藤原さくら『Soup』に感じる、福山雅治の“趣味性”の濃さ アメリカ南部へアプローチした作品に

 カップリングの残り2曲はカヴァー曲。「Summertime(佐野さくら with 神代広平 Ver.)」は、ジョージ・ガーシュウィンが作曲した、あまりにも有名なジャズのスタンダード・ナンバーです。無数のヴァージョンが存在しています。福山雅治の編曲により、彼のギターのみを伴奏に歌う藤原さくらは、英詩をブルージーに歌いあげており、意外なほどハマっていて驚きました。

 「500マイル(佐野さくら with 神代広平 Ver.)」は、ヘディ・ウェストが作詞作曲した楽曲。ヘディ・ウェストは、アメリカの南東部のジョージア州の出身です。ここでは、やはり福山雅治の編曲とギターのもと、忌野清志郎による日本語詞で歌われています。細野晴臣、忌野清志郎、坂本冬美によるHISの1991年のアルバム『日本の人』にも「500マイル」は収録されていました。この「500マイル」での藤原さくらの繊細な歌唱は魅力的です。

 福山雅治が全面参加した20歳のアーティストのシングル……と書くと華々しいですが、内容的にはカントリー、ジャズ、フォークを通じて、アメリカ南部へと驚くほど生真面目にアプローチしているシングルです。渋いほどに。これが日本で売れていることは痛快ですらあります。

 藤原さくらがシングルをリリースするのは『Soup』が初めてですが、シンガーソングライターとして、すでに3枚のアルバムをリリースしています(ミニ・アルバムを含む)。『Soup』には1曲も彼女の自作曲は収録されていませんが、「どんな音楽を作っているのだろう?」と興味を持たせるのに充分な企画盤が『Soup』だと言えるでしょう。そして、そんな興味を刺激するのが、全曲に関わっている福山雅治であることは言うまでもありません。

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

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