葛藤やためらいも…AKB48のメンバーは、いかにして『選抜総選挙』と向き合ってきたか?

 しかし総選挙の世間的な盛り上がりに停滞がみられるとして、それは必ずしもAKB48グループそのものの停滞を予測できるというほど単純ではないだろう。総選挙に対する彼女たちのためらいは、このイベントの持つ構造が、世間から必ずしも肯定されるものではないことも示唆する。であるならば、グループを動かす彼女たち自身が総選挙に対する問いかけの姿勢を隠さないことは、世の人々との価値観のすり合わせを新たな形で行なう契機にもなる。もう一歩俯瞰するならば、そもそも選抜総選挙とはAKB48グループにとって、数ある施策のひとつにすぎない。AKB48グループを維持することと、選抜総選挙を現行の価値観、現行の規模のまま恒久的に維持することとは同義ではない。AKB48グループの「第2章」は、静かに起こりつつある新たな価値観の胎動を、総選挙やその他の施策を通じていかに世に提示するかにもかかっている。

 とはいえ、総選挙上位メンバーが開票イベントのスピーチで見せる切実な姿は、このような傍目からの俯瞰とは別次元の重さを持っている。挙げてきたような諸々をすべて含み込みつつ、なおストレートにAKB48グループの現状を危惧する渡辺麻友や指原莉乃のスピーチは、幾重にも折り重なった葛藤をにじませたうえで、力強く組織を牽引しようとするものだ。あらゆる意味での巨大さを背負い込んで「現在」を動き続けるほかないグループを、それでも引き受けつつ道を切り拓こうとするその姿勢こそが、彼女たちを超越者にしているのだろう。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる