音楽フェスの未来はどこに向かう? 今年のRIJFとTIFからレジーが考察

音楽フェスの未来をRIJFとTIFから考察

「快適なフェス」において異彩を放ったKen Yokoyamaのパンクロッカーとしての姿

 イエモンと同様にRIJF初期の空気を感じさせるステージを展開したのが、14日のSOUND OF FORESTに出演した中村一義である。2000年の大トリを務める予定だったはずが前述のとおり悪天候で中止となり翌年の大トリでそのリベンジを果たした、というのがRIJFスタート時の最も大きなドラマだった。そして、2001年のステージのラストに初めて披露された「キャノンボール」が、この日の中村一義のライブにおいても最後の曲として演奏された。

 15年前にGRASS STAGEの大トリをこなしたアクトが、決して超満員ではない中規模のステージで演奏している。ライブそのものが素晴らしかったがゆえに余計に寂しさを感じさせるこの状況は、RIJFの15年間の変貌を非常にわかりやすく表している。初期のRIJFでは中村一義だけでなく、ラッパ我リヤ、KING BROTHERS、PE’Zなど、お茶の間とは距離のあるアーティストがGRASS STAGEに多数登場していた。ステージ数が増え、またロックフェスという娯楽が一般化していく過程で、アーティストの定量的なパワー(セールスや動員など)と出演ステージの間には比較的シンプルな相関が見られるようになっていった。

 エッジの効いたアーティストが複数のステージに点在し、規模の大きいステージにはわかりやすいアクトが集中する。そんな形でRIJFが音楽的に「間口の広い」フェスになっていく過程で同時に獲得していったのが、「フェスとしての快適さ」である。当初からトイレの多さにこだわるなどインフラ面への配慮はあったが、毎年のように行われる動線のブラッシュアップなど、会場の至るところに「参加者にストレスを感じさせないための工夫」が導入されている(今年から新たな設置された「まつかぜルート」もとても気持ちの良い空間だった)。また、時代の趨勢に合わせて、「フォトスポット」についても今年はさらに拡充されていた。定番となった「ROCK」というオブジェの前で写真を撮るために長蛇の列ができている状況からは、このフェスが「SNSとともにフェスを楽しむ層」のニーズにがっちり応えていることがよくわかる。

 「快適なフェス」を維持するには参加者の安全性の確保も必要になってくるが、そのためにRIJFでは「ダイブなどの危険行為の禁止」が徹底されている。そんなルールを飲みこんだうえで、本来はダイブが飛び交う光景を主戦場としているにも関わらず今年のRIJFのステージに立つことを決めたのがKen Yokoyamaである。今回の出演にあたって自身のコラム(Pizza Of Death Records『横山健の別に危なくないコラム』Vol.94)で真意の説明がなされていたが、よりロックンロール・パンクロックを広めたいというスタンスからの行動は昨年の「ミュージックステーション」への出演の延長線上にあるものと解釈できる。丁寧な曲紹介や「子供にロックをやらせたい親御さんは、他の軟弱なバンドなんか見せないで俺らみたいになれって言え」といった趣旨のMCからは彼の切実な思いが感じられたし、また演奏においても一曲目の「Punk Rock Dream」でのステージ上の空気がガラッと変わる感じや「STAY GOLD」でたくさんのオーディエンスがフロントエリアに駆け出していく様子は鳥肌ものだった。

 ただ、個人的な感想として、この日のステージから何とも言えない窮屈な印象を受けたのもまた事実である。アウェー感が渦巻く環境の中で「ルールを守って」「水分補給はしっかり」といった「優等生的」なMCを挟みながらライブを進める様子を目の当たりにするのは(本人が意識的にやっていることとはいえ)とても苦しかったし、「広く伝えること」と「そのために失わざるを得ないこと」の収支バランスがとれているようには見えなかった。

 昨年のRIJFに関する原稿(リアルサウンド『ROCK IN JAPAN FES.はなぜ拡大し続ける? 「ロック」概念の変化を通してレジーが考察』)を書いた際に「ロックフェスの歴史は、普段のライブとは異なる環境の中で苦闘するミュージシャンの歴史でもある。」という表現を使ったが、今年のKen Yokoyamaのステージはまさにこの状況を体現するかのような壮絶なものだった。フェスに関わる全ての人たちは、アーティスト、オーディエンス、運営、立場を問わずそれぞれが「魅力的な空間をともに作り上げる」ための関係性であってほしい。いつものRIJFでは感じないような感覚が、自分の中に去来した。

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