Sugar’s Campaignが考える、AIに対抗する音楽「知性を超えるために知性のない時代に立ち返る」

Sugar’s Campaignが考えるAI時代の音楽

「フィクションは、ポップスにとってすごく重要な要素」(Avec Avec)

――そうした経験を経て、今回の『ママゴト』ではどんなテーマが出てきたんでしょう? 以前Seihoさんのソロ作の取材中には、「Sugar’sの新作は『FRIENDS』で追究した『あるある』を超越して、もっと大きなテーマに向かっていくかもしれない」と話してくれました。

Seiho:今回は、「家族」がテーマです。僕らは前作で「あるある」を追究したわけですけど、「もっと超越したことをやろう」って考えたときに、たとえば個人の話をしたり、全体の話をするのって簡単だと思ったんですよ。前作のテーマだった「あるある」は、この「個人vs世界」の中で発生してるだけの現象だったというか。でも、「家族」ってそれとは少し違うじゃないですか? 個人ではない、「最小単位の社会」の話というか。

Avec Avec:それで家族とは何かを考えていったら、「血縁」よりむしろ、「自分ではどうしようもないことを引き受ける」ことかなと思って。僕らが超お金持ちの家に生まれてくるか、超貧乏な家に生まれてくるかは選べないですよね。子供にとって生まれてくる環境は必然なんです。でも同時に、卵子はひとつしかないけど、精子は無数にある。だから、子供のいる誰かがタイムスリップして、同じ時間に同じ場所でセックスしても、生まれてくる子供は一緒じゃない可能性があるというか。この入れ子構造が生の神秘、みたいな話をしたんです。で、そのとき無数に存在している「そうじゃなかったかもしれない世界」というのが、フィクション=物語で、それはポップスも同じだと思うんです。そういう偶然性を大事にしたいという気持ちが、今回の「家族」というテーマに集約されているんですよ。

――その壮大なテーマが、それぞれの楽曲では「ポテサラ」「ママゴト」「ただいま。」「SWEET HOME」のように日常的なモチーフに集約されているというのはすごく面白いです。

Seiho:そうですね。「ポテサラ」は、料理好きの男の子が女の子にポテサラ(ポテトサラダ)を作ってる歌なんですけど、「あの子はきっとこんな味付けが好きだろうな」って考えるのは、結局その男の子のエゴでしかない。でも、それは同時に相手のことを思って作ってるということでもある、という感じの曲で。ボサノヴァっぽい音はバカラックの影響ですね。

Avec Avec:「ママゴト」だと、これは父親から娘に向けた視点の歌で、「お互いがお互いの役割を演じているけど、それを超えた何かがある」というテーマの曲。もともと「ママゴト」って、演じるものですしね。お互いの役割を演じているようにみえるけど、最終的にはそれを超えて家族になる、みたいな内容なんです。

――「ママゴト」や「いたみどめ」にはいつになく直球の、90年代J-POPっぽいギター・サウンドが登場しますね。まるで王道を引き受けるような雰囲気で。

Avec Avec:「いたみどめ」は前作の「ホリデイ」「ネトカノ」同様、Seihoが入る前の(Avec Avec、akio、本作でも歌詞を2曲担当する小川リョウスケによるバンド編成の)Sugar’sの頃に作った曲なんで、むしろ戻ったということなんですけどね。でも今回のアルバムに入れてもいいなと思ったのには、そういう部分もあるかもしれないです。

Seiho:それに、「ママゴト」ではお父さんが娘に向けた内容の曲を、井上苑子ちゃんが歌ってるわけですよね。僕らはもともと父親の視点で理想の娘の曲を作りましたけど、それを苑子ちゃんが歌うことによって、娘から見た理想の父親の歌にもなっているんです。

Sugar's Campaign - ママゴト

――今回akioさん、momoさん、IZUMIさんといった常連組に加えて、井上さんにボーカルをお願いした決め手は?

Avec Avec:曲に合う人を探した結果ですね。一番等身大で歌ってくれそうだし、お父さんの視点の曲を娘が歌うときに、(2人がこの曲の登場人物として想像していた)娘役に近い人だと思ったんで。

――「ポテサラ」にも小さな女の子が参加していますね。

Seiho:(Isono)Miikaちゃんは5歳の女の子なんですけど、この子が歌ってる内容は俯瞰視点なんですよね。これがSugar’sっぽいと思って。子供が絶対に使わないような言葉を使ってるのも、Sugar’sのテーマでもある「大人と子供」みたいな話にかかってくるんです。

Avec Avec:前作『FRIENDS』はよくシティ・ポップって言われていましたけど、これも僕らとしては「子供と大人」「男と女」という軸があって、そこで「倒錯した子供のノスタルジー」として一番フィットしたのが、親と車で聴いていた7,80年代のシティポップやAOR、朝にやってる子供アニメの何故か大人びているED等だったという話なので。

――結果、今回の「ポテサラ」では5歳の女の子が〈あきあきとしちゃう/リベラル気取り〉と歌っているという(笑)。

Seiho:そうそう(笑)。最初に話したときに、アルバム全体で登場人物のトーンを揃えたかったんで、「お父さんはこんな感じ」「お母さんはこんな感じ」って話し合っていって。そのときに、「『頭いい赤ちゃん』ってヤバいな」という話になったんですよ。

Avec Avec:『天才バカボン』とか、『Dr.スランプ アラレちゃん』に出てくる賢い子供、みたいな(笑)。

――(笑)。じゃあ、他の登場人物はどんなイメージだったんですか。

Seiho:お父さんは、僕らに近いイメージの人。僕らよりは年上の30代半ばぐらいで、でも僕らに似たような職業の人にしようというのは決めてました。そうすることで、Sugar’sがこれまでやってこなかった「自分たちにとってリアルな問題」に取り組んだというか。

――それにしても、『ママゴト』から連想する「家族」「食卓」「家」のイメージは、どれもすごく牧歌的ですよね。若い人は経済の不調もあって結婚すら大変という現実もある中で、それでもみんなが理想とするような世界観が提示されているところが、この作品を魅力的にしているように思えます。

Avec Avec:僕は現実に寄り添えるのって、すごくリアルなフィクションしかないと思うんです。フィクションって、ポップスにとってすごく重要な要素だと思うんですよ。

Seiho:でも、前作『FRIENDS』はフィクションを追究しすぎたというのもあって、今回は自分たちにリアルな設定で、自分たちの都市で、現実の体裁をしたフィクションを作りたかったんです。「ママゴト」にしても、井上苑子ちゃんじゃない、僕らと同い年ぐらいの子にお願いすると、(父親の年齢と娘の年齢が合わず)歌詞が等身大ではなくなってしまう。等身大で演じてもらって、それをフィクションとして成立させることが大事だったというか。Takumaと家族設定について話し合った時も、なるべく不幸な家庭にはしたくないっていう思いがあったんです。もちろん、超幸せな家庭ばかりが必要というわけでもなく……。

Avec Avec:その多様性が大事、ということで。

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