“ヒット曲”が久しぶりにテレビに帰ってきた レジーが年末音楽特番から考察

帰ってきた“ヒット曲”

コラボレーションは「テレビの武器」か、「手垢のついた手法」か

 『紅白歌合戦』を筆頭に、年末は大型音楽番組のラッシュである。思いつくだけでも『輝く!日本レコード大賞』(TBS系)、『ベストアーティスト2016』(日本テレビ系)、『2016 FNS歌謡祭』(フジテレビ系)、『ミュージックステーションスーパーライブ2016』(テレビ朝日系)と枚挙に暇がないが、個人的に一番印象に残っているのが12月23日深夜に放送された『クリスマスの約束2016』(TBS系)である。小田和正がホストの特番も今年で16年目。『紅白歌合戦』では中継での出演だったが宇多田ヒカルが実際に収録の会場に登場したことからも、この番組の特別さが感じられる。

 『クリスマスの約束』の初回となった2001年の放送では、小田和正が多くのアーティストに出演を依頼する手紙を書いたにもかかわらず誰一人として出演が叶わなかった。そこから少しずつ他のアーティストも出演するようになり、今年はついに宇多田ヒカルの出演に至った(彼女も2001年の際に出演依頼の手紙を受け取っていたアーティストの一人である)。ここ数年では和田唱(TRICERATOPS)をフィーチャーしたり、桜井和寿(Mr.Children)と曲作りを行ったりと、他の音楽番組とは一線を画した取り組みを行っている。

 小田和正のソロステージだった『クリスマスの約束』が今ではアーティスト同士のコラボを見せる番組になっているのが象徴的な変化のように思えるが、「テレビにおけるアーティストコラボ」が一般的なものとして定着しているのが2010年代の音楽シーンの特徴のひとつと言える。『クリスマスの約束』ではゼロ年代半ばからコラボを行っていが、こういった流れがより一般的になったのはおそらく2010年の『FNS歌謡祭』あたりだと思われる。それまで『僕らの音楽』(フジテレビ系)で行っていたその日限りのコラボ企画のノウハウをうまく発展させて、J-POPを取り巻く「みんなが知っている歌がない」という状況を懐メロの活用やアーティストの組み合わせの妙で突破した(ちょうど「CDランキングじゃなくて握手券ランキング」というような話が出始めたタイミングである)。

 それ以降、様々な音楽番組が「コラボ」の手法を日常的に取り入れるようになった。今年の年末の音楽番組に関しても、『FNS歌謡際2016』が同様の企画を継続させているだけでなく、『ベストアーティスト2016』ではジャニーズのグループがドラマ主題歌というテーマのもとに立て続けに登場し、『日本有線大賞』(TBS系)では48各グループと乃木坂46による「恋するフォーチュンクッキー」が披露された。また、この手の企画とは比較的距離を置いていた感のある『ミュージックステーションスーパーライブ2016』でも、小室哲哉とHYDEによる「DEPARTURES」、スキマスイッチと奥田民生による「全力少年 produced by 奥田民生」というリリース済みのコラボ楽曲がパフォーマンスされた(2013年のスーパーライブでも、EXILE HIROのMステラストステージとしてGLAYとのコラボ曲「SCREAM」が披露されている)。

 音楽番組におけるコラボ企画は、インターネットに対するテレビの明確な優位性のひとつである。それぞれのメディアがフラット化し、インターネットで提供されるコンテンツの質が高まったとしても、名のあるアーティスト同士を一緒にパフォーマンスさせることができるのは現状ではおそらくテレビだけである。こういった企画は、音楽シーンに対して音源のリリースやライブ、フェスとは異なる角度から話題を提供してくれる。

 一点留意しておきたいのは、コラボというもの自体へのありがたみは徐々に薄れてきている可能性が高いことである。『FNS歌謡祭』の視聴率はコラボ路線に大きく舵を切った2010年以降右肩下がりになっており、必ずしも今の路線が100%受け入れられているとは言い難い。様々な番組で比較的似たようなコラボが乱発されている中で、意外性や必然性が見えてくるコラボ以外は「いつものやつ」という感じで流されていく。

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