもしれないけど、その流れの前からメジャーデビューの話はくれてたんで。

――失礼しました。そうなんですね。

サイプレス上野:「ダンジョン」に出て広まったのは確かで、街中で顔を見て指されるようになったし、あることないこと書かれたりと動きづらいっていうのもあるけど、自分たちは(ブームを)作ったみたいな意識はまったくない。台風の目みたいなもんで、渦の中にいてわかってないっていうか。いろいろ言われるのはわかるけど俺たちはそのためにやってるわけじゃないしな、みたいな。こういうことTwitterで書くと「だからおめーは負けんだよ」とか書かれたりするから、ホントめんどくせーなこのガキどもはって思うけど(笑)。

 今はフリースタイルっていうのが、昔で言うボイスパーカッションみたいなものになっちゃってると思う。ビートボックスではなくて。そういう意味では俺たちとか漢くんとか出てる奴らがやってるフリースタイルと、今のブームに乗ってやってる奴らのそれは本質的な部分で違うなと思いますね。「ダンジョン」を俯瞰で見ると、やっぱ外部にとっては強い者同士がやるってことに沸くんだなと思いました。ほかの競技でも素人を超えた対決って面白いじゃないですか。

――普段見ないスポーツでもオリンピックだと見るみたいな。

サイプレス上野:そうそう。100メートル走早っ!くらいの。イケてる者同士が何かを競い合うっていうのは、人間の心理的にそそられるんだなと思いました。俺、高校野球めっちゃ好きで、アプリとかも駆使して熱心に今年の甲子園見てたけど、プロ野球見に行ったらレベルが違いすぎて、やっぱプロってすげーなと。それって『高校生RAP選手権』みたいなのと、俺たちがやってるバトルの違いなんじゃないかと思うんですよ。うまいけど、もうひとつ上のステージに行ったらどうなるのって思うし、Twitterのフォロワーだけ増えてて何も出してない子もたくさん見てるし、消えていっちゃう奴らのほうが多いから。その中で抜きん出る奴もいるから盛り上がるのはいいことだと思いますけどね。

――モンスターの人たちはフリースタイラーじゃなくてフリースタイル“も”できる。ラッパーとしてオリジナル曲での活動があり、そこですでに地位を確立済みの人が多かったですよね。そんな中、上野さんがバトルに出続けている理由って?

サイプレス上野:負けず嫌いだからっていうのがでかいです。音源も出してるのに15年ぐらいバトル出続けて、正直もうやる必要ねーかなって思ってたところもあるんすよ。「ダンジョン」始まってすぐの頃、KOK(KING OF KINGS)の決勝大会2回戦で負けてダースさん(DARTHREIDER)に「もうやめますわ」って言ったら、「君はやめちゃダメだ」って言われたんですね。「オリジナルでやる奴が生まれてくるまでは、バトルシーンのためにいてくれ」って言われて、それに感化されてまだ続けてるって感じ。

なんで俺が紹介人的なことやんなきゃいけないんだろう?

――フリースタイルに限らず今のヒップホップシーンについてはどう見てますか?

サイプレス上野:フリースタイルばっかり注目されて、トラックメイカーとか作り手に光が当たらないのが腑に落ちないっていうか。すげーカッコいいラップのライブしてる奴らが「でもフリースタイルできないんでしょ?」とか言われてるの見ると、そこのサイファーやってる君、同じLIQUIDROOMに立ってみなよって思っちゃう。

――当たり前ですけど、曲を作ってライブパフォーマンスで魅せるっていうのも高いスキルが必要ですからね。

サイプレス上野:そうなんですよ。まずそれができてないと意味ないし、ほかのジャンルとどう対抗するのっていう。

――ラッパーのスタイルも、土着的だったりハーコーなのもそれはそれで人気ですが、インテリ系の飛躍が目立ちますね。

サイプレス上野:すっげー変な状況だなって、今。それまでナードなんてありえない文化だったのに、そういう奴らを排除してた人たちが掌返して「いいよねー」とか言ってるから。

――そんなシーンの中で、サイプレス上野はどういう立ち位置か自己分析してもらうと?

サイプレス上野:初期のほうは、吉野もずっとマスク付けてたり、俺も超テキトーな格好でやってて「おめーらヒップホップでもなんでもねーな」とか言われてたのに、気付いたら俺はヒップホップの大事な番組の司会とかになってて。要するに、ヘッズだったから“日本語ラップの歴史を知ってて立ち振る舞えるプレイヤー”っていう扱いになった。15歳からクラブ行ったりして、フライヤー集めて、酒飲んで……俗に不良行為と言われてたことが、そこでは勤勉ってことになるんだなあと思って。いろんな現場に顔出して、横浜の隅っこから渋谷までわざわざ行ってるわけだから。

――確かに。

サイプレス上野:でもやっぱ途中で窮屈に感じたこともありましたね、日本語ラップ界が。司会とかやるとヘッズたちにはけっこうナメられるんですよ。親しみやすさが出ちゃうから。それをやらないで紹介される側のほうがカッコよく見えるじゃないですか。そういう、うれしいんだけどうれしくねーなっていう葛藤はありました。ヒップホップ番組で司会やってる時間、別のジャンルの友達のところでライブやってるほうがいいかもなって。

 だから鎮(鎮座DOPENESS)とかはすごいうらやましかった。「なんで俺が紹介人的なことやんなきゃいけないんだろう? 普通に作品出してるのに」みたいなことを電話で相談してたくらいっすね。あいつは優しいから「お前にはそれができるんだからさ」って諭してくれて、「じゃあもうちょいがんばってみるわ」って。そういうとき、吉野に相談してもしょうがないんで。たぶん「キツいっすね」とか言ってずっと笑ってるだけだと思う(笑)。

――ははは(笑)。その葛藤を今はどう消化してます?

サイプレス上野:Fm yokohamaでレギュラー(『サイプレス上野とロベルト吉野のBAY DREAM』)を5年間続けて。日本語ラップを売りに置いてるわけじゃない、自分たちの冠番組に、ゲストでヒップホップの仲間たちも先輩もアイドルもバンドも呼べた。それができたときにちょっと胸が救われたっていうか、こっちで生きてきたことは間違いなかったって思いましたね。今AbemaTVで宇多さんとやってる『ライムスター宇多丸の水曜 The NIGHT』も別にヒップホップの番組じゃないから、今までやってきた雑多なことがだいぶ報われたなと思います。

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