BiSHの音楽的インパクトはどう生まれる? 松隈ケンタ楽曲の特徴を徹底分析

BiSHの音楽的インパクトはどう生まれるのか

 では、BiSHに提供した楽曲を聴いてみよう。BiSHとして初めて公開された楽曲「スパーク」は、50年代〜60年代のガールズポップや、モータウンを彷彿させるノスタルジックなナンバー。キーはFで、イントロは<F - Am - Gm - C - F>で、Aメロは<F - Am/A♭ - Gm - B♭m>の繰り返し。2小節目のAm→A♭という半音下降は、フォー・トップスの「I Can't Help Myself」を思わせ、4小節目のサブドミナントマイナーコードB♭mとともに、この曲のノスタルジックなムードに一役買っている。Bメロは、<C - C - Dm - Dm - C - C - Dm - Dm - Gm - C - B♭/FonA・Gm - F - F>で、サビは前段が<B♭ - C - Dm - Am7 - Gm - C - F - Dmsus4/Dm>、後段が<B♭ - C - Dm - Am7 - Gm - C - F>。メロディは突き抜けるような開放感に満ちているが、トニックコードではなくサブドミナントコード始まりのコード進行が、楽曲に浮遊感をもたらし、Am7とDmsus4のテンションノートが、胸をぎゅっと締め付けるような緊張感をもたらしている。この「緊張感と開放感」、「浮遊感と安定感」のせめぎ合いが、シンプルな楽曲にフックを与えているのだ。

 そして、今作『KiLLER BiSH』から「オーケストラ」。地鳴りのようなスネアの連打と、壮大なストリングスアレンジ、そして、切ないメロディが融合したドラマティックな楽曲である。キーはEで、イントロは<E - A - F#m - B>の繰り返し。Aメロも<E - B - C#m - D/B>の繰り返しという、非常にオーソドックスなコード進行だ。Bメロは、前段が<A/BonA - G#m/C#m - F#m/B - E/C#onF>で、後段が<F#m/B - G#m/C#m - F#m/G#m - A/F#7onA# - B>。そう、ここでも<A/BonA - G#m/C#m>という「小悪魔コード進行」が出てくる。ちなみに、ベースが半音上昇するE/C#onFや、A/F#7onA#というコード進行も、地味ながら楽曲にフックを与えている。サビは、前段が<E - B/Cdim - C#m/Bm - A>、後段が<G#m - C#/C#7onB - F#m/G#m - Am/B>。基本的にメロディは、コードの構成音を使ったシンプルなもの。そのぶん、前段2小節目後半のディミニッシュコードや、前段3小節目後半のBm(ドミナントマイナーコード)、後段4小節目前半のAm(サブドミナントマイナーコード)といった、ダイアトニックを逸脱したコードにハッとさせられる。

 さて、先ほどから何度も登場している「小悪魔コード進行」だが、実は本作『KiLLER BiSH』の中でも頻繁に用いられている。筆者が確認しただけでも「オーケストラ」のほか、「Stairway to me」のサビ(A/B - G#m/C#m - D#m7(-5)/G7 - C#m/C)や、「本当本気」のサビ(D - D - C#m - F#m/E)、「My distinction」(C# - D# - Cm - Fm/D#)、「Throw away」(F# - G# - Fm - A#m - D#m - F7 - A#m/G#onC - C#/Ddim)、そして「生きててよかったというのなら」(A#m - Dm - Gm - F - D#/F - Dm/Gm - Cm - F)と、アルバム13曲中6曲、つまり半数近い曲の中に存在しているのだ。ソリッドなギターカッティング、シンプルなメロディとともに、この「小悪魔コード進行」も、松隈ケンタの楽曲のトレードマークといえるかもしれない。

 ロックを基調としながら、様々な音楽的要素を組み合わせていく松隈ケンタ。彼の生み出すハイブリッドな楽曲に、今後も注目していきたい。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

ブログ:http://d.hatena.ne.jp/oto-an/
Facebook:https://www.facebook.com/takanori.kuroda
Twitter:https://twitter.com/otoan69

■リリース情報
BiSH『KiLLER BiSH』
発売:10月5日(水)
ALBUM+DVD -LIVE盤- 価格:¥5,980+税
Disc-1[CD]収録曲数未定
Disc-2[DVD]LIVE映像収録曲数未定

ALBUM+DVD -Loppi・HMV限定盤- 価格:¥4,000+税
Disc-1[CD]収録曲数未定
Disc-2[DVD]BiSHキャノンボール、Music Video収録
luteにて未公開のシーンも収録

CD 価格:¥3,000+税
Disc-1[CD]

■ライブ情報
BiSH Less than SEX TOUR FINAL'帝王切開'
10月8日(土) 東京・日比谷野外音楽堂 17:00/18:00

チケット料金
S席 ¥30,000(税込)※当日限定SPECIAL LIVE鑑賞権+お土産付き
A席 ¥10,000(税込)※お土産付き
B席 ¥5,000(税込)

チケット一般発売中
プレイガイド
チケットぴあ

BiSH Official Site

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