柳樂光隆が選ぶ、いま聴くべきジャズピアノの新譜5枚

Dan Tepfer『Eleven Cages』

Dan Tepfer『Eleven Cages』

 若手の注目作だとダン・テプファーのピアノトリオもあげておきたい。ベン・ウェンデルとのデュオ作『Small Constructions』でエレクトロニカ的なセンスもある人なのかなと関心を持って、そこからバッハの『ゴールドベルグ変奏曲』をやっているのを聴いてクラシック的な素養を知ったり、リー・コニッツとの活動などを聴いてクールジャズ=レニー・トリスターノ的な音楽性を知ったりしてから、今のジャズのある側面を象徴するような感覚の人でアーロン・パークスと同じくらい追っていくべき人なのかなと思うようになった。ポール・ブレイやキース・ジャレット、ブラッド・メルドーらの影響を感じるピアノスタイルと、複雑なリズム構造を取り入れた楽曲が印象的な人ではあるけど、ここではこれまでにない側面が出ているのが面白い。ブレインフィーダーからもデイデラスとのコラボユニットのニーデラスとして作品を出しているニーバディーのドラマーのネイト・ウッドがドラムを務めていることもあって、冒頭の「Roadrunner」から彼のグルーヴや音色や音響感覚でビートミュージック感が出ていて、これまでのダンの作品とは一味違う。ビヨンセのカバー「Single Ladies」はネイト・ウッドがビル・フリゼールとの活動やECM諸作で知られる奇才ベーシストのトーマス・モーガンとのコンビですさまじいグルーヴを聴かせる。

Ambrose Akinmusire『A Rift in Decorum : Live At the Village Vanguard』

Ambrose Akinmusire『A Rift in Decorum : Live At the Village Vanguard』

 最後に紹介したいのが、ブルーノートに所属する若手トップのトランぺッターでケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』にも起用されていたアンブローズ・アキンムシーレの新作のライブ盤。本作は年配のジャズファンも含めて、あらゆる世代のジャズファンに聴いてほしい、さらに言うなら、一度、ジャズ喫茶でガツンと鳴らしてみたい強力な作品だ。アンブローズ・アキンムシーレという人は恐ろしいテクニックを持っていて、トランペットでは超難易度が高いフレーズを難なく吹いてしまうだけでなく、トランペットってこんな自由に音色をコントロールできるんだっけと思わせる演奏を聴かせてくれる。以前来日した時も間近で見て驚いたが、まるでエフェクトをかけたような演奏を生でやってしまう。このアルバムにそんなプレイが入っているし、僕は彼の驚異的なロングトーンには言葉を失った。すごすぎる……。で、ここでの注目のピアニストはサム・ハリス。彼もまたアンブローズ並みの個性派で知られる。挾間美帆の『Time River』にも起用されている彼を挾間美帆は「彼の演奏は、一言で言うと“ミステリー”。どうやったらあんなタッチで、あんな和音と、あんなリズム感がピアノという楽器から実現できるのか、全くわからないんです。予定調和をとんでもなく越えた演奏をいつも返してくるので、ときどきひっくり返りそうになります」と語っていたが、ここでも冒頭から予想のつかないプレイ満載。ただ、明らかにフリージャズとも現代音楽とも違う「調和をもたらす不規則/不協和」のようなものに聴き入ってしまうので、サムのプレイにも耳を傾けてみては。ちなみにドラムはサンダーキャットのバンドに欠かせないジャスティン・ブラウン。シーンは繋がっているんですね。

■柳樂光隆
79年、島根・出雲生まれ。ジャズとその周りにある音楽について書いている音楽評論家。「Jazz The New Chapter」監修者。CDジャーナル、JAZZJapan、intoxicate、ミュージック・マガジンなどに寄稿。カマシ・ワシントン『The Epic』、マイルス・デイビス&ロバート・グラスパー『Everything's Beautiful』、エスペランサ・スポルディング『Emily's D+Evolution』、テラス・マーティン『Velvet Portraits』ほか、ライナーノーツも多数執筆。

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