小野島大が選ぶ、エレクトロニック・ミュージックの“知られざる”新作9選

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ペヴァラリスト『Tessellations』

 ブリストルのベース・ミュージックの中核としてレーベルやレコード・ショップを経営するかたわら、アーティストとしても活躍するペヴァラリスト(Peverelist)ことトム・フォード。ダブステップ以降の音響感覚を現代のエクスペリメンタル・テクノに接続するような意欲的な試みを行っていますが、自ら主宰するレーベルからの3年ぶりの3作目『Tessellations』(Livity Sound)では、さらにテクノ〜テック・ハウス寄りになって、ダンス・トラックとしての機能性が増しました。コズミックなサイケデリック感が持続し、硬質な電子音が打ち付けるように断続する、ピチピチと跳ねる小気味のいいミニマルなダンス・トラックを披露しています。音のいい小箱で踊ってみたくなる音ですね。

 

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Shinichi Atobe『From The Heart, It's A Start, A Work Of Art』

 2001年にベーシック・チャンネル傘下の<チェイン・リアクション>から12インチ『Ship-Scope』を出したきり音沙汰がなかった埼玉在住の日本人テクノ・クリエイターShinichi Atobe(跡部進一)が、UKマンチェスターのエクスペリメンタル・テクノの雄デムダイク・ステアにフックアップされ復活、彼らの主宰するDDSレコードからファースト・アルバム『Butterfly Effect』をリリースしたのが2014年。今作『From The Heart, It's A Start, A Work Of Art』(DDS)は3作目です。17年ぐらい前に作った曲と新曲が混ざっているという話ですが、時差は感じません。非常に細やかに、ディテールまで神経の行き届いたクールで端正でデリケートなミニマル〜ダブ・テクノ〜アンビエント〜エレクトロニカ。このストイックなまでに音数を抑えひそやかに、箱庭的に展開するサウンドは、やはり日本人ならではの抑制の美学が宿っている気がします。

Shinichi Atobe - Regret
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環ROY『なぎ』

 あの新鮮だった前作『ラッキー』から早くも4年。アーティスト写真を見ても少年ぽさが薄れ、すっかりオトナの雰囲気が出てきた環ROYの新作が『なぎ』(B.J.L.×AWDR/LR2)。4年の間にソロだけでなくさまざまなコラボや客演、ユニット、美術館や劇場、ギャラリーでのパフォーマンスやインスタレーション、映画・TV番組音楽の制作など、活動の範囲を大きく広げ、たくさんの経験を積んできた彼の大きな成長が実感できる一作です。K.A.N.T.A,、Shingo Suzuki、 三浦康嗣、Daisuke Tanabe、Ametsub、Taquwami、OBKR、Aru-2、蓮沼執太といった一癖あるメンツが手がけたトラックもユニークで新鮮ですが、環ROY自身の落ち着いたボーカルがとても印象的です。全体に漂う平熱の叙情とメロウネスは、コーネリアス新作と通じるものがあったりなかったり。期待を遙かに上回る快作でした。6月21日発売。

環ROY / フルコトブミ
環ROY / Offer
環ROY New Album "なぎ" 予告

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