忘れらんねえよ、這い上がり続けたバンドの現在地ーー兵庫慎司が日比谷野音ワンマンをレポート

忘れらんねえよ、這い上がり続けた“現在地”

 10曲目の「ドストエフスキーを読んだと嘘をついた」を歌う前に「梅津くんとバンドやろうぜっつって、最初に作った歌」と紹介したり、4年前に秦 基博やOKAMOTO’Sが出たイベントのオープニング・アクトとしてここ日比谷野音のステージに立った時は立ち上がってくれたお客は10人くらいだったことをネタにしたり、アンコールで「このバンドを始めた時に、野音でやれるバンドになると思ってなかった」と言ってみたり(これは梅津)ーーと、全体にしみじみ回顧モードだったのも、この日が特別だったからだろう。

 「みんなヤなこと忘れたいでしょ? 俺もヤなこと忘れに来たんですよ。でもなんか忘れちった。あんたたちがあまりに素敵だから」と漏らしたり、本編最後で「なんでもない自分が、ここに立って歌わせてもらってます」と告げたり、アンコールで「時間かかったけど野音まで来た」と言ったり、シメに「忘れらんねえよ」をやる前に「一緒に戦っていこうね。俺らも戦ってるから、あんたらも戦っていきましょう」とオーディエンスを鼓舞したりと、柴田がいつもに増して感動モードだったのも、同じくだろう。

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柴田隆浩(Vo/Gt)
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梅津拓也(Ba)

 あと、バンドがそのようなモードになっていたもうひとつの理由であろうと思われること。

 アンコールで柴田が、最近バンドが別れに直面したことに触れていたが、これは、この野音の直前に配信リリースされた『スマートなんかなりたくない』から、忘れらんねえよがレーベルを移籍したことを指していたのだと思う。デビューから一緒に戦ってきたスタッフたちと別れるのは、柴田にとって相当なつらさを残す出来事だったようだ。「前に進もうとするから別れる」「避けられない、悲しみから逃げられない、耐えるしかない」「ただ、耐えるだけだと悲しいから、音楽とかロックンロールがある」というようなことを、自分に言いきかせるように言葉にしていたのが、印象的だった。

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 ファンは重々承知だと思うが、忘れらんねえよはとてもセンチメンタルなバンドだ。下品さやしょうもなさやくだらなさやおもしろさ以上に、感涙や感傷や感慨を、聴き手の中に呼び起こすバンドだ。そんな彼らの本質が、場所の特性や、バンドの状態、彼らをとりまく環境、2017年4月2日というタイミングなど、すべて含めてこれ以上ないくらいハマったのが、この初の日比谷野音ワンマンだった、と言える。

 『スマートなんかなりたくない』を6月21日にCDリリースすることが発表されたし、最後に柴田も「今日が新しい物語の始まりだと思ってます」と言っていたし、そんなしみじみモード全開のライブだったわけではない。バンドの姿勢はちゃんと未来にも向いていた。ただ、そうであっても、まあ今日くらいは思う存分しみじみしてもいいんじゃないかな、素直にそう思えるライブだった。

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(文=兵庫慎司)

忘れらんねえよ オフィシャルサイト

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