ボカロシーンは“静かなる前夜祭”の最中? 初音ミク誕生10周年へと向かう動きを追う

 近年のボカロシーンにおいては、「ボカロ曲に面白みが減った」という議論のなかで、クリエイターがステップアップの手段として、人気歌い手の歌唱を期待してボカロ曲を制作するケースが増え、ボーカロイドならではの尖った作品が生まれづらくなったからではないか、と指摘されることがある。そのなかで、一貫して“人が歌いたくなる”ものでありながら、“人ならぬボーカロイドが歌うこと”が強く意識されているDECO*27の楽曲が大ヒットを記録したことには意味があるように思える。バンドサウンドとエレクトロを軸にした耳に残る音と、言葉遊びに満ち、完全に無垢な存在であるボーカロイドが歌うからこそ生きる捻りの利いた歌詞――初音ミク誕生10周年を目前にして、「ゴーストルール」はボカロ曲の面白さを再認識させてくれた。

 初音ミク5周年のアニバーサリーソングで、ボカロファンのアンセムになっている「39」(作曲:sasakure UK)の作詞も手掛けたDECO*27は、今年どんな活動を見せてくれるか。2016年はメジャーでも質の高いポップスを送り続けているryo(supercell)も3年9カ月ぶりのボカロ曲「罪の名前」を公開しており、シーンを牽引してきたレジェンドたちの動向に期待の眼差しが向けられるだろう。

 一方で、前出の『初音ミクシンフォニー』、世界的な作曲家/シンセサイザー奏者である冨田勲の遺作となった『ドクター・コッペリウス』(11月)の上演など、初音ミクがリアルのステージに立つ機会と、そのバリエーションが増えたのも、2016年のボカロシーンを象徴する流れだ。4月には中村獅童と初音ミクがコラボした“超歌舞伎”=『今昔饗宴千本桜』が上演され、8月には渋谷慶一郎によるボーカロイドオペラ『THE END』(初演は2012年)がドイツ・デンマークで大成功を収めている。

 9月1日~3日、幕張メッセで3デイズの公演を行うと発表されている『マジカルミライ2017』をはじめ、未発表のものも含め、今年はアニバーサリーイヤーとして多くの関連イベントが開催されるだろう。楽曲、イベントとも、2016年を超える盛り上がりに期待したい。

(文=橋川良寛)

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