宇多田ヒカル『Fantôme』が音楽シーンの在り方を変える? 9月28日発売の注目新譜5選

山崎まさよし『君の名前』(SG)

 映画『ドラえもん 新・のび太の日本誕生』の主題歌「空へ」に続く、2016年2作目となるニューシングル。表題曲「君の名前」は、温かい日差しを感じさせるようなアコギのアルペジオを軸にしたミディアムバラード。願いを込めて付けた子供の名前を呼ぶたびに、愛情と切なさが入り混じった感情が沸き起こるーー親子、家族の自然な結びつきをシンプルに綴った歌からは、40代半ばになった山崎まさよしの、ソングライターとしての穏やかな変化が伝わってくる。スティービー・ワンダーが使っていることで知られる、クロマティック・ハーモニカの美しい旋律も印象的だ。

 カップリングには、山崎特有のブルース・フィーリングとポップスとしての魅力が自然に同居した「光源」を収録。自分とは何か? という問いから逃れられず、それでも光の在りかを求めようとする人間の姿を描いた歌詞には、すべてが情報となり流れ消える現在において、とても大事なメッセージを含まれている。自らのスタイルを丁寧に深めたサウンド、リスナーひとりひとりにゆっくりと語りかけるような歌がひとつになった、音楽の豊かさを実感できるシングルだと思う。

Base Ball Bear『増補改訂完全版「バンドBのベスト」』(AL)

 4人体制での10年間をコンプリートしたベスト盤『バンドBのベスト』(2013年2月リリース)の再編集盤。田淵ひさ子(toddle、LAMA)をゲストギタリストに招いた「祭りのあと」のリテイクバージョンを収録。また初回盤にはDVD未収録のミュージックビデオを完全収録した「映像版『バンドBについて』第三巻」が付く。

 2003年にインディーズ盤『夕方ジェネレーション』でデビューしたBase Ball Bearは、それまでのロックバンドのスタイルを刷新するような個性を最初から備えていた。緻密に構成されたコードワークとメロディ、そして、ダンスミュージック的なテイストを取り入れたアレンジが、その後のギターバンドに与えた影響は決して小さくない。代表曲を網羅した本作によって、その事実は改めて認識されることになるはずだ。

 今年デビュー10周年&バンド結成15周年を迎えたBase Ball Bearは11月から全国ツアーをスタートさせる。ギタリストの脱退という出来事に見舞われつつも、これまでのキャリアの総括と新たな音楽的ビジョンの獲得を目指して活動を続ける彼らの今後にぜひ注視してほしいと思う。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

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