荻野由佳&NGT48、なぜ大躍進? 『ご当地アイドルの経済学』著者が読み解く

 NGT48の人気が地元密着で、それがいよいよ全国認知に至ってきたことはわかった。だが、なぜ荻野由佳なのか? この答えはもっともらしく書けばいろいろ列挙することができるだろう。例えば、『ご当地アイドルの経済学』の中では、彼女のパフォーマンスが独特のオーラをまとっていたことを書いた。彼女のイメージは、NGT48の象徴でもあるトキの華麗な姿にだぶる。また握手会の神対応も話題だし、SHOWROOMでのマイペースであっけらかんとした語りも人気だった。だが、それは多くのAKB48グループのメンバーにもいえることだ。

 経済学が最近強調している点で語ろう。それは“偶然”だ。まさに偶然の神様が彼女に舞い降りたとしかいえない。偶然は何も彼女に実力がないことを意味しない。経済学者のロバート・H・フランク教授は、近著『成功する人は偶然を味方にする 運と成功の経済学』(日本経済新聞社)の中で、実力偏重主義に警鐘を鳴らしている。「あなたが成功したのは、実力だけではない。あるいは実力よりも偶然だったかもしれない。そしてその偶然であることをしっかりと見極めて、傲慢にならず(たまたま成功しなかった人、光があたらなかった人への配慮と思いやりを忘れず)また地道に努力を続けよう」、と書いている。一見するとお説教のようだが、フランク教授はこの偶然の経済学を実証的に証明している。偶然を味方にする実力こそが、荻野由佳の今後にさらに待ち構えているだろう。そして私見では、そのハードルを彼女なら乗り越えることができるだろう。なぜなら彼女ほどその経歴からみても、アイドルの“敗者”(偶然に恵まれないでいるルーザー)の気持ちをわかっているものはなかなかいないからだ。そしておそらく今回、投票した多くのファンは彼女のその一面を、筆者よりもより深く理解していたのだろう。素晴らしいことだ。

 筆者は、荻野を見出した北原里英にももちろん頑張ってもらいたいと思っている。彼女もまた長く選抜落ちした経験をもつ。つまり“敗者”だったものの気持ちがわかるアイドルだからだ。その“敗者”(ルーザー)だったふたりが、たまたまドラフト会議で出会い、やがてこの衝撃的なドラマを生み出した。偶然の女神の采配だ。だが、AKB48総選挙というドラマはまだ始まったばかり。その運命の行きつく先を心して待ちたい。

■田中秀臣
1961年生まれ。現在、上武大学ビジネス情報学部教授。専門は経済思想史、日本経済論。「リフレ派」経済学者の代表的論客として、各メディアで発言を続けている。サブカルチャー、アイドルにも造詣が深い。著作に、『AKB48の経済学』、『日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉』『デフレ不況』(いずれも朝日新聞出版社)、『ご当地アイドルの経済学』(イースト新書)など多数。『昭和恐慌の研究』(共著、東洋経済新報社)で第47回日経・経済図書文化賞受賞。好きなアイドルは北原里英、欅坂46、WHY@DOLL、あヴぁんだんど、西恵利香、鈴木花純、26時のマスカレイド、TWICEら。Twitterアイドル・時事専用ブログ

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる