長澤知之が語る、自分と他者に向けた“肯定”の視線 「汚点や恥も、見方によっては美しくなる」

長澤知之、自分と他者に向けた“肯定”の視線

「他人の人生のことを想像するようになった」

ーー一人のリスナーとして言わせてもらうと、今回の作品のこの感じ、すごくいいと思いますよ。過渡期的な作品ではなく、ここで最適解が出ているような気がしてます(笑)。

長澤:でも、次にどういうことをやりたくなるかは、まだ自分でもわからないから。「今回はこの感じです」としか言えないんですよね(笑)。

ーーでも、今回の作品で、すごく「大人の音楽」になった感じがするんですよね。音にも、新たに書いた曲の詞にも、ちょっと余裕が生まれてきた感じというか。

長澤:あぁ(笑)。

ーー今年2016年にデビューから10周年を迎えたってことは、長澤くんはデビューが22歳だったから、今32歳ってことですよね?

長澤:そうです。

ーーこれまでの曲には、10代の頃に作っていた曲もあって、そういう10代の思春期ならでは、青春期ならではの美しさっていうのはありますけど、20代ってなかなか自分の手に負えないところがあるじゃないですか?

長澤:そうですね(笑)。

ーーいや、もちろん20代の時にも長澤くんは素晴らしい曲をたくさん作ってきたわけだけど、人生全体の中で、自分自身のことも振り返って実感を込めて言わせてもらうと、一般的に20代ってわりとろくでもない時期っていうか(笑)。

長澤:なにごとにおいても中途半端ですよね(笑)。

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ーーそう。中途半端だし、個人的にも楽しい思い出とかはいっぱいあるんだけど、10代や30代の時のことは責任を負えても、20代の時のことには責任が負えない感じがあって(笑)。

長澤:わかります(笑)。社会には出てるのに、これからの人生どこに身を置いてやっていけばいいのかまだ定まってないから、振り幅みたいなものが一番大きい時期ですよね。

ーーだから、単純に今作で長澤くんが「落ち着いた」ってことじゃなくて、そういう時期を通り過ぎた人間ならでの焦点のピタッと合った感じが、今回の『GIFT』にはあるなぁと思って。

長澤:確かに、20代の頃に作ってきた作品の中には、「あれも欲しい」「これも欲しい」という感じで、散らかった部屋のような作品はあったと思います。それが、だんだん整理整頓もできるようになって、そこでできたのが今回の『GIFT』っていうのは、実感としてすごくわかるんですけど。ただ、自分としては、また今度は違うもので部屋が散らかっていくかもしれないっていう、そんな予感もあります。

ーーなるほど。でも、やっぱり10年プロとしてやってこれたっていうのは、大きな自信になっているんじゃないですか?

長澤:それに関しては、とにかくファンの皆さんと、スタッフへの感謝の気持ちが大きいですね。10年やってこれたっていうのは、自分の音楽を求めてくれている人がそこにいて、音楽を通して繋がることができたスタッフや仲間がいるっていうことですからね。特に、音楽を続けてきたことで仲間や友達ができたっていうのは、昔の自分にとっては考えもつかなかったことだから。もし、10年前のいつも一人で部屋の中にいた自分が今の自分を見たら、一番びっくりするのはそこでしょうね(笑)。

ーーあと、最近の長澤くんのライブを見るたびに思うんですけど、デビュー直後と比べて、男のファンの比率が上がりましたよね。

長澤:ありがたいことですね。もちろん、異性の方も同性の方もファンの方がいるってことは同じように嬉しいんですけど、自分が10代の時に音楽に夢中になった時の気持ちと似たような何かを、自分のファンが持っていてくれるとしたら、こんなに嬉しいことはないし、同性のファンを見てると、そんな昔の気持ちをより思い返しやすいっていうのはありますね。本当にありがたいです。

ーー今回の作品に収録された「アーティスト」や「ボトラー」という曲は、今の長澤くんのそういう新たな視点が入っているとてもおもしろい曲で。自分のことを私小説的に歌っているだけじゃなくて、そこにドキッとするような普遍性や、心を打たれる人間賛歌のような感覚が入りこんでいる。

長澤:そこは変わってきたかもしれません。それも、プロで音楽を10年やってきて、自分だけの閉ざされた世界から、他者と一緒にいる世界っていうのを感じることができるようになってきたからだと思います。自分の音楽を聴いてくれる人っていうのは、その人の時間を割いてくれるっていうことじゃないですか。そういうことへの感謝の気持ちもあって、歌の前提が変わってきたっていうか。簡単に言うと、自分の人生のことだけじゃなくて、他人の人生のことを想像するようになったんですよね。相変わらず独りよがりなところはあるんですけどね(笑)。

ーーうん。独りよがりなところは長澤くんの大事なチャームポイントだから(笑)、それもありつつ、でもそれだけじゃないなにか大切なことを歌い始めている気がしていて。「アーティスト」の<人はみなアーティストだから>って歌詞なんかも、そこだけ抜き出しちゃうと歯が浮くような言葉かもしれないけど、今の長澤くんが歌うとすごく説得力を持っていて。

長澤:いや、ほんとに最近そう思うんですよね。例えば、二日酔いで翌日トイレで吐いたりしてる時とかも、「あぁ、これも芸術なんだよな」って思えるようになったっていうか(笑)。自分のことも他人のことも、すべて肯定することができるようになってきたっていうか。

ーーその例だと、ちょっと肯定しすぎな気もするけど(笑)。

長澤:(笑)。でも、人の汚点だったり、恥だったりする部分も、見方によっては美しいものだったりするじゃないですか」。

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