デヴェンドラ・バンハート×never young beachが語り合う、自分だけの音の作り方「自分に正直であるかどうか」

デヴェンドラ・バンハート×never young beach特別対談

「『エイプ・イン・ピンク・マーブル』の制作では考古学者になったような感覚だった」(デヴェンドラ・バンハート)

――主にライブでのあり方、曲調が変わってきたのはなぜなのでしょう?

デヴェンドラ:もちろん、チャレンジしたいから。やりがいを求めてのことなんだ。ただ盛り上がる曲だけじゃなくて、ちゃんと流れがある、静かにそのメロディを味わってもらえる曲も聴いてほしい。その中に、アッパーな踊れる曲があってもいいと思うけど……まあ、バランスだよね。ただ、僕はラッキーなことに、ノアやジョサイアといった友達が、僕のやろうとしていることをいつも理解してくれている。ノアに至っては本当につきあいが長くて……10代の頃からだから……もう20年くらい一緒にいるんだ。

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鈴木健人(Dr)

鈴木:彼らとデヴェンドラの関係ってどういう感じなんですか?

デヴェンドラ:実はこれだけ長く一緒にいるのに、ノアと遊びでジャム・セッションしたことなんて数えるくらいしかない。ミュージシャンとしてのつきあい以前に、良き友達、仲間として理解し合えているってことなんだ。普段から気が合うから、そのままのノリで音も出し合える。君たちにはそういう関係の仲間っているの?

鈴木:う~ん、D.A.N.とかかなあ。

安部:うん、そうだね。僕らと同じ東京のバンドなんですけど、彼らとは15歳くらいの頃からの友達で、不思議な縁があって今は同じレーベルに所属していて。ただ、一番の友達はやっぱりメンバーかなあ。一緒にいて笑い合ったり正直になれたりバカできたりできる関係っていうか。

デヴェンドラ:それは素晴らしいね。互いに本音を言い合える関係じゃないと長く続かないし、だからこそいいものも作れる、いい雰囲気でライブもできる、成長もするし、変化もしていけると思うよ。

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安部勇磨(Vo&Gt)

安部:そういう仲間との信頼関係があるからこそ、活動している中で歌詞も変化していくんですか? 僕、デヴェンドラの新しいアルバムの歌詞を見て、「ああ、こんなにわかりやすい、ラヴ・ソングとかを書く人でもあるんだな」ってちょっと驚いたんです。「デヴェンドラも恋をして失恋するんだな」って(笑)。

デヴェンドラ:(笑)。確かに初期の方が比喩やメタファーをよく使っていたね。あるものを表現する時に「まあ、こんな感じ」って言葉にしていたけど、今は具体的だったり、わかりやすい言い回しの方が新鮮だったりする。「これ!」ってズバリ言ってしまうようなね。「これはこれ」「あれはあれ」って感じで。ただ、一つ一つの表現はリアルだったりするんだけど、その前後の関係性とかでシュールに描いたりする。シュールっていっても、「時計が溶けている」みたいな抽象的な言い回しじゃなくて、もっとさりげない表現だね。そこをうまく使いながら、全体の物語を描いていく。今回の僕の新作はそこをすごく意識した作風の歌詞になっていると思うよ。

巽啓伍(以下、巽):確かにそれが織り混ざっている感じがします。

デヴェンドラ:だから、今までは「詩を音楽で表現」していたと思うんだ。でも今回は「詩的な歌詞で、ある場面を表現」するようにしている。そういえば、こないだ日本のラジオ番組に出た時にこんな歌を即興で披露したんだ。(メロディをつけて歌いながら)「エイゴデキマスカ~、カノジョニナテクダサイ~」。例えば、これが僕にとってのシュール。でも、すごく詩的ないい歌詞だと思うんだ。

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巽啓伍(Ba)

巽:そういう歌詞をバンド編成の中で聴かせる時、何か気をつけている点ってありますか? 僕はベース・プレイヤーなので普段は歌詞まであまり気にしてはいないんですが、デヴェンドラはそうやって少しずつ変化している歌詞の在り方とかをメンバーに伝えたり、それに応じたフレーズを任せたりするんですか? それとも自分である程度フレーズまで決めるんですか?

デヴェンドラ:ベースに関してはベーシストに任せるようにはしているけど、でも曲によっては僕も含めた3人でそれぞれ考えたりしてるよ。で、誰が作ったフレーズがいいかを競うんだ。誰が勝ち取るかかけたりしてね(笑)。コンペみたいにさ。ギター・パートは自分がデモで作ったものをそのまま採用する。シンセに関しては、そういうわけで、バンド内コンペにすることが多いんだけど、だいたい僕は負けるね(笑)。ドラムはグレッグ(・ロゴーヴ)に任せてる。ストリングスはちゃんとアレンジができる人にお願いするようにしているよ。大事な部分だからね。

鈴木:僕はドラマーなんですけど、リズム……というよりグルーヴと歌詞の組み合わせで面白いと思えるものってどういう作品がありますか?

デヴェンドラ:日本だとボアダムスとASA-CHANG。ASA-CHANGはタブラ使いがとても個性的だね。インドの楽器なのに日本人的だ。あと、ウチのバンドのグレッグがやってるHoopsってバンドも面白いよ。彼はトニー・アレンがすごく好きなんだけど、やっぱりアメリカの今の彼の世代ならではの、彼独自のフィルターを通して新しいものにしている。影響っていうより、インスピレーションなんだよね。だから、実は僕の今回のアルバムでは日本の琴も使っているんだけど、ギターで一度書いたフレーズを琴に置き換えたらどうなるか?ってことを試してみたんだ。これは結構大変だったよ。まるで考古学者になったような感覚だった。というのも、ただ、古典的な民族楽器を使うってだけじゃなくて、それを実際に感覚的にも“古い音”で出したかったんだ。だから今回、ジャンクショップみたいなところに出向いて、昔の電話機とか留守電機器の中に入っている古い、サビがついたような単二の電池をとにかく探したよ。バッテリーの余力がほとんどない、いわば“死にかかってるような電池”を見つけたら「これ譲って!」ってね。で、そういう死にかけの電池を用いたシンセの音って、やっぱり充電たっぷりの新品と違う、なんとも心がしめつけられる音になるんだ。もちろん、あとからProToolsで調整はするんだけど、その感じを出すことに今回はすごく大きな意味を感じていたんだよ。

安部:面白い! でも、なんとなく気持ちわかる。

デヴェンドラ:ただ、そういう死にかけの電池でシンセを弾いても、大体は4回くらい弾いたらもう完全にダメになっちゃって音が出なくなるんだけどね(笑)。でも、そうやってでも朽ち果てるものの音を表現したかったんだ。そういう意味でも僕はアナログ・レコードが好きだよ。

巽:デヴェンドラは日本のアーティストも詳しいし好きですよね。浅川マキさんや細野晴臣さんのファンだって聞いています。

デヴェンドラ:そう、金延幸子の「マリアンヌ」のライブ音源をレコードで聴きたいんだ。手に入るかな?

――正規盤としては当時も今も出てないですね。CDでは聴けましたが(『時にまかせて~金延幸子レア・トラックス』)、それも今は入手困難です。

デヴェンドラ:残念……CDじゃイヤなんだよね。ま、常に僕の中でナンバー1なのが細野晴臣。彼のレコードならどんなものでも募集中だよ(笑)。彼はとにかくすごい。毎作品、常にどんな時でも新しいことをやってるし、同じことを繰り返さない。それをずーっと今の今まで続けているってすごいことじゃないか。

巽:細野さんのことをどういう経緯で知ったんですか?

デヴェンドラ:まず最初は坂本龍一を知ったんだけど、ヴェティヴァーのアンディ(・キャビック)に、それなら……ってことで勧められて聴いたんだ。で、そのあとに、はっぴいえんど、YMO……とにかく彼が関わっているものを全て聴いたよ。朝比奈マリア、シーナ&ザ・ロケッツ、最近のだと『メゾン・ド・ヒミコ』のサントラとかもね。聴いてみて、いいな~って思ったものは大抵がホソノの関わってるものなんだよ。色んなジャンルの要素をとりいれた末に、自分だけの音を作るってこと、僕はそこを常に心がけているんだけど、彼はとっくの昔からそういうことをやってのけているんだ。例えば、「ウォリー・ビーズ」って彼の曲があるんだけど(『はらいそ』収録)、あれなんかはレゲエ・スタイルの曲なんだよ。でも彼はレゲエ・ミュージシャンじゃない。ちゃんと彼の中でレゲエを消化させて自分のモノにして、全く新しい曲として作り上げたんだ。おまけに歌詞には仏教用語のようなものも使われている。すごい曲だよ本当に。君たちは細野晴臣って聴く?

安部:大好きですよ! 特に“トロピカル三部作”はずっと聴いてます。『泰安洋行』が最初の1枚でした。

デヴェンドラ:ああ、『Bon Voyage Co.』ね!

巽:そういうレコードはどうやって手に入れてるんですか?

デヴェンドラ:うまくコミュニティを生かしてゲットしてるよ(笑)。あと、日本にくると時間を見つけてはレコード・ショップに行くようにしてる。散財して大変だけど(笑)。3枚買ったら1カ月の家賃分だったりしてさ!

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