bonobos新体制は野音を終えて“一巡”へ? メンバーに訊く「今の5人だから生み出せる音楽」

bonobos新体制は野音を終えて“一巡”?

「bonobosが普通のバンドと違うのはベースだと思う」(小池)

――過去の曲を今の5人のバンドでやっているバージョンがパッケージになるというのも、今回のDVDが持つ意味だと思います。

蔡:そうですね。初めてかもね。

小池:そもそもbonobosってセルフカバーをする文化がないよね。「THANK YOU FOR THE MUSIC」とか、「この星につっぷしながら」とか、演奏できてよかったと思うよ。

――『23区』からバンドが5人編成になったことでサウンドにも変化があったので、このバンドの感じで好きな曲を聴きたい、という思いもファンにはあるでしょうし。

蔡:「あの言葉、あの光」とかも龍平のギターと佑司の鍵盤に梅のドラムが入ったバージョンで欲しいって人はいるだろうね。

森本:「Night Apes Walking」とかもいつも言われるしね。蔡くんはこの機会で、詩集のために昔の曲を全部聴き直してみたんだよね。

蔡:『オリハルコン日和』以降は歌詞がデータであるんですけど、その前のやつはどこ探してもなくて、全部文字を起こさなきゃいけないから、歌詞見て、ついでに聴いたら、ちょっと照れたりして(笑)。デビュー当時は自分が思い描いているバンドの音像やお手本になるバンドと自分の作品を比べちゃってて、でも、その理想まで行きたくてもなかなかできなくて、ずーっとああでもないこうでもないって試行錯誤し続けてきた。単純にフィジカルでハイハットはここ、スネアはここ、キックはここっていうのを微調整したり、音色で攻めたり、フレージングで攻めたり、あらゆることを試して、理想の音像に行くようにやり続けてきた。でも、今の5人になってからは曲によっては理想以上になって、思ってもいなかったものができたりするんです。「Cruisin' Cruisin'」は到底自分がああいう曲を書いて、レコーディングしてライブできるタイプの曲ではないと思っていたんでうれしかった。「東京気象組曲」は積み上げてレイヤーしていって、フレーズも計算していって、和声の積みとかもひたすら我慢強くやれば到達できる領域ではあるけど、「Cruisin' Cruisin'」みたいな曲をグルーヴさせるのは出会いでしかないですよね。梅とか佑司が入ってよかったし、むちゃくちゃなベースラインで書いても森本さんが弾き切ってくれるので、それは助かるというか。今、すごくいい状態なんですよ。

森本:「Cruisin' Cruisin'」は大変だよね。気が狂いそうになるよね。

蔡:たまに怒ってたりするよな(笑)。

小池:bonobosが普通のバンドと違うのはベースだと思うんですよ。明らかに異常っていうか、普通じゃ考えられないベースを弾いているから、同業のミュージシャンがびっくりするんですよね。

蔡:Logicで曲を作るときに、最初はベースの音で打ち込んで、ゴーストノートは短く入れてあるんですけど、それだと聴きとれないからゴーストノートはピアノかギターの音で聴きとりやすくして、ベースだけのデータを森本さんに送るんです。けど、森本さんは全部弾くんですよ、全力で。そこがやっぱりレゲエ的になっちゃうんですよ。

森本:でも、音符の長さはしっかりその通りに弾いてるから。どうすればいかつくてかっこいいものになるか考えて。

蔡:デモを作ってる最初の段階では、ネオソウルとかの5弦ベースだけど、レゲエみたいないかつい感じじゃなくて、何ならフレットレスベースくらいの感じで軽やかなイメージのベースラインを書くんですけど、いざスタジオ入ると、すげー音圧が出てて。でも、それがギリギリのバランスで合わさるとかっこよくなるっていうか、出音を聴いてなるほどなって思うんですよね。最初想像してたのとは違うけど(笑)。

森本:でも、蔡くんが軽やかに弾いてほしいっていう意図もわかるから、「Cruisin' Cruisin'」は最終的にもうちょっと重心をあげたよね。

蔡:そうそう。デビュー前から、bonobosはベースだけはいつでも褒められていたんですよ。帰り際に対バンした人から「ベースがすごかった」って言われることがずっとあって、とにかくベースしか褒められない。最初からベースのクオリティはあって、それも自分がバンドの中で音をどう作っていくかって指針になっていたんですよ。ベースだけは間違いないから、ビートは正確でタイトにキープし続けるように持って行けばいいし。それでドラムとベースがうまくバチッとはまると、基本何もしなくても、コードが簡単でも成り立ってた。

――野音でも感じたんですけど、bonobosはベースが気持ちいいんですよ。でも、レゲエでもネオソウルとも違うんですよね。

蔡:レゲエの低音の出し方とネオソウルの低音の作り方って違いますよね。ネオソウルって音響的というか。和声の積み方で何度のところにベースラインを置くかとか、上の鍵盤だとかギターだとかのハーモニーの中でベースの低音がどこにいるかで作ってるんですよね。一方で、レゲエって基本ルートなんで。

森本:レゲエはベースだけで成り立つんだよね。

蔡:R&Bとかは、ウワモノの鍵盤をなくしてベースだけ聴くとよくわからないというか、全体でサウンドになっているから、そこがレゲエと違う。この前、野音でPAをしてくれた佐竹君とも喋っていたんですけど、レゲエって野外で演奏されることにかなり特化されてる音楽なんだって。風が吹くと音が長いと流される、でも、低音って波長が長いから遠くまで届きやすいんですよ。でも、ウワモノは細かい波で風に流されやすいから、裏打ちとかにして音を短くして、遠くまで届くようにするっていうのが音の構造として、そもそも野外に向いてるって話をしてて。

森本:フェスに出たらレゲエって強いよね。

蔡:何をしてるかがわかるからね。野外フェスで遠くにいても聴こえてくる。前にフェスで見たHome Grownはやばかったよね。

小池:ドラムソングっていうレゲエのリズムがあるんですけど、一音出した瞬間、かっこよかったよね、ベースとドラムだけで、これはやばいなって。

森本:いかつかった。

小池:レゲエは、もっとやりたいんですよ。そういう良さもbonobosって持ってるからね。今度出す新譜にも、スカみたいでキャッチーな曲があるんです。

森本:でも、一筋縄ではいかなさすぎるよね……(笑)。

蔡:以前、声優の豊崎愛生さんに1曲書いて(「ほおずき」)、その時にどっちを採用されてもいいようにって同時進行で書いた曲があったんです。ちょっと早いテンポのラヴァーズロックというか、Carlton and the Shoesみたいな感じの曲で。ギミックがバキバキに入ってて、生演奏じゃなくて打ち込みでガンガンやっていく感じのデモを作って、かなりイレギュラーな変拍子のフィルが入ってるやつを作ったんだけど、そっちは採用にならなかったので、どうしようかなと思っていたら、メンバー内ではかなり評判が良くて、「bonobosでやればいいじゃん」と。それもあって、メロは相当変えて原型は残ってないけど、新作に入れることになりました。

――そういえば、野音でも新曲をやっていましたね。

蔡:あれは「Heavy Weather Flamingos」という新曲ですね。下敷きになっているビートとかグルーヴの大本は、ロバート・グラスパーやエリカ・バドゥとか、Hiatus Kaiyoteとかの感じですね。ヒップホップ的なビートなんだけど、シンコペーションする感じとか、ベースラインの作り方とか。こういうタイプの曲をbonobosでも演奏してみようと思って作った曲ですね。でも、演奏するのは難しいです。

――リズムセクションは大変でしょ?

森本:あれ、大変だと思うでしょ。でも、次のアルバムの中ではいちばんやさしい曲かも。だから野音でできたんです。他の曲はまだ試行錯誤しないとね。

蔡:テンポ感といい、ある程度わかるというか、理解しやすいところが多い曲ではあるんですよ。他の曲はまずグルーヴを捉えるのがすっごい大変。レコーディング前からスタジオでもいろいろ試したんですけど、ドラムでも身体の動かし方について、みんなでいろいろ動画を見たり音を聴いたりして、スタジオで試したんです。例えば、ハイハットを叩くときに、腕を引っ張る(振り上げる)動作で1を取ると、ドラムのビートのグルーヴが全然変わるんですよ。スピード感とか弾く動作によって点が小さくなるので、ハットに当たってる時間が短くなって、音も近づいていくというか。それをスタジオで試し続けていました。そうするとウワモノを録るときに、ヘッドフォンで聴きながらリズム隊に合わせとると、なぜか合わないんだよね、微妙に。合わせるのがすっごく難しくて、合わせてるつもりで弾いてるのに、プレイバックで聴くと全然グルーヴが出なくて。そんな試行錯誤もあって、ドラムとかベースに関しては『23区』からさらにグルーヴが変化していますね。

――『23区』でも「Late Summer Dawn」とかはそれに近い雰囲気があったような気がしますけど、新曲はまた違いましたね。さらに面白くなっていたというか。

蔡:そうですね、近いアプローチではありますけどね。ちなみに「Late Summer Dawn」は俺の中では「1990年代を再現」みたいなテーマで作ったんです。スチャダラパーの「サマージャム’95」とか、TOKYO No.1 SOUL SETの「黄昏'95~太陽の季節」とか、あの辺の感じなんです。

――そのように、バンドは演奏も人もかなり変わったと思うんですけど、蔡さんの歌はどうですか?

蔡:だいぶ変わったと思いますよ、ライブで中音(なかおと)をどんどん下げていくことを考えたり、ソロで弾き語りであちこち行くことが増えて、歌うことに特化したライブを結構やったことによって、声の出し方の分量や自分のアコギの聴こえ具合、歌った時の跳ね返りとか、どういう環境だったらベストで気持ちよく歌えるのかっていうのがわかってきた。基本的に声を張っちゃいけないし、横隔膜からぐっと出して、自然に楽に声が出せるほうがクオリティ的には高くなるし、細かいコントロールもできる。ピッチも歌い終わりのニュアンスとかも精いっぱい歌うとコントロールできないんですよね。張って歌うと情緒もクソもないんだってわかるようになったのは大きいです。だから中音を小さくする提案もするようになりましたね、「何故なら俺の歌が最高になるからだ」っていう自信を持って言えるようになったし(笑)。

――蔡さんの変化はメンバーも感じてました?

森本:朗々と歌うようになってきたね。

――そもそもレゲエはやってたし、リズムからできているような曲が多いバンドなんだけど、蔡さんの歌は「リズム」っぽいというよりは「歌」って感じで、浪々とって感じだと思うんですよ。

森本:そうなんですよ、それはすごい強みですよね。

――過去作から改めて聴いてみたんですけど、ひとつ前のアルバムがエレクトリックでリズムがバキバキだったりしても、歌い方はラップっぽくなったり、英語っぽいリズム感にしたりとか、そういう感じが全くなくて常に「日本語の歌」、という感じで。それがbonobosの最大の特徴になってる気がするんですよね。

蔡:それは確かにそうですね。歌詞も自分で書くしね。

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