アクトレス、カール・クレイグ、アルカ……小野島大が注目する新作エレクトロニック・ミュージック

 LA出身のビート・メイカー、バス(Baths)ことウィル・ウィーゼンフェルドの別プロジェクトがジオティック(Geotic)。その新作が『Abysma』(Ghostly International)です。ゆったりした四つ打ちとアンビエントでドリーミーなシンセ、メロディアスな女性ボーカルをフィーチャーしたエレガントでスタイリッシュなミニマル・ハウスを展開。美しく漂うようなサウンドは、いつまでも聴いていたいと思わせます。

 既にいろんなところで書いてきたのでここでは簡単に触れるだけに留めますが、アルカの『Arca』(XL Recordings/Beat Records)は、ぱっくりと開いた傷口からとめどもなく血が流れるような、そんな痛みと美しさに満ちた大傑作です。盟友ジェシー・カンダの監督した衝撃的なミュージック・ビデオも含め、間違いなく今年度の最重要作の1枚でしょう。

アルカ「Desafío」
アルカ「Anoche」
アルカ「Reverie」
アルカ「Piel」(Alt Version)

 個性的なシンガー・ソングライターとして活動する湯川潮音の別名義sioneのファースト・アルバム『ode』(Virgin Babylon Records)。ポスト・ロック/エレクトロニカの鬼才world’s end girlfriendとの共同制作によるもので、歌詞のないボーカル・アルバム。湯川自身の声の語感や響き、ディープな音響の面白さを追求した作品です。一種のアンビエントとも、ニュー・エイジとも、チルウェイブとも、プログレとも、賛美歌とも、ポスト・クラシカルともとれる美しくも恐ろしい透明な世界は、俗にいう「癒やし」や「ヒーリング」とは異なる、脳の回路をそっと開けてくれるような想像力を喚起します。

sione(aka 湯川潮音)「Wealth of Flowers」
sione(aka 湯川潮音)『ode』Trailer1
sione(aka 湯川潮音)『ode』Trailer2

 フジロック出演も決まったDÉ DÉ MOUSEの1年4カ月ぶりの新作が『dream you up』(not records)。前作はルロイ・アンダーソンなど1940~50年代の軽音楽を彼流に展開し、生楽器の音色をサンプルしアンサンブルをシミュレートしたノスタルジックなオールディーズ風のサウンドを、すべて打ち込みで作り上げた意欲作でしたが、今作はポップでキュートでキッチュでエクセントリックな、つまりはとてもDÉ DÉ MOUSEらしいエレクトロニック・ポップを繰り広げています。本人によれば「インターネットの存在する80年代に生きるSFの若いパイロット達の間で人気のヒットミュージック」というのがコンセプトらしいですが、そのコンセプト通り、過去現代未来が絶妙に交錯するエキゾティックでノスタルジックでフューチャリスティックなサウンドは、この人にしかできないものでしょう。多幸感と才気あふれる音楽です。フジロックがとても楽しみですね。

DÉ DÉ MOUSE「get you back」MV -α version-

 最後に、本サイトで既にインタビュー掲載済の2作品。テイ・トウワの新作『EMO』や、電子音楽家Serphの別名義Reliqの『Life Prismic』は、すでに各所で絶賛されていますが、まだという方はぜひ。どちらも2017年のエレクトロニック・ミュージックを代表する傑作です。

テイ・トウワ『EMO』
公式サイト
リアルサウンド インタビュー

TOWA TEI with Ano (You'll Melt More!)「REM」
TOWA TEI as METAFIVE with MIZUHARA SISTERS「Brand Nu Emo」

Reliq『Life Prismic』
公式サイト
リアルサウンド インタビュー

Reliq「rain no more」(Official Video)
Reliq「morocco drive」

■小野島大
音楽評論家。 時々DJ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』などに執筆。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)『音楽配信はどこに向かう?』(インプレス)など。facebookTwitter

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