欅坂46主演『徳山大五郎を誰が殺したか?』音楽担当が語る、“歌入りの劇伴”にした理由

欅坂46『徳誰』音楽担当が語る、“歌入り劇伴”の理由

「リズムが進行していかない感じの、しかも映画的な作り方にしたいなって」

ーー実際に収録現場を見に行ったことで、作曲へのインスピレーションを受けたりしましたか?

後藤:現場に行った時はほぼ曲が出来上がってたので、純粋に現場を楽しみに行くっていうだけでしたよね。というのは、去年個人的に乃木坂46にハマって。元々、アイドルの楽曲が好きだったんです。20年くらい前に、SMAPにどっぷりはまって影響を受けてたりとか。乃木坂は「制服のマネキン」とか「命は美しい」が「面白いな、いい曲だなー」と聴いていたんですけど。2月に豊島監督に呼ばれて『欅って、書けない?』(テレビ東京系)を観るようになって「なんや、この素人の子たちは」とすごい新鮮で。「サイレントマジョリティー」を聴いて「久しぶりにJ-POPで面白いのがきた」という「制服のマネキン」と同じ衝撃があったんですよ。素人の女の子たちが初々しく歌っているのを見て、「経験を重ねていって、ドラマが終わるころには一皮絶対剥けてるやろな」と。それを見届けたいと思いました。定期的に現場に行って、みんなの成長とか、ドラマに対する向き合い方とか……この仕事に関わる以上はこのドキュメンタリーをちゃんと見届けたいなと思って。

ーードラマの冒頭で流れる「徳山大五郎のテーマ」はアコースティックギターが特徴的なサウンドですが、これは「サイレントマジョリティー」を受けてのものなのでしょうか。

後藤:それは全然ないですね。豊島監督が「こういう感じの曲にしたいんだ」というのを実際にある映画で使われてる曲を持ってきたのを聴いて「ああ、分かりました」って感じで。ドラマの特性からそうなったっていうほうが強いです。徳山目線の曲が「徳山大五郎のテーマ」くらいなんですね。話の冒頭で使うっていうのは決まってたんです。鈴本(美愉)が「ナイフ!」って言って、文字が出てきて、語りがあって。役割として、「徳山大五郎のテーマ」はアコースティックギター、ほかはエレキギターのほうが主役というか。余談ですが、8話で吉田(浩太)監督から菅井(友香)の最後のシーンで「渋谷川」みたいなアコースティックで静かな感じの曲を作ってくれと、音の仕上げの前々日に言われて。でも仕上げの時に「すみません、作ってもらったんですけど変えていいですか」と言われて、見事にボツになってピアノの曲になっちゃったんです。僕は気に入ってたんですけど、サントラに「使われなかった」というタイトルで入れました。実はこの曲には秘密があるんですけどね。

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鈴本美愉
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菅井友香

ーーシーンの移り変わりに流れる「ララン ラ ラララン♪」という女の子の声も印象的です。

後藤:「ウクレレちるどれん」と「ぴあのチルドレン」での子供の声は僕の娘が歌ってます。「ウクレレちるどれん」が予告で流れてる曲なんですけど、それを娘に歌ってもらおうと思っていたら、娘に変な曲って言われたんですよ。変な曲と嫌がられたので、それを緩和するような楽しげな曲を急遽作って、慣らしておいてから2曲目にそれを録ればいいかなという作戦で。だから、使わなくていいやと思ったのが「ぴあのチルドレン」なんですけど、結局どっちも使われるっていう。スローモーションになるところとか、かなり使われてますもんね。

ーー今回のサントラは、ドラマのファンはもちろんですが、多種多様なジャンルの曲が収録されているので、ドラマファン以外の方が聴いても楽しめるサントラになっていると感じました。

後藤:嶋田さんにも言われたんですけど、自分ではそのバリエーションがあまり分からないというか。「いろんな曲があっていろんな音楽を知らないと作れないですよね」と言われたんですけど、僕普段、J-POPばっかり聴いてるんだけどと思って……(笑)。もちろん、ほかにもいろんな音楽聴きますけど、引き出しが少ないので自分の妄想で作ってることが多いです。僕の声が入ってる「シタイなんてヘッチャラ!」なんかは、「トム・ウェイツみたいなのをやりたいな」という提案を僕がしたんですよ。変わったことと言えば、トランペットを始めてすぐの人にトランペットをお願いしたりとか、ドラムを1年に1回しか叩かないような人にお願いしたり。上手い人は上手い人でサックスのKuske(KPLECRAFT)くんに吹いてもらって、そのバックでは打ち込みも緩い作りをしてるし、妙な世界を作るのに好きなことをさせてもらいました。絶対ほかの人はやらないやろうなと思って、打ち込みのドラムに下手なドラムを重ねて、タイミングをずらしたり。なるべくリズムが進行していかない感じの、しかも映画的な作り方にしたいなって。

ーー映画的というのを聞いて思ったんですが、全体をあまり変えずに、どこで切ってもいいような作曲の仕方はあえてですか?

後藤:そうですね。どのシーンになってもそういう風になるように考えてはいますね。そうは言っても、やっぱり編集は絶対必要なので、編集点のフックになる部分を作りながら、使われ方を想像しながら作りました。古厩監督は全然音楽を付けたがらないので、3話とかは音楽が比較的少ないんですけど、豊島監督は言葉きっかけで音楽を流し始めるんです。テレビドラマを観てると、不穏な空気を先に作ってからセリフを言うことがわりとあるのですが、そうじゃなくて、豊島監督はあるきっかけの言葉があってから音楽が流れるので、ギリギリまで何が起こるか分からないんです。そこが大きい。吉田監督はどっちかと言うと、先に音楽を乗せちゃうタイプなのかなって感じですね。あとは、短いメロディでなるべく成立するようには作ってます。CM音楽って短いところで展開を作るので、経験としてはすごく大きいですね。

ーーCM音楽はセリフも込みで本当に数秒の世界ですもんね。

後藤:15秒のCMだったら14秒しか音が入らなくて、セリフがあってそれを回避して……とか。曲の中に3つくらい展開があって、無駄なところをなくしたりとか、要は短いところでいかにそういう曲であるということを伝えちゃうかっていう作りだと思うので。コメディドラマはやっぱりパッと流れた瞬間にどういうテイストの曲か分かんないと、切り替えが効かないので。そういう意味では、今回Kuskeくんのテナーサックスは大きな役割を果たしてると思います。フレーズをあまり決めなかったので、オケに合うように狂った感じで演奏してって言ったら、最高に狂ったのを送ってきてくれて。サックスのフレーズだけで最後決めてるとか、流れで決めてるようなところは完全に僕の作曲じゃないですからね。曲としては僕の作曲ですけど、パーツ的に抜いてるから彼のおかげなんです(笑)。

ーーあのサックスは狂気的なものを感じさせます。話は変わるのですが、後藤さんは欅坂46の上村莉菜さんの個人PV「効果音ガール」の音楽・効果音も手がけていますが、担当することになった経緯を教えてください。

後藤:今回のドラマの音楽を作ってたときに、欅坂46の曲をよく聴いていて、「いつか楽曲提供をしたいな」と思ってたんです。Twitterに「楽曲提供をしたいな」とツイートしたときに、数分後くらいに「今、こんな企画が動いてるんですけど、通ったら相談乗ってもらえますか?」って友人のディレクターからDMが届いて。その時ドラマの音楽作ってることは公表はしてなかったからそのことを伝えたら向こうがびっくりしていて。その後、正式に依頼の連絡が来て、関わりたいと思ってたのがそういう形になりました。ドラマのクランクアップの日も撮影現場に行ったんですけど、お昼ご飯の時に上村さんが寄ってきて「個人PVありがとうございました」ってわざわざ言いに来てくれて。ドラマの時とは全然違いましたね。ドラマではたくさんいる中の1人だけど、やっぱりアイドルなんやなって。よかったですね、どっちも。

ーー効果音もたくさんの種類のものが使われています。

後藤:そうですね。足音は、銀座の博品館に行って音の鳴るおもちゃを買って、一個一個録音して音を付けていったりとか。劇伴と効果音をやる人ってほぼいないと思うんですけども、僕はゲーム業界からキャリアをスタートしているんですが、音楽と効果音を兼任することが多かったんです。今でも、よみうりランドの中にある「グッジョバ!!」というアトラクションの音を付けたりとかいろいろやってますね。ゲームだと『龍が如く』シリーズのムービーの足音や殴り音、金属音とか付けたり。「効果音ガール」は、上村さんのすごい可愛い部分がむちゃくちゃ活かされてると思いますね。

欅坂46 上村莉菜 『効果音ガール』

ーー最初に撮影現場で見た時のメンバーと、今とでは印象も変わりましたか?

後藤:だいぶ違いますね。最終話はびっくりすると思います。僕はその現場を見れなかったのが残念でしたけど。みんな犯人は誰かってことに注目してると思うんですけど、最終話ですごくいいシーンがあって。「これ犯人がどうのこうのっていうより、奇跡が起きたな」みたいな。実際音楽が繋がっていてすごくいいシーンだったので。かなりびっくりすると思います。

(取材・文=渡辺彰浩/写真=(c)「徳山大五郎を誰が殺したか?」製作委員会)

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■リリース情報
土曜ドラマ24「徳山大五郎を誰が殺したか?」オリジナルサウンドトラック
発売:
テレ東本舗。WEB 9月30日(金)
一般流通 10月30日(日)
価格:¥2,160
<収録曲>
1.徳山大五郎のテーマ
2.ぴあのチルドレン
3.シタイなんてヘッチャラ!
4.うっとりミステリー
5.シタイなんて...
6.サスペンスのはじまり
7.日常サスペンス
8.穏やかな教室1
9.少女たちの世界
10.フランス語
11.使った?
12.ごめんなさい
13.シタイなんてヘッチャラやん
14.シタイ、ハイ!
15.パーティー
16.穏やかな教室2
17.殺さないでください
18.グッドショウタイム
19.エレキミステリー
20.来週どうなるの?
21.ウクレレちるどれん
22.恐怖 - heartbeat
23.恐怖 - bell
24.恐怖 - clap
25.恐怖 - pad
26.恐怖 - beat
27.使えなかった
28.使わなかった

■番組情報
土曜ドラマ24『徳山大五郎を誰が殺したか?』
テレビ東京
毎週土曜よる0時20分~
出演:欅坂46ほか
企画・原作:秋元康
(c)「徳山大五郎を誰が殺したか?」製作委員会
土曜ドラマ24「徳山大五郎を誰が殺したか?」:テレビ東京

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