never young beachが語る、タフなバンドである必要性「社会にフィットしたバンドでありたい」

ネバヤン、タフなバンドである必要性

 音そのものも、僕らの気持ちも広げていかないと(安部勇磨)

ーーでは、録り直す際のイメージ、1音の持つ説得力で聴かせるというベース・プレイで参考にした作品、アーティストはありましたか?

巽:エリック・クラプトンとかシールでしたね。

鈴木:曲調とかではなく、ベースの音の置き方ですよね。1音の白玉が、それだけでベースラインとして成り立っているようなイメージ。

ーーどの時代のクラプトンですか?

巽:00年代以降ですね。アルバムだと『バック・ホーム』。これは結構聴きましたね。

安部:アラバマ・シェイクスとかもそうだよね。

鈴木:そう、動いている方が派手だし一見カッコいいけど、白玉一つでベースラインとしてカッコいいっていう感じ、あれを目指そうってことになったんです。

巽:それの象徴が「気持ちいい風〜」なんですよ。サビ前の自分のベースのフィル以外は、なるべく白玉で伸ばす、サビ前の歌の広がりを意識した感じのベースになっているんです。結局、バンドの中で僕だけ方法論として今までの通りでいてしまったんですね。だから、今回の制作中にやっとみんなに追いつけたって感じです。

安部:僕らはリズム隊が3人いるイメージなんです。スズケンとたっさんと阿南。阿南はギタリストだけど、リズムのことをちゃんと理解した上でどういうギターを弾くべきかを考えられる。そういう関係性があるっていうのはすごく大きくて、だからこそ、今回たっさんはすごく成長したんだと思います。やっぱりレコーディングの現場になると、それまでぼんやりと感じていたことも、それぞれの向き合い方として一気に出ちゃいますよね。それで僕もバーストしてガツンと言っちゃう。だってね、今回ベースを替えたもんね?

巽:そうなんです。レコーディング3日目くらいで、これまで使っていたベースを全部禁止にしたんです。これじゃ違うだろうって。で、HAPPYとかきのこ帝国のメンバーに機材(ベース)を借りに、録音スタジオのある高崎から東京まで車で行って、で、借りてまた戻って。ギブソンからフェンダーの69年製のに替えたんです。だって、こっちも100%それに対応してやらないとムカつくし、消化不良おこすわって思って。

安部:やっぱりエアー感が違うんですよ。ギブソンってマットだったりパワフルだったりな音にどうしてもなるから。微妙なニュアンスが違って。どっちがいいとかではないんですがら、今回のアルバムにはフェンダーだなって、特に60年代のモデルをギターもベース結構使いました。

巽:結局、借りた後、自分でも2本、ベースを買いましたよ(笑)。全部フェンダー。ギブソンは1本も使ってないです。今回の作品の曲に合った音を弾かないと曲に失礼かなと思って。

阿南:僕、今回、最初にドラムを録音した時に、このアルバムの方向性が見えたんです。ドラム、すっごい広がりのあるいい音だったんです。でも、そのあとにベースを録音する時に、あのたっさんの持ってるギブソンの音じゃ、どうあがいても合わないってことがわかった。ああ、なるほどなあって。その時に、アルバムのイメージに気づいたんですよね。

安部:あれはすごい気づきだったよね。

巽:実際、フェンダーを鳴らしてみて……もちろん、それまでも弾いたことはあったんですけど、改めて「なんだこの豊潤な音は!」って。

阿南:ヴィンテージ機材はこれまでも僕ら使ってきていたんです。『fam fam』でも使っていたし。でも、その頃って、中音域があったかいとか、ハイがキツくないとか、好んでいたのはそういう理由だったんです。でも、今回ヴィンテージの魅力として気づいたのは、音のレンジの広さなんですね。

安部:レンジが広がってもそれに対応できる、各々のスキルが上がったってことなんだと思いますね。中域に逃げなくても大丈夫っていうか、もっと抜けた音にも対応できるっていうか。だから、今はもう必ず自分たちが鳴らしたい機材を全部持っていくようにしていますね。手は抜きたくない。やっぱり聴いてくれているお客さんと一緒に成長したいなって思うんですよ。自分たちのお客さんって、きっと今までだと、例えば『ROCK IN JAPAN』のフェスに行ったことのないような人たちだったんですけど、僕らとかが出るようになって、「あ、行ってみよう」って気になってくれているみたいで。そうやって僕らが開いていくことによって、僕らがこれまでいたところの音楽がもっと活性化していくし、リスナーと一緒にどんどん進出していかないと、いいものはできても、広がらないですよね。それを今回のアルバムを作る前……作っている最中に確信していきました。若い人もどんどん出てきているわけで、そういうことを考えても、音そのものも、僕らの気持ちも広げていかないとって思いますね。

鈴木:広げる……という意味では、例えば僕は今回のアルバムでは「なんかさ」も新しいトライをしている曲なんです。ギターのアウトロとか歌とか絡みとか、曲調全般に、たぶん、これまでの僕らの感じを最も連想しやすい曲ではあるんですけど、実はこれで初めて完全な四つ打ちをやったんですね。勇磨から「上品な四つ打ちをやってくれ」って言われて(笑)。

安部:「カッコいい四つ打ち」ね(笑)。下品な四つ打ちじゃないヤツって注文をスズケンにして。だって、四つ打ちの曲でカッコいい曲ってほとんどないなって。渋谷とか下北の商店街で流れてるような。でも、だからこそ、カッコいい四つ打ちの曲を作りたいって思ったんですよ。こんなに日本的で風が抜けるような清潔感のある四つ打ちの曲もあるんだ、ってことを見せたくて。

鈴木:だから、最初から最後まで完全な四つ打ち。四つ打ちって基本逃げ場がないじゃないですか。フィルもある程度固まってくるし、キックはずっと鳴り続けてて、スネアはバックビートだけだし……ってなると、差をつけるとするならハイハットだけなんですよね。僕らは今まではどちらかというと裏打ちが多かったんですけど、この曲をやってハイハットの重要性を痛感したりしたんです。ハイハットってドラムの中で最も繊細な楽器ですけど、ハイハットを制していくことが、これからグルーヴをバンドとして出していくためには必要だなって思っていたんで、そういう意味ではこの曲に向き合えて本当に良かったなと。

安部:ハイハットを制する者はグルーヴを制する(笑)。

鈴木:ハイハットをどう使いこなせるかで変わってくると思いますね。

安部:それまでやったことないことをやると気づくことって絶対あるからね。

鈴木:実際、これまでタムを2個置いていたのを1個にしたんです。僕自身、ドラムスタイルがこの曲をきっかけに変わったんですよ。

安部:みんなこのアルバムで本当に変わりましたね。マツコ(松島)なんか、僕らガンガン言いすぎて、ほんと、死んでましたよ。

松島皓(以下、松島):いやあ、でも、僕にとっても変化というか発見はすごくあって。「気持ちいい風〜」と「白い光」は僕のギターがすごく変わった曲なんです。今までって、俺が大体低い音の単音をミュートで弾いていたんですよ。でも、この曲では阿南がそこを担当していて。「あ、とられたな~」って思ったんですけど、その代わり、俺は阿南が弾きそうなスタイルを自分なりに考えて弾いたりしたんです。

安部:今回のアルバムはどう考えてもマツコが阿南スタイルに感化されてきたなって思える曲が多いよね。「白い光」のギターソロの導入って刻んでるじゃん? あれとか今までだったら音を伸ばしてただろうけどね。阿南を意識したんだろうなって。

松島:普通に弾くといなたくなるっていうか、The Bandみたくなっちゃうんですよ。でも、今回はそこはあえて封印しましたね。キツかったですよ、そういう意味では。持っていたギターも全然使えなくって……。

安部:死んだよね?(笑)

松島:死んだ。しかも気に入っていたギターソロも、例の「海辺の町へ」の歌詞が変わったからカットされちゃったし……(涙目)。

鈴木:まっちゃんのソロって割とフェードアウトしていく感じのが多いんですけど、今回はちゃんと終わっているものが多いんですよ。そこも阿南の影響かもしれないけど、すごく変わりましたね。

安部:正直、まっちゃんは本当に何から何まで信用がなくて(笑)。技術もそうですけど、レコーディング最後のスタジオに機材持たずにやってくるとか、そういう意識からして全然ダメなので、それを今回変えてくれるようなところを僕らは伝えたんです。まあ、まだこれでもバッチリって言える状態じゃなくて、もしかしたら、首チョンパになる可能性もあるんですけど、でも、そのくらい自分たち、メンバー同士でも厳しくやっていかないと、これからバンドが大きくなっていく上でキツくなってくるはずなんです。

ーーええ、これからバンドがもっと大きくなっていくと、敵も増えていくだろうし、もしかしたら理不尽に叩かれたり、誰にでも愛されるバンドという状況を維持していくことは難しくなってくるかもしれない。でも、そこにおもねらずに強靭でタフなバンドになるためには、結局バンドで鳴らされる作品こそをいかに絶対的なものにしていくのか、ということになる。そういう意味で、今作は勇気を持って“普通にいいポップス”という在り方に着地させるバンドとしての第一歩かもしれないですね。

安部:そうなんです。僕ら、社会にフィットしたバンドでありたいんですよ。だから、開かれた作品を作りたかったし、そのためにメンバー全員すごく努力もした。そういうことを考えていくと、ああ、スピッツって本当にすごいバンドなんだなと思ったり。僕らもあのくらいの凄い領域になりたい……でもそれは本当に難しいことだとやればやるほど感じます。けど、今の僕らのようなバンドが、そうなっていかないと、僕らの後の世代……音楽でも映画でも漫画でもなんでもいいけど文化的にもっと活躍してほしい、そのためにぼくらみたいな畑の人達が道を切り開かないといけないと思いました。

ーーでは、多くの人に親しまれる、社会への広がりを持たせる役割としてのポップスというフォーマットをあえて継承していく作業にはもはや窮屈さは感じませんか?

安部:前は思っていましたね。そんなフォルムなんて知らねえよ、どうでもいいじゃんって思っていて。でも、今はルールがある中でいかに自分らしさを出すことに快感を覚えますね。それが一番難しい作業じゃないですか。ボーカルのクセとかを出さずにフラットな言葉で自分らしさをいかに出せるかがとても楽しいですね。

阿南:僕も勇磨と一緒で、その中でどれだけかき回すか? ……を考えていて。“ポップスは正義だ”というのをキャリアと共に考えるようになりましたね。宇多田ヒカルさんとかもそうだし、海外なんてもっと顕著に今はジャズやR&Bの領域でスキルのあることをやっている人たちが面白いじゃないですか。僕らも、だから、こうしてメジャーレーベルから作品を出すことも決めたし、そのためにレンジの広い音のアルバムも作った。そういう意味では今はすごくやりがいあるし楽しんでますね。僕ら、インディーの良さもわかっている。だからこそ、もっと広がりのあるところに行かないといけないなって思うんです。

鈴木:メジャーとインディーの間の両方を行き来できる……というか、どちらの層でも聴いてもらえる存在でありたいですね。

(取材・文=岡村詩野)

『A GOOD TIME』

■リリース情報
『A GOOD TIME』
発売:2017年7月19日
【初回限定盤(CD+DVD)】¥3,800(税抜)
【通常盤(CD)】¥2,600(税抜)
※初回プレスのみツアーチケット先行抽選受付用シリアル番号封入
CD収録内容
01. 夏のドキドキ
02. なんかさ
03. 気持ちいい風が吹いたんです
04. SUNDAYS BEST
05. 白い光
06. 散歩日和に布団がぱたぱたと(Band ver.)
07. CITY LIGHTS
08. SURELY
09. 海辺の町へ

初回盤特典DVD収録内容
ONE MAN TOUR ”April O’Neil” 2017.4.8@LIQUIDROOM
1. Motel
2. 自転車にのって
3. どんな感じ?
4. 散歩日和に布団がぱたぱたと
5. 気持ちいい風が吹いたんです
6. ちょっと待ってよ
7. Pink Jungle House
8. どうでもいいけど
9. あまり行かない喫茶店で
10. fam fam
11. 夢で逢えたら
12. SURELY
13. 明るい未来
14. お別れの歌

■ライブ情報
『TOUR2017 “A GOOD TIME”』
9月3日(日) 岡山YEBISU YA PRO
9月14日(木) 名古屋ボトムライン
9月15日(金) 浜松FORCE
9月18日(月・祝) 札幌 cube garden
9月22日(金) 高松DIME
9月23日(土) 福岡 BEAT STATION
10月1日(日) 味園ユニバース
10月14日(土) 金沢 AZ
10月15日(日) 新潟 studio NEXS
10月17日(火) 仙台CLUB JUNK BOX
10月20日(金) 赤坂BLITZ

■オフィシャルサイト
http://neveryoungbeach.jp/

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