アノーニ、D・ルブラン、P・サイモン……岡村詩野が選ぶ、“新たなポップ哲学”を提示した上半期5枚

 あるいは、アーケイド・ファイアやザ・ナショナル周辺とも親しいLittle Screamは、スフィアン・スティーヴンスやシャロン・ヴァン・エッテンらが参加した『Cult Following』で、ディスコ、ソウル、アシッド・ジャズなどの要素を消化させた。だが、ただ彼女はそれら複数の音楽の要素から得たヒューマニズム、ユーモアなどを、ミステリアスな叙情性と優美さによってポップスを明確に再定義しようとした。再定義、という意味での極めつけはポール・サイモンの『ストレンジャー・トゥ・ストレンジャー』だ。アフリカン・ミュージックへの大胆なアプローチで話題を集めた86年の代表作『グレイスランド』への自らの回答のような一面を持った作品だが、彼より遥かに若いイタリア人アーティストのクラップ!クラップ!と組んで制作するような試みによって、ポップ・ミュージックとは常に挑戦することの上にある、というテーゼを伝えてくれている。

 これが筆者の選ぶ今年前半の5枚だ。自身の持つポップ・ミュージックへの価値観にどこまで信頼を置けるのか。作り手も聴き手も、今、その是非を突きつけられているように思う。

■岡村詩野
音楽評論家。『ミュージック・マガジン』『朝日新聞』『VOGUE NIPPON』などで執筆中。東京と京都で『音楽ライター講座』の講師を担当している(東京は『オトトイの学校』にて。京都は手弁当で開催中)ほか、京都精華大学にて非常勤講師、α-STATION(FM京都)『Imaginary Line』(毎週日曜日21時~)のパーソナリティも担当している。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「新譜キュレーション」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる