アジカン、ウルフルズ、ペトロールズ……トリビュート&カバー盤が映すグループの本質と時代性

カバーした人々が際立つ、ペトロールズ&銀杏カバー

 アジカンやウルフルズが、バンドそのものも楽曲も知名度がある上でカバーするバンド、アーティストのセンスと力量が問われるベクトルの企画であるとすれば、バンド自体は知る人ぞ知る存在でありつつ、2017年のポップ・ミュージックの潮流とアーティスト間の交流を知るキーになる企画もある。トリビュートという位置付けではないが、ペトロールズのカバー・アルバム『WHERE,WHO,WHAT IS PETROLZ?』は、タイトルがそのスタンスを明示しているかのようだ。メンバーの長岡亮介(Gt / Vo)は、言わずもがな、東京事変での活動、そして休止後も椎名林檎の作品やライブのサポートを行い、星野源、大橋トリオ、illionの作品やライブ、THE BAWDIESの「SUNSHINE」のプロデュースから、『リオデジャネイロオリンピック閉会式』にも登場するという神出鬼没ぶり。

 長岡はカントリーやブルーグラス、そしてソウルミュージックなどをバックボーンにもつミュージシャンとしても知られるが、ペトロールズに関しては2007年のミニアルバム『仮免』から会場限定販売の作品が大半を占め、全国の店舗で販売された作品は未だ3作品のみ。その中でも2015年のアルバム『Renaissance』でようやく広く音楽ファンの評価を得た。

 そして今回のカバー・アルバムの参加アーティスト、バンドがこれからのポップミュージックをアップデートしていく存在ばかりなのだ。Suchmos、LUCKY TAPES、never young beach、Yogee New Wavesらは、いわば去年までの大雑把な「シティポップ」の括りを抜けた各々の個性をカバーだからこそ際立たせるだろうし、トラックメイキングの妙味を見せるSeihoもいれば、演奏者でありルーツミュージックを新しく咀嚼し続ける、Rei+NAOKI(LOVE PSYCHEDELICO)+ROY(THE BAWDIES)からなるR’N’Rもいる。「ペトロールズとは何か?」を探ると同時に、今年のキーマンも見えてくるという仕組みだ。

 また、昨年12月にリリースされた銀杏BOYZトリビュート『きれいなひとりぼっちたち』は、タイトルもこのバンド、ひいては峯田和伸のアーティスト性を言い当てており秀逸。同作にはクリープハイプやサンボマスター、そしてYUKIや安藤裕子ら女性アーティスト、女優の麻生久美子までが参加している。いずれもアーティスト自身が激情とイノセンスを併せ持ち、「好き」という感情のアンビバレンツにいい意味で引き裂かれている存在で、もはや"料理”というよりカバーした人そのものが際立っていたのが印象的だ。長く聴きたい作品としてリスナーからの要望も多く、5月にアナログ盤もリリースされる。

 時にトリビュートされるアーティストの本質を知ることができ、また時に時代をダイレクトに感じられる好企画が多く世に出る今春。気になるものからチェックしてほしい。

■石角友香
フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Skream!」「PMC」「EMTG music」「ナタリー」などで執筆。音楽以外にも著名人のテーマ切りインタビューの編集や取材も行う。

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