鹿野 淳に聞く、音楽フェスの現状と可能性「ロックミュージックを今の時代なりに位置づけたい」

鹿野 淳に聞く、音楽フェスの現状と可能性

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『VIVA LA ROCK 2016』VIVA! STAGE

「アーティストがフェスだけを主戦場にするのは違うと思う」

――今のフェスを巡る状況に、僕が音楽ジャーナリストとしてすごく象徴的だと思った出来事が今年の初めにあって。NHKの『SONGS』という番組で「今年期待のアーティスト特集」というものが放送されていたんです。そこに出ていたのがcero、ぼくのりりっくのぼうよみ、KEYTALK、WANIMAという4組だった。今回のVIVA LA ROCKにはceroとぼくのりりっくのぼうよみも出演するわけですが、そこではKEYTALKだけが「フェスで人気のバンド」という紹介をされていたんですね。

鹿野:これは、KEYTALKはフェスシーンの最重要アーティスト、ceroはシティポップか街型音楽の最重要アーティスト、ぼくのりりっくのぼうよみはベッドルーム・ミュージックの最重要アーティストとして扱われたということだよね。

――そうですね。ということは、先ほど僕と鹿野さんで「フェスはテーマパーク型のレジャーであり、どんな音楽ジャンルも渾然一体となった場所である」という話をしたわけですが、NHKの『SONGS』という番組の制作陣はそう捉えていないということだと思うんです。むしろ「フェスで人気」という音楽ジャンルがある、という風に打ち出している。実際にリスナーがそういうイメージを持っているということだと思います。

鹿野:これはリスナーとかテレビ番組だけじゃなくて、ウェブメディアを見ていても思うことだよね。フェスというのが立派な音楽ジャンルになっている。

――そうですね。もう一つ印象的だったのが、最近「フェスロック」という単語をどこかのウェブメディアで見かけたことなんです。これって、もはや「インディーロック」とか「ポストロック」みたいに、ロックの一つのサブジャンルとして「フェスロック」というスタイルが成立しているという言われ方だと思うんですけれど。鹿野さんはそういう状況についてはどう思いますか?

鹿野:その意味合いで言うと、今柴くんが言ったことが、邦楽のロックを中心とした音楽シーンの中ではど真ん中なんだろうなと思いますね。ただ、僕はフェスは音楽のジャンルじゃないと思っているし、「フェスロック」というジャンルがあるとしても、僕はジャンルというものは音楽性の中で語られるべきで、状況論のなかで語られるべきものじゃないと頑固に思っているんです。

 それに、フェスティバルに出演してくれるアーティストに対しては本当に感謝をしているんですが、アーティストがフェスという場所だけを主戦場にするのはちょっと違うんじゃないかと思うところもある。少なくともビバラに出演してくれるアーティストやバンドは、もっと自分の土俵を持っていると信じてお付き合いしています。フェスというのはあくまでもアーティストを知るきっかけの場所でもあり、音楽の喜びをリスナー自身が感じられる最もピュアな場所であるべきなんじゃないかなと思っているんですね。つまりはそこはフェスロックという音楽性を掲げたり、チャートが効果なき今の音楽レースの実況中継をする場所ではなく、あくまでも自己表現を音楽でぶつける場所であって欲しいわけです。ロックフェスはそれ自体が良くも悪くも意志を持っていますから。単にマーケット援護や事業優先でやっているわけではないのでね。だから自分がロックフェスをやっている中でこだわっているのは、「フェスロック」のための場所というよりも、ロックミュージックというものをちゃんと今の時代なりのものとして毎年位置づけようという気持ちを持ってやってる部分が強いと思います。

――つまりVIVA LA ROCKの二つの狙いのうち、「埼玉」というローカリズムの部分では変わらずに根づいていくことを志向してきた。一方でロックという音楽性の部分では、同じものを繰り返して「フェスロック」のようにジャンル化、ムラ化していくよりも、時代に合わせてロック観というものを更新していく発想がある。

鹿野:そう。もちろんフェスをやってる身として、自分のフェスをそのアーティストの物語の中で使っていただくっていうのは、ものすごく嬉しいことなんですよ。具体的に言うと、より大きなステージに立って、今度はヘッドライナーを目指すみたいなストーリーをフェスの中で描いてもらうことって多いじゃないですか。MCでよく言われるんです、「来年はあのステージに立ちたい」と。

――そうですね。その物語をアーティストとファンが共有する。

鹿野:それはすごく嬉しい部分もあるんですけど。でも、ロックってアップデートされていくこと自体がすごく大事で。だからリスナーは塗り替わっていっていいと思うし、アーティストはその中でどうサバイブしていくのか、どう破壊と調和を駆使して進化していくのかということに取り組んでいると思うわけです。だから、それと同じようにロックフェスもちゃんとブッキングで刺激を見せる、アーティストが育っていく姿を一緒に並走する、何よりも新しい才能に敏感な場所であるというのは、とても大事なことなんじゃないかなと思うんですね。

――では、今年の3日間、そのブッキングの方向性はどうイメージしましたか?

鹿野:今年は過去3年以上に色分けをハッキリさせました。まず悩んだのはそれをするかしないかだったんです。

――というと?

鹿野:ビジネスとして考えるなら、3日間全部来ていただくのがありがたいとも言える。そうなると、3日間それぞれの中で観たいものが散らばっているようなブッキングのやり方もあったと思うんですよね。でも、今年はそれをやめようとまず決めた。3日間それぞれのノリを過去3回以上にちゃんと作ろうと思ったのが今年です。

――具体的に言うとどうでしょう?

鹿野:初日の3日に関しては、まさにフェスというものがブームになって以降に育ってきた、活きのいい最高のロックバンドを中心に集まってもらいました。2日目の4日はその今のフェスが作ってきた音楽性からは若干離れて、でもこれが今の、そしてこれからのロックの大きな波だという観点を持ち得ているアーティストに集まってもらいました。そして最終日の5日。このVIVA LA ROCKというフェスはモッシュやダイブを明確に禁止していないんですね。推奨もしていませんけどね。つまりはロックの遊び方っていうものはちゃんと自分たちが決めるべきで、その代わり、自分たちで自己管理をして、周りに愛を持って遊んでくれないかということを言っている。そういう意味で、3日目はパンクロックも含めて、激しく遊びながらも歌心を持っている、ある意味日本のロックの本質と王道を持っている人たちに集まってもらいました。そういう3日間の分け方をしたんですね。

――なるほど。ということは、3日間それぞれのリスナー層、ファン層が分かれるわけですよね。

鹿野:はい、実際に分かれているみたいです。やはり残念ながら過去3年間と比べて、3日通し券の売り上げは今のところ一番良くない状況です。チケット全体に関しては今年もとても順調なんですけどね。自分が打った手はそう認知されてるんだなとは今は思ってますけど、これを読んでくださっている方には、本当に3日間全部を見て欲しい。とても幸福な発見が絶対にあるんですよ、ここには。

――そのリスクを背負ってでも3日間で方向性を分けようとした。

鹿野:去年さいたまスーパーアリーナの改修工事でゴールデンウィークに開催できなかったので、必然的に2日間の週末開催になったんですよ。そのときに「VIVA LA ROCKは2日でいいじゃん」と多くの人から言われたんです。みんな悪意で言ってないんです。ピュアな感想として「この2日間のブッキングが最高だった」と言われたんですけど、それでも僕はプロデューサーとしてその言葉は悔しかったんですよね。でもみんなが言っている言葉は民意ですから、それを受け止めるべきなのかどうなのか、ずっと葛藤してたんです。でも、今年は過去3年以上にロックフェスとしてブッキングをするべき対象が広がる可能性がある。これが一つの大きな流れになる可能性もある、そういう重要な年が2017年だなと思ったんですね。その代表は、わかりやすく言うとD.A.N.、yahyel、Suchmos、cero、そして水曜日のカンパネラなどです。SKY-HIも実にハイブリッドな音楽スキルを披露してくれて、本当にチャレンジャーで面白いんですよね。

――5月4日に出演するラインナップですね。

鹿野:そうですね。例えばSuchmosは、去年の夏の段階から今の状況が予想できていた。間違いなくジャンルを超えたブレイクをすると思っていたし、その人たちがこのフェスに出てくれることになった。これがものすごく大きかったです。さらに水曜日のカンパネラやceroがさらに大きな存在感を持つようになった。そういうところから、UNISON SQUARE GARDENやGotchやサカナクションのような、音楽性も広いし洋楽性や他ジャンルとの架け橋にもなっている極めて奔放な姿勢とスタイルを持っているアーティストも混じえて1日を作れば、VIVA LA ROCKが3日間のフェスをやる意味がちゃんと生まれるんじゃないかと。このフェスが掲げた2大目標の埼玉感っていうものは上手くいってるけど、ロック感というものが実感として上手く位置づけられているのがわからないっていう最大のクエスチョンに対しても答えを出せるんじゃないかと思ったんです。

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