Buono!は満員の横浜アリーナで“最高のラスト”を迎えたーーロックアイドルとしての10年間の歩み

 そして、Dolceだ。各々が名うてのプレイヤーであるが、Buono!の3人が成長してきたのと同じようにDolceもライブを重ねるごとに強力になった。まいまい(今村舞/Dr)がアグレッシヴなドラミングで捲し立ていていき、なおみち(岩崎なおみ/Ba)が地を這うようにグルーヴを司る。まり-P(藤井万利子/Gt)と、けいちゃん(ひぐちけい/Gt)のツインギターは昨年武道館よりも絶妙なコンビネーションを見せ、ejiが楽曲の色彩をより深く鮮明にしていく。そして、中盤のアコースティックアレンジによるセクションは、Dolceのバンドとしての懐の深さを見せた。

 このアコースティックセクションでは、3人それぞれのメイン曲ともいえる楽曲が披露され、三様なシンガーとしての魅力を引き出す場面でもあった。夏焼の「消失点-Vanishing Point-」はファンからも“夏焼のテーマ”として古くから親しまれ、これまで要所要所で歌われてきた、まさに彼女とともに成長してきた曲である。3人の中で、いちばん感情が表に出やすい彼女の歌であるから、そのときどきの思い入れがファンそれぞれの中にもあることだろう。だが、この日の滑らかな歌い出しから最後の1行まで歌い切る夏焼の歌声は息を飲むほど美しく、誰の耳にも“完璧”に届いたはずだ。嗣永の歌う「I NEED YOU」。元はロックステディ調のかわいらしい楽曲であるが、アコースティックなバラード調にリアレンジされるとまったく印象が変わる。<「さよなら」なんて苦手だよ 「またね」って言葉だけが好き ほんとは2度と会えないくせに>ーーこれまでであれば、それほど気にとめていなかった詞であったが、今の嗣永が歌うとリアルに胸に突き刺さってくる。

 鈴木も非の打ちどころのない「OVER THE RAINBOW」を聴かせたが、やはり彼女といえば、「初恋サイダー」だろう。会場の空気を一変させる歌い出しから、天を衝くハイトーン、その歌声に導かれるように「1、2、3、4!」と15,000人の鬨の声が上がり、アッパーな展開になだれ込む。近年、Buono!の名をシーンに一躍知らしめた同曲のもたらす高揚感も彼女の歌なくしてはじまらないのだ。

 ダーティーなロックナンバー「Independent Girl〜独立女子であるために」で後半戦へ。エッジなドライブを効かせた「DEEP MIND」は、まさに大人になった3人だからこそ歌えるロックであり、今の彼女たちに歌って欲しかった曲でもある。キメの多い楽曲であるのに、十字に伸びた花道を練り歩き、つづく高速キラーチューン「MY BOY」でキレキレのリズム感を見せる。いくらBerryz工房と℃-uteという稀代のトップアイドルのメンバーとはいえ、別グループとして、ましてや生バンドという異なるスタイルでここまでのステージを見せることができることに、アーティストとしての底知れぬポテンシャルをあらためて感じずにはいられなかった。

 幻想的でサイケデリックなイントロが流れると、会場にいる誰もがラストの楽曲であることを理解した。3人を乗せながらゆっくりと回転していくステージが、あたかも巨大なオルゴールのような情景を生んだ「ゴール」で本編は終了した。

 巻き起こる「Buono!」コール。そこに「Dolce!」コールが加わっていき、次第に「Buono!」「Dolce!」と見事なまでに2つのグループ名が交互にこだまする。無数の直線的な照明が神殿のようなステージを創り出すと、アンコールは「Last Forever」で始まった。歌いながらゆっくりと花道を歩く3人であったが、この日幾度となく危うかった鈴木の涙腺がついに崩壊。涙で歌えなくなった鈴木の手をそっと引きよせ腰を抱く夏焼と、そんな2人の様子なんて見なくとも“わかっている”から一切振り返らない嗣永。つづいて「Kiss!Kiss!Kiss!」でのおなじみ、ブレイク時の居眠りタイム。寝ているのに明らかに悲しみで肩が震えてしまう鈴木、夢見心地な夏焼から嗣永へと言葉を掛けるタイミングで鳴る目覚まし時計のベルも、3人の関係性をよく表していた。幼い頃の嗣永と夏焼はBerryz工房で一緒ながらも、絡むことはほとんどなかった。そんな2人の距離を縮めたのがBuono!だった。同じクラスに居ても絶対仲良くなることはない正反対のタイプ、とファンの間でも囁かれていた2人だったが、次第にお互いが認め合い、足りない部分を補い合う間柄へと変化していく。いつしか、嗣永と夏焼の夫婦漫才のようなやりとりと、その2人の姉の間で末っ子の妹として思いっきりはしゃぐ鈴木、そうした3人の光景がBuono!の色を表すようになっていた。「Buono!はこの3人じゃなきゃダメなんだよぉ~」ーー鈴木がモノローグ的に語った言葉。アイドルグループにおけるメンバーの卒業加入は珍しくないことだが、Buono!はそういうグループではないのだ。そんな当たり前のことを当たり前に感じたひとときでもあった。

 「あんなに小さかった私たちの、大きな夢を叶えてくれた大切なデビュー曲です!」。嗣永の言葉より、最後の最後に贈られたのは「ホントのじぶん」。すべてはこの曲からはじまったのだ。この楽曲にはライブでファンによるお決まりのコールがある。イントロから歌に入るその瞬間、ここにいる全員が一斉に大好きなグループの名前を渾身の力を込めて大声で叫んだ、「Buono!」と。

「10年間、本当にありがとうございました! Buono!でした!」

 3人は、最後の最後まで「解散」や「活動停止」という言葉を用いなかった。

 10年という長い長い物語が終わったような感覚。寂しさもあるが、それと同等に満足感も大きい。タイトル通りの「Pienezza=充実、いっぱい」だ。嗣永桃子の卒業が機とはいえ、結果的として最高のタイミングで最高のライブを創り上げ、最高のラストを迎えることができたように思える。いつ立ち消えになってもおかしくない、派生ユニットだったのだ。こんなにも長い間楽しませてくれて感謝の言葉しかない。<最高 MUSIC! 最高 Buono! 最強 MUSIC! 最強 Buono!>3人が残したものはこれかもずっと我々の心の中に残っていくのだ。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログtwitter

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